1965年に「日本青年海外協力隊」として初代隊員がラオスの地に降り立って以来、5万8千人を超える協力隊員が情熱を原資に99か国で活動してきました。この日本を代表するボランティア事業は、青年海外協力隊、JICA海外協力隊へと名称を変更しつつ、20世紀おわりから21世紀はじめの激動の時代を駆け抜け、変化と発展を遂げながら今年で発足60周年の節目を迎えました。
JICA海外協力隊には時代の変化に左右されない価値があります。異文化の社会に飛び込み、現地の言葉を話し、人々と同じ生活をし、一緒に課題解決に取り組んで汗を流す地域コミュニティに根差した協力のあり方は、発足当時から現在まで変わらず継承されています。これまでに派遣された隊員一人ひとりの現場での愚直な活動の積み重ねにより、世界中で地域の人々と隊員の相互理解が深まり、そして強い絆が育まれました。この「人と人とのつながり」は、隊員の任国と日本の信頼関係づくりにも大きく貢献してきました。
今日の世界は、気候変動、感染症、自然災害、経済悪化、紛争などが連鎖する複合的な危機に直面しています。世界の至るところで発生した対立や分断により、とりわけ途上国の脆弱層は「人間の安全保障」に対する脅威にさらされています。この未曽有の危機に対処するには、国を超えた地域や人々のつながりに基づく対応が必要であり、このつながりを生み出す国際協力の果たす役割はますます重要だといえます。
JICA海外協力隊は、発足から一貫して「人と人とのつながり」を大切にしながら事業を展開してきました。途上国に派遣された隊員一人ひとりは、草の根レベルで任地の人々と交流し相互理解を深め、異文化の中で共生する力を身につけ、途上国の経済や社会の発展や復興に寄与してきました。現場で地域の課題に向き合い、ともに解決に向けて取り組む姿勢から、途上国において日本人に対する信頼が培われてきました。隊員からは、ボランティアとして教えるつもりが多くを教わり、任地の人々とのつながりがその後の人生に活かされている話をよく聞きます。そして各国で活動を終了した後も、多くの隊員経験者が日々の生活や仕事の中で国籍や文化によらず他者を尊重し、思いやる気持ちと寄り添う心を持ちながら国内外の社会還元に貢献しています。世界を取り巻く様々な危機に立ち向かうためには、今まさに60年もの間、海外と日本の架け橋であり続けた協力隊事業の価値を再認識するべきではないでしょうか。
日本国内では少子高齢化や人口減少により過疎化と都市への一極集中が進行し、それに伴う新たな社会課題も生まれています。時代とともにJICA海外協力隊を取り巻く国内環境や協力隊員を志望する応募者の動機も変化しています。今後も日本のボランティア活動を代表する協力隊事業を継続し発展させるためには、対象年齢の見直し、新派遣制度の導入、パートナーとの共創、訓練の充実、環流の推進などに取り組み、事業そのものを革新する必要もあります。更なる事業の発展に向け、我々事務局は伝統の継承と革新の実行に不断の努力を続けていきます。
最後に、これまで世界99か国の任地で暮らし、人々に寄り添って活動を展開し、丁寧、誠実、謙虚に「信頼のバトン」をつないできたすべての協力隊員の皆様、またJICA海外協力隊の意義を理解し、隊員を愛し支えてくれた途上国の政府や地域コミュニティの皆様、更には日本国内で協力隊事業を応援してくれた政府や国民の皆様に心から御礼申し上げます。我々事務局一同、皆様のおかげで発足60周年の節目を迎えた「人と人とのつながり」を象徴するこの事業を通して、今後ますます途上国と日本国内を元気にするべく一層精進してまいります。
青年海外協力隊事務局
駒ヶ根青年海外協力隊訓練所
二本松青年海外協力隊訓練所
大塚卓哉第18代事務局長と事務局・訓練所スタッフ一同