その取り組みの一部をご紹介します。
青年海外協力隊の初派遣から60年の節目を迎える2025年度には、初年度派遣国(※)の在外事務所らによる記念イベントが続々と企画されている。
最初の派遣国であるラオスでは、10月16日(木)に首都ビエンチャンで60周年記念式典が実施され、ラオス政府から外務大臣や財務大臣、保健大臣などが出席。日本側からは小林 勉駐ラオス日本国特命全権大使やJICAの田中明彦理事長、協力隊ラオスOV会、1965年度1次隊の稲作隊員として派遣された大西規夫さんらが列席し、総勢200人以上のイベントとなった。式典では大西さんが60年前の活動の様子についての体験談を語ったほか、ラオスOV会長や現役隊員代表など、ラオスに関わってきた隊員たちからのスピーチが行われた。
カンボジアでは10月13日(月)に「歩みを止めず、想いをつなぐ」というテーマで式典が催され、来賓としてプラック・ソコン副首相兼外務国際協力大臣と植野篤志駐カンボジア日本国特命全権大使が出席したほか、JICAからは田中理事長と大塚卓哉青年海外協力隊事務局長が参加。派遣中の隊員やカンボジアの配属先関係者、OVなども含めて200人余りが参加し、隊員による活動紹介の発表も行われた。
フィリピンでは8月28日(木)、JICAと在フィリピン日本国大使館の共催での記念式典が日本国大使公邸で開催された。JICA議連から小渕優子会長ら議員一行が日本から赴いたほか、フィリピン政府関係者や議員、遠藤和也駐フィリピン日本国特命全権大使、派遣中のフィリピン隊員とカウンターパートなど多くの人々が出席した。比日議員連盟会長のフアン・ミゲル・ズビリ上院議員からの祝辞では、JICAの協力が防災や農業、公共インフラなどに大きな変化をもたらしてきたことが述べられ、最も尊いのは協力隊員による人と人との交流であるとして、これまでの隊員の功績に対して謝意が示された。
マレーシアでは日本人会のニュースレターにJICA事務所の企画調査員(ボランティア事業)や現役隊員、OVによる60周年記念リレー寄稿を連載中で、ナショナルスタッフの手による英文の記念チラシの制作・配布も実施。事務所では、今後に向けて記念リーフレットの制作なども計画している。
ケニア事務所は年明け26年2月に記念式典を予定しており、年度内は各国で協力隊発足60周年を祝う事業が続きそうだ。
※協力隊は1965年12月のラオスへの派遣を皮切りに、翌66年1月にカンボジアとマレーシア、2月にフィリピン、3月にケニアへの派遣が始まった。
最初の協力隊派遣から60年がたち、当時のOVたちの年齢は80歳を超え、初期隊員の中にはすでに鬼籍に入る人々も多い。そうした状況下、当時の派遣国の様子を伝える貴重な談話を残そうと、JICAと一般社団法人協力隊を育てる会により記録映像を制作するプロジェクトが2025年春から実施された。
予算はクラウドファンディングで広く募集したが、協力隊事業が発足した記念日でもある4月20日(日)に公開すると、当初目標の60万円を1週間で達成。5月末の募集終了までに約170万円余りの支援金が集まり、無事に映像制作にこぎ着けた。
映像では、協力隊派遣初期を知る人々として、矢澤佐太郎さん〈フィリピン/野菜/1965(昭和40)年度1次隊〉、花田眞人さん〈エルサルバドル/体育/1968(昭和43)年度1次隊〉、稲見広政さん〈タンザニア/自動車整備/1972(昭和47)年度2次隊、SV/自動車整備/1978(昭和53)年度4次隊〉という3人のOVならびに、青年海外協力隊事務局から最初の協力隊調整員としてエルサルバドルに派遣され、事務所立ち上げなどに奔走した望月 久さんへのインタビューを実施した。
記録は約35分のドキュメンタリー動画として編集され、9月13日(土)に聖心女子大学4号館(旧 青年海外協力隊広尾訓練所)で試写会が挙行された。11月13日(木)に都内で実施された「JICA海外協力隊発足60周年記念式典」の会場でも上映され、DVD化して各所での活用が見込まれている。
2025年9月13日(土)、JICA九州が協力隊発足60周年を記念し、帰国隊員社会還元表彰受賞記念講演会と60周年記念同窓会を開催した。九州各県の協力隊OVをはじめ、OV会、支援する会、専門家連絡会とその関係者など約70人に上る人々が参加した。
今年は、第3回JICA海外協力隊 帰国隊員社会還元表彰で福岡県出身の庄田清人さんと大分県出身の山路健造さんがそれぞれ賞に選出された(「Award Winners」参照)。講演はこれを記念したもので、オンライン配信も実施。講演の様子についてJICA九州市民参加協力課の渡久地 舞さんは「九州出身で地域の課題解決に尽力する2人の具体的な活動内容と『協力隊経験者の力が社会課題解決に必要』というメッセージに、参加者の皆さんは大きな刺激を受けて『一緒に頑張っていこう』という雰囲気が生まれていました」と話す。
講演会後には60周年記念同窓会が開催され、自身もタンザニアでの協力隊経験があるJICAの小林広幸理事も駆けつけた。「協力隊員として派遣された年代や地域・国はそれぞれですが、皆さんすぐに打ち解けて大いに盛り上がりました」(渡久地さん)。また、60周年を記念して作成した、帰国後に地域で活躍する九州出身OVの写真パネルも、域内各県での展示に先駆けてお披露目された。
講演に登壇した一人、山路さんは「長らく九州で活動していたので来場者も帰国後にお世話になった方ばかりで、妙に緊張感がありました。ただ、こうして帰ってこられるルーツの土地があるからこそ、さらに今の活動を頑張ろうという気持ちになりました。同窓会で久しぶりに会った方々からは講演や連携について打診を頂くなど、“協力隊”をキーワードにした新たな関係も築くことができ、とてもよい会でした」と振り返った。
今年、二本松と駒ヶ根それぞれの青年海外協力隊訓練所でイベントが執り行われた。
二本松訓練所では4月12日(土)に開所30周年記念イベントを開催。一般来所者も参加できる形式の催しで、メイン会場の講堂では協力隊や二本松訓練所に関するクイズ大会や、特別講座「学び直しの英語」など各種プログラムが行われた。並行して、サブ会場の広報展示室では、2015年に公開された映画『クロスロード』を上映。その他、元所長や現役スタッフによる来場者への施設紹介や、希望者には施設の裏側を見ることのできるバックステージツアーも行われるなど、大勢の来所者を楽しませた。また、訓練所食堂でのエスニックランチも楽しみに、県内外から足を運ぶ来場者が多く見受けられたという。
駒ヶ根訓練所では10月25日(土)から26日(日)にかけて「Home Coming Day-帰ってきた隊員たち-」と銘打ち、協力隊発足60周年を祝うイベントを実施。駒ヶ根訓練所出身のOVを中心に一般の来所者や2025年度2次隊の訓練生など140人以上が参加し、初日には駒ヶ根協力隊を育てる会の池崎 保会長のスピーチや、3人の駒ヶ根OVによるパネルディスカッション、協力隊60周年記念動画の上映といった催しが行われた。同日夕方にはイベント参加者による交流会の場も設けられた。
駒ヶ根訓練所のイベントでは駒ヶ根訓練所出身のOV先着40人限定で、25日の夜に訓練所の居室を宿泊先として提供。宿泊者は訓練生と同様の門限や消灯時間の下で思い出の詰まった訓練所に一泊し、翌朝にはラジオ体操や朝の集いにも参加するなど、訓練当時さながらの時間を過ごした。
マラウイ/看護師/2012(平成24)年度3次隊・
千葉県出身
2025年3月28日(金)にミャンマー中部で発生した地震被害に対して派遣された国際緊急援助隊(JDR)医療チーム一次隊の一員として、24年の第2回JICA海外協力隊 帰国隊員社会還元表彰の受賞者の一人である香川沙由理さんが活動した。
香川さんは、現地到着後の診療テント設営から携わり、のべ約1,200人の患者を診療した。「被災地は大きな建物が倒壊し、余震もあるため、路上でテント生活を送っている人々も。外傷(骨折、挫創など)や不安や不眠、食欲不振などを訴える人が多く来ました」。ミャンマー語の通訳者から現地の文化や習慣を教わり、プライバシーに配慮して診療するように心がけた。「緊張していた患者さんや家族に現地の言葉で挨拶や感謝の気持ちを伝えると、表情が穏やかになりました。協力隊経験を通して学んだ、現地の言葉でコミュニケーションを行うことの重要性を再確認しました」。
普段は日本国内の病院で外国人患者やその家族への医療支援、医療従事者への異文化理解研修の実施などに取り組んでいる香川さん。JDRには協力隊からの帰国後に登録し、今回初の参加となった。
「国内外の国際看護活動で得た経験と知識は私の強みの一つです。今後も研さんを積み、看護師として患者さんにより良い看護を提供できるよう努力していきたいと思います」
Text=工藤美和(News 3, 5)、飯渕一樹(News 1, 2, 4 本誌) 写真提供=ご協力いただいた各位