毛笠貴博さん

ペルーの自然保護区で森林と共存しながら栽培された
コーヒー豆を日本に初めて輸出しました

毛笠貴博さん

(ペルー/林業・森林保全/2022年度7次隊・愛知県出身)

JICA Volunteers’ Reports
ペルーを来訪した杉山さん(左)にアルトマヨの森の農園を案内する毛笠さん。農園では森林の木陰を利用し、有機農法でコーヒーを栽培している

   自然保護区の住人たちが森林保全に寄与しながら、コーヒーを生産し生計を立てる手段に充てる――その販路の一つとしてコーヒーを日本に輸出するというゴールを目指して活動に取り組みました。

   2022年8月、私はペルーに林業・森林保全隊員として派遣され、南東部クスコ州のマチュピチュ歴史保護区で、森林保全や住民の生計向上に取りかかりましたが、4カ月後、政情不安を受けて首都リマへ退避に。活動計画を立て、いざ実践へという時期だっただけに落ち込みましたが、動きを止めるべきではないと考え、リマ市営公園内の植物園を訪ね、ペルーに生育する木の育苗などの活動をしました。

   そして3カ月後の23年3月、配属先を変更して、ペルー北部に位置するアルトマヨの森保護区に赴任しました。保護区は広大で、霧が多い環境が森林の成長を促しています。具体的な要請はなく、“広く森林保全に資する活動”が望まれていました。保護区とその周辺のコーヒーの生産量は年間約370t。一時は農地開拓による森林劣化が進みましたが、現在は住民が森林を守りながら持続可能なコーヒー栽培を行っています。主な輸出先はヨーロッパやアメリカでしたが、特にヨーロッパで製品に課せられる厳しい規制に任地の農業組合が十分に対応できておらず、輸出制限のリスクがありました。そこで彼らが他の市場を開拓しようとしていたところ、タイミングよく私が赴任し、日本を含めたアジア市場に展開させていくという目標を立てました。

   もちろんスムーズに進んだわけではありません。日本ではペルー産コーヒーの認知度は低く、購入先がなかなか見つからない。そこで、輸入・焙煎を行っている日本の業者などにコンタクトを取り、サンプルを送るなど広報活動に励みました。しかし、興味を示す相手が出てきても、ペルーの組合側の輸出管理工程が整っておらずに頓挫し、1年目は手応えなく終わりました。

   そうした状況に変化が見えたのは2年目に入ってから。ある業者から紹介された、静岡県でフェアトレードコーヒーの輸入・販売業を営む株式会社豆乃木の代表が、「自然環境と共存しながらコーヒーを生産している」というストーリーに興味を持ってくれたのです。代表は偶然にも協力隊OVの杉山世子さん(ジンバブエ/ソフトボール/2000年度1次隊ほか※)でした。

   さらに幸運だったのは、ペルー政府の通商観光課に配属されている北郷未沙紀さん(輸出振興/2023年度3次隊)の協力が得られ、当初の課題だった輸出管理工程のフォローをしてもらえることになったのです。日本への輸出に向けて一気に歯車が動きだしました。

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郷土樹種を調査することや、住民に自然環境保全に関するワークショップを行うことも主な活動。写真はコーヒー農家でもある女性住民に森林資源について説明する毛笠さん

   輸出が実現するまで見届けるため、私は半年間の任期延長を決めました。その間に杉山さんが任地を訪れ、農家の人と交流して品質を確認。そのアテンドができたことは大きな喜びとなりました。そして25年3月に日本へ5tの輸出がかないました。任地の生産量に対して、まだ一部ではありますが、それでも大きな一歩を踏み出せたと思います。

   振り返ってみると、うまくいかなかったことのほうが多かったと感じます。ただその中にも、何かしら小さな“チャンスの種”がありました。杉山さんという理解者に出会い働きかけたこと、自分の足りない知見を持っている北郷さんや、やる気のある農家、組合の人を巻き込めたこと。そうした人とのつながりという“種”を見逃さなかったことが、成果につながったように思います。



※杉山世子さんはジンバブエのほか、短期/ケニア/ソフトボール/2003年度9次隊、短期/マラウイ/村落開発普及員/2005年度9次隊、短期/ブルキナファソ/青少年活動/2008年度9次隊に参加。


Text=池田純子 写真提供=毛笠貴博さん