ケニア/環境教育/2022年度3次隊・新潟県出身
大学卒業後、新潟県見附市役所に就職し、家業の農業との両輪で仕事を続けてきた。国際交流関連の部署で、県内に住む留学生の短期ホームステイプログラムを立ち上げたこともあり、自らも十数カ国の若者を受け入れた経験がある。定年を機に協力隊に参加し、帰国後の今も隊員時代に関わったケニアの学生への就学・学業支援を続ける。
市役所の定年退職を機に協力隊へ
憧れのアフリカでこれまでの経験を生かす
帰国後も、現地の若者を支援中
シニア世代で参加した池山久栄さんの場合
63歳まで地元の市役所に勤めた池山久栄さんは、定年退職を機に協力隊へ参加。ケニアで2年間の活動に従事した。幼少期から映画などの影響でアフリカに関心があったという池山さんにとって、ケニアへの派遣は長年の夢を実現させる体験でもあった。
市役所在職中は、日々の仕事や兼業農家としての農作業、同居する両親のことを考えると、海外を目指すことは難しかった。留学生を自宅に受け入れる経験なども通じて思いを強くした池山さんは、定年が近づくにつれ、協力隊に応募する計画を進めるようになった。
「旅行でアフリカへ行くことも考えましたが、協力隊で現地の人の思いや生活の姿を深く知りたいと思いました」
応募に際しては、自らの経験を考慮してコミュニティ開発や農業、環境分野の職種を検討。より経験を積みたいと考え、合格後、コロナ禍による待機で市役所に再任用されていた期間には、ごみ処理に関わる部署への配属を希望して勤務したりもした。
また、家族の理解も重要だった。特に健康面で家族を不安にさせないよう、応募段階から、大きな病院にアクセスしやすい都市近郊での要請を探した。また、兼業農家でもある池山さんの場合は田畑の管理も難題だったが、親類や近所の人に引き受けてもらえることになり、農業委員会などへの手続きも行った。
2022年秋に派遣前訓練に入った池山さんを待っていたのは、苦手な英語の“特訓”だった。大抵は訓練生数人で1クラスだが、池山さんは講師とマンツーマンで指導を受けることに。当時を振り返り「一対一では気を抜ける瞬間がなく、本当に大変でした」と苦笑する。それでも毎日、英語で日記を書くことを実践。辞書を使わず、知っている単語だけで書き、添削を受け続けた。
「ケニアへの赴任後、若い同期隊員から『英語力が伸びた』と言われたので、日々の努力がわずかでも役立ったようです」
池山さんが派遣されたのは、首都ナイロビから車で南へ2時間ほどの所に位置するカジアドという町。政府機関である環境管理公社の支部で環境教育に取り組む要請だったが、現地の状況は、日本の行政の現場になじんだ池山さんには驚きばかりだった。
「日本では税金でごみ収集が行われます。しかしケニアの場合、市民が業者にお金を払わない限り、ごみを取りに来てくれません。お金を払う人はめったにおらず、ポイ捨てが一般的です」
町の各所でもごみが山になっていた。池山さんは早速、自分のアパートと配属先の行き帰りで、ごみを拾う活動を始めた。そして路上のごみをつかむためのトングを自作したところ、興味を持った近所の児童が「これ何?」と集まり、ごみ拾いに参加してくれるようになった。
とはいえ、賛同や協力の輪はなかなか広がらず、「より多くの子どもたちにポイ捨てがいけないことを教えよう」と地域の学校に直接連絡を取り、学校を訪問しての環境教育に取り組んだ。
反応があったのは、住民が定期的にごみ拾いをしている日本やルワンダの写真をプロジェクターで映した時だった。児童から「カジアド、汚いね」と声が上がった。すかさず池山さんは「校内だけでもごみ集めをしよう!」と呼びかけ、集めたごみの中からペットボトルなどを分別。買い取り業者を見つけて持ち込むことで、雨水をためておくタンクなど学校の備品を買う資金にすることもできた。
ごみに関する活動を続ける一方、配属先の敷地内で植物園を整備することにも尽力した。赤茶けて殺風景だった敷地を区分けし、ベビーサンローズという多肉植物のほか、マンゴーやパパイヤといった果樹など約100種の植物を育て、緑あふれる場所にした。
「職員から『以前と見違えるように緑でいっぱいになったから、一緒に写真を撮って』とせがまれたりもして、気を良くして広げていきました。配属先を訪れる人も興味を持ってくれて、環境に対する意識づけになったのではないでしょうか」
定年退職後のシニア世代として、思いがけないメリットもあった。
「現地では年長者を敬う文化が根強く、私は配属先のメンバーの中では最年長だったので、それなりに尊敬して話に耳を傾けてもらいやすかったと思います」
活動を通じて、現地に心から信頼できる友人もできた。また、隊員有志の団体であるKESTES(※)に参加し、家庭の事情で自力での高校進学が難しかった学生を支援。25年1月に帰国した後もやりとりを続けている。「私自身も大学時代に奨学金に支えられた経験があり、活動に参加しました。気立ての良い若者で、彼を教えている先生はもっとポテンシャルがあるはずだと言うので、支援し続けていきたいと思っています」。
アフリカへの長年の夢が、定年退職後の今、新たな経験につながっている。
※KESTES…KEnya STudents' Educational Scholarshipの略で、人格・成績が優秀ながら経済的理由で就学できないケニア人生徒に奨学金支給や学習・生活のフォローをするケニア隊員有志の団体。現役隊員とOVの連携で運営され、40年以上の歴史を持つ。
かつて子ども時代の池山さんにアフリカへの興味をもたらしたのが、ケニアを舞台にした映画「野生のエルザ」。この物語は実話に基づいていて、登場するライオンのエルザの墓も、ケニア中部のメルー国立公園に存在する。池山さんは休暇の時にこの地を訪ねて“墓参り”をしたという。
「エルザのすんだ場所に行ってみたいという幼少期の夢がかないました」 また、若い頃に、キリマンジャロを背景にキリンが立つ風景写真を見て感動を覚えたことも、アフリカへの思いの源泉になっているといい、「そのキリマンジャロにも登頂することができました。協力隊が、昔からの願いをかなえるチャンスになりました」。
JICA海外協力隊は一般案件・シニア案件のいずれも、日本国籍を持つ20~69歳の方が募集対象となるため、定年退職後などに参加を決めるケースも少なくない。シニア案件は一定以上の経験・技能などが求められるもので、これまでの自身のキャリアを生かしたい方にお薦め。長期派遣ならば派遣期間は1~2年となり、「シニア海外協力隊」のほか、日系社会で活動する「日系社会シニア海外協力隊」がある。
Text=三澤一孔 写真提供=池山久栄さん