「JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)」(以下、GP)とは、青年海外協力隊・日系社会青年海外協力隊の合格者のうち、帰国後も日本国内の地域が抱える課題の解決に取り組む意思のある希望者が、自治体などによる地域活性化や地方創生などの取り組みにOJT(On the Job Training)の形で参加するものだ。合格から派遣前訓練開始までの間に原則75日間ほどの日程で行われ、全国に24の実施地域がある(2025年12月時点)。
本誌では2025年11月、熊本県北部の玉東町で活動する2人の実習生と受入機関に取り組みの様子を取材した。

JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)
玉東町で活動する竹内隆二さん(左)と崎本 翔さん(右)

地域イベントの準備から実行まで参画

「GPの実習生は町を盛り上げ、地元の私たちが気づかない町の良さを発見してくれる存在です。何かを始める起爆剤になり、それを最後までやり遂げてくれる実行力もある点を非常に評価しています」

   そう話すのは、2017年に玉東町役場を休職して協力隊に参加し、帰国後の今は企画財政課で主査を務める渡邉拓人さん(マラウイ/行政サービス/2017年度2次隊)だ。同町では町役場が受け入れを担う形で22年からGPが続いており、実習生はこの企画財政課に籍を置いて活動している。

   昨年10月上旬から2025年度3次隊派遣予定の実習生として赴任した一人が、崎本 翔さん(マダガスカル派遣予定/青少年活動)だ。熊本市街からわずか20kmほどの距離ながら山林が豊かな玉東町で、とりわけ目を引くのが町役場のすぐそばに鎮座する標高286mの木葉山。崎本さんが力を入れたのは、この山を舞台にしたトレイルランニング大会の実施である。過去に実習生がプレ大会を開催したのが始まりで、今年が2回目となる大会だった。


JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)
コースの整備に取り組む崎本さん。登山道の半分ほどは、前年の大会から人の往来がほぼなく放置状態だった

   赴任の翌週に関係者と共に木葉山へ登ってみると、登山道は荒れた区間が多く、8月に町を襲った豪雨災害の爪痕も生々しく残っていた。「ここを走らせるのか…」と思わずため息をついた崎本さん。11月15日の大会までの約1カ月で、役場の職員らと草刈りなどを行い、その後10回近く山に入って、コースを示すテープや標識の設置を進めていった。さらに自分ならではの活動として見いだしたのが、沿道の応援者を集めることだった。

「以前の開催時には観客がおらず、ランナー経験のある役場職員は『応援してくれる人がいなければランナーも寂しいだろう』と話していましたが、わかっていても手が回っていないのが実情でした」


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トレイルランニング大会当日、木葉山へ向かって一斉にスタートしていくランナーたち
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崎本さん手製の旗を持って沿道で応援をする住民。崎本さんは、ミカンが名産である玉東町のご当地ヒーロー「オレンジャー」のスーツを着用して参加した

   そこで崎本さんは町内の要所にポスターを張ったり、小中学校の児童・生徒全員にチラシを配布したりと広報に力を入れた。加えて、コースのうち1~2kmほど一般道を走る区間にある家を一軒ずつ回って応援を呼びかけた。

「当日は大勢でないものの、沿道に立ってくれる方々がいて嬉しかったです。参加したランナーからは、『今年は応援がいたね』との声を聞くこともできました」

   トレイルランニング大会を経て「大きな目標を一つやり遂げた」と充実感をにじませる崎本さん。残る12月半ばまでの活動期間では、大会の告知で訪ねた高齢者サロンへの訪問を継続するほか、児童が危険を感じた時に駆け込める“こども110番の家”の登録確認・マップ作りなどに取り組む予定だ。

「玉東町では周囲の誰もが日本人で、かつ役場やJICAの肩書で動きやすい面もあります。マダガスカルへの赴任後は、今の取り組み方よりも一層自発的に動かなければいけないのだろうとイメージを膨らませながら、この町での活動に取り組んでいます」


海外への赴任に向けて得た学びと刺激

   もう一人の実習生、竹内隆二さん(ホンジュラス派遣予定/青少年活動)は、児童館で働いてきた経験を生かして児童と関わる活動に取り組んでいる。

「放課後子ども教室などで鬼ごっこのようなアクティビティを行うほか、役場の学校教育課の方からの提案で定期的に学校へ出向き、世界の文化に関する絵本の読み聞かせをしています」

   加えて力を入れているのが、ふるさと納税の返礼品と共に送る礼状に、児童が描いたイラストを活用する企画だ。


JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)
竹内さんが主催して12月7日に玉東中学校の校庭で開催した「玉東レクリエーションフェスタ」には児童やその親など50人が参加。「役場からは、自発的な活動を促しさまざまなことに挑戦させてもらえました」と竹内さん

「役場でふるさと納税関連の業務を担当している職員の方から、お礼状が文章だけで雰囲気が堅いという悩みの声があったのがきっかけです。そこで地域の小学校や学童クラブに通う子どもたちに呼びかけ、玉東町の名産品の絵を描いてもらうことを始めました」

   できたイラストを取りまとめ、礼状に書く文章の草案も竹内さんが考えるなどして、フォーマットの作成を着々と進めている。礼状が実際に返礼品と共に送られ始めるのは2026年1月以降で、竹内さんが玉東町を離れて派遣前訓練に励んでいる頃、GPでの成果が全国の寄付者の手元に届くことになる。

   着任当初の右も左もわからない時期は、役場の中で情報提供や声がけがあれば何にでも挑戦してみたという竹内さん。そうした機会から町内のいろいろな場所に足を運んで得られる着想も多く、活動の範囲が広がっていったという。子ども関連の活動以外では、同町で地域おこし協力隊員が取り組んでいる在住外国人支援を手伝ったりもしている。

JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)
フェスタでは大きなボールを使ったサッカーや、手にせっけんをつけた状態でのドッジボールなどのアクティビティを実施。九州看護福祉大学から3人の学生ボランティアも参加し、場を盛り上げた

「工場や福祉施設で働く外国人材のために日本語能力試験の授業を行う教室や、地域の日本人と交流する“日本語カフェ”などが開かれていて、私も補助的に参加させてもらっています。難しい日本語を熱心に学ぶ彼らの姿を見ると、自分もスペイン語の勉強を頑張らなければ!と刺激になります」

   着任から1カ月余りで地域のさまざまな場所へ顔を出すようになっている竹内さんだが、まだ関係を構築していない人のところへ「○○をしたいです」といきなり飛び込み、まともに取り合ってもらえないような失敗もあったという。

「まずは相手の活動に参加して自身を知ってもらい、その上で新たな取り組みの提案をする。縁もゆかりもない土地で、丁寧に段階を踏んで活動していく経験は、ホンジュラスへの赴任後も生きるでしょう。かつ、地域の人々の温かさに触れて純粋に楽しい経験ができているので、ぜひお薦めしたいプログラムです」

JICA海外協力隊 グローカルプログラム(派遣前型)
児童が描いたイラストと手書き文を用いた礼状

GPが地域にもたらす新しい風

   受入地域である玉東町に対しても、GPは特別な影響があるようだ。町役場の渡邉さんは、「役場から現職で協力隊に参加し、最近復職した後輩職員がいます。彼は私がいくら参加を薦めても反応が今一つだったのですが、実習生の一人と親しくなったことで関心を持ったそうです」と笑う。他にも定年後の参加に関心を持つ職員が現れたり、職員の子が協力隊への参加を決めたりと、実習生の存在によって海外に目を向ける人が着実に増えてきているという。

   同町でのGP開始から、歴代実習生を見守ってきた渡邉さん。「約75日間の短い期間で、町に何を残せたのかと気にかけながら離任していく方が多くいます」とも話す。それは、派遣国での活動を経た協力隊員たちが現地に何を残せたのかと少なからず悩む姿に符合する。

「ただ、私はそうした懸念は持っていません。一見すると単発に終わった活動でも、住民たちにとっては継続しているもの。GPを通じて築かれた人間関係や仕組みが見えない形でも引き継がれ、時には後の隊次の実習生が再び取り組んだりもして、長い目で見ると町を巻き込んで代々続いています。新しいことを頑張る人のことは誰でも応援したくなるはずですが、そうした“風”が吹き続けていることが、地域にとって良い影響を与えてくれていると思います」

プログラムのスケジュール例

※2027年度1次隊合格者の場合。スケジュールは募集期・隊次により異なります。

応募
2026年春募集に応募
合否決定
2026年8月末合格
グローカルプログラム
2027年1~3月頃
派遣前訓練
2027年4~6月頃
派遣国への赴任
訓練修了後2週間~2カ月後

GPの詳細についてはこちら

GPの様子がわかる動画へ(in 長野県駒ケ根市)

Text&Photo(実習生近影)=飯渕一樹(本誌) 写真提供=ご協力いただいた各位