
ベナン/コミュニティ開発/2023年度1次隊・大阪府出身
中学生の時に国際協力に関心を持ち、ずっとその道を模索していた中、友人の勧めで協力隊を目指す。政策系の学部に所属していたが、ゼミで有機農業や染め物を学ぶ。ベナンを志望したのは、大学職員として勤務するOVに「初めての海外なら、人当たりの良いベナンがいいのでは」とのアドバイスを受けたため。2025年8月に帰国し、年末から日本の離島で水産業に携わっている。
大学卒業後、コミュニティ開発隊員として西アフリカのベナンに配属された長田真季さんは、この赴任が初めての海外体験でもあった。「着任したばかりの頃はこれから何をしようかという楽しみと、どんなことができるのだろうという不安が入り交じった状態でした」と振り返る。配属先は、ベナンの南部にあるザニャナド村落開発支所。「市場のニーズに沿って、売れるものを作る」農業を目指し、農家自らがスキルを身につけるSHEP(市場志向型農業振興)アプローチの導入と定着を求められたが、いきなり立ち往生。長田さんの知っている技術はすでに現地の人たちも知っていて、活動しようにも、できることがなかった。ようやく突破口が開けたのは、赴任から8カ月目のことだった。
「企画調査員(ボランティア事業)が、過去にSHEPで成功したベナン在住のOVを招いて知識を共有するイベントを開いてくれました。私とカウンターパート(以下、CP)、配属先長も参加し、そこで初めて現地の同僚たちに直接、SHEPを理解してもらえたことは大きかったです」
SHEPを展開させていこうと、配属先が選んだ対象農家は15軒。説明会では長田さんがパソコンを手に説明を始めたが、結果は芳しくなかった。
「事前の打ち合わせ不足のため途中でCPから“待った”がかかって壇上で話し込んでしまい、そのうちに15軒いる農家の中の10軒ほどの人が帰ってしまいました。外国人がいきなり話しだして、さらに何やら壇上でもめ始めたら、わけがわからず帰るのも当たり前でしょう。私が前に出て話すより、ベナン人の同僚から伝えてもらうのがいいと痛感しました。失敗だったと思いますが、それを生かし、私が裏方に徹するやり方に変えたことでスムーズに進むようになりました」
まさに“へこたれない力”がついた瞬間だった。また、活動の中で忘れられないことがもう一つあった。
「対象農家には学校に行っていない方も多く、計算が苦手な人もいます。ですが、計算を一から教えるのは難しいので、彼らのスマートフォンの電卓アプリを使って教えてみると、計算の仕方を覚えてくれました。それを見ていたCPが『それいいね!』と、別の農家グループでも採用するなど、私が教えたやり方を取り入れてくれたのは嬉しかったです。これが“現場力”が身についた瞬間かもしれません」
1年目はSHEPと並行して、先輩隊員から引き継いだコンポストの導入も行った。農家への研修では理解されたと認識していたもののフォローアップが足りず、1カ月後、渡したコンポストは捨てられていた。「ショックもありましたが、それよりも『来たか!こうして思い通りにいかないことこそ途上国らしい経験だ』とむしろ前向きになりました」。
2年目は小学校で学校菜園と栄養指導に取り組んだ長田さんだったが、子どもにフランス語が伝わっていないことや、校長が乗り気ではないといった理由から、なかなか手応えを感じられなかった。うまくいかないことは重なり、その頃、月に2度も高熱が出るなど体調不良の頻度も上がった。
「いったんは回復しましたが、その時期に配属先のインターネット環境が悪くなり、しばらく家で作業をすることにしました。ですが、コンクリート造りで日光があまり入らないわが家にずっといるうちに、だんだん外に出ることすらおっくうな気分が募ってきました。さらに、新しく立てた企画を提案しに配属先に行くと毎回皆が不在にしている。本当にタイミングが悪く、どんどん落ち込んでいきました」
苦しい状態はトータル2、3カ月にわたったが、スランプからの脱出は突然訪れた。
「ある日、自転車で出かけてみると世界が変わって見えて、ああ明るい、大丈夫だと急に感じました。恐らく、頑張り過ぎて心身共に限界がきていたのでしょう。最後までやり切るために、もう無理はしないと心に決めました」
“リスクマネジメント能力”を改めて意識した長田さんの任期は残り3カ月。できることが限られている中、CPから「君の持っている知識を全部知りたい」と言われた。そこで改めて奮起して、取り組んだのが草木染だ。
「CPは知識欲が旺盛な人で、経営的な視点から、草木染をビジネスにつなげようと考えていたようでした。近くで集めた木や葉を煮出していろいろ試してみて、これで女性たちが手仕事をして販売できたらいいねと話しました」
自身の活動では「あまり成果を上げられなかった」と悔しげに話すが、協力隊で培ったへこたれない力や現場力は、さらに磨いていきたいと話す。
「帰国して、日本の離島で水産業のお手伝いをしていますが、ここでも自分のやりたいことを伝えていきたい。否定されることがあっても、その過程で意見が洗練されることもあるので、積極的に発信していきたいですね」
今後の夢として農業をしながらゲストハウスを営むことを挙げる長田さん。さらに、いつかベナンで作った商品を日本で売ってみたいとも目を輝かせる。
私自身、先輩隊員からアドバイスされたのが「挨拶は大事」ということ。ベナンの文化では「おはよう、よく眠れた? 元気? お母さんは、お父さんは、子どもは、家は大丈夫か?」などと挨拶の定型文が長いのですが、こちらから笑顔で挨拶をすると、人々から話しかけられることも増えました。挨拶は万国共通だと思うので、ぜひ意識してみてください。

Text=池田純子 写真提供=長田真季さん