途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力

一人ではできなくても“働きかける力”があれば、
活動は大きく展開していく!

平井優子さん
平井優子さん

フィジー/高齢者介護/2023年度7次隊・大阪府出身

専門学校卒業後、協力隊の存在を知って説明会に参加するも、スキルも経験も足りていないと感じて応募は断念。その後、介護施設での9年半の勤務を経て改めて協力隊を志して応募し、合格。派遣先はスリランカの予定だったが、現地情勢の影響でフィジーに変更となる。2025年4月の帰国後、現在は日本国内で訪問介護の仕事に携わっている。

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力
車椅子の修理をする平井さん。自身の発想の中では新しいものを購入するイメージしかなかったが、技術を知る隊員のおかげで自ら修理するという選択肢を得られた

   鹿児島県の介護施設で介護福祉士として働いていた平井優子さん。高齢者介護隊員としてフィジーの首都、スバ市の公立高齢者介護福祉施設に着任した時は、モチベーションが最高な半面で、自身に何ができるかわからない不安も持っていた。しかし配属先で活動する協力隊員は平井さんで3人目だったこともあり、「入所者にアクティビティを行ってほしい」などと要望は明確だった。

「まず配属先が希望する活動に取り組むことから始めましたが、アクティビティをしようにも、日本のように道具がそろっているわけではありません。新聞を丸めたボールをバケツに投げ入れるなど、身近なものでできるゲームを考えました」

   不足していたのはアクティビティなどの道具だけでなく、介護施設として必要な資機材も同様だった。

「日本の介護現場でビニール手袋のような消耗品が足りない状況はまずありませんが、配属先では限られた数でやりくりしていました。さらにほとんどの車椅子のブレーキが壊れていて、利用者の乗り降りの時などに危険を感じることも。新しいものを買うこともすぐにはできないので困っていましたが、同期の船舶機関隊員に見てもらうと『修理すれば使える』とのこと。私も簡単な直し方を教わって、施設内の車椅子を直して回りました」

   あるもので何とかしていく“現場力”と同時に、専門性の違う周りの隊員を巻き込む“働きかける力”を発揮しながら、活動を順調にスタートした。しかし着任から5カ月ほどたった頃、思いがけないトラブルが起こる。

「職場で、ヒゼンダニが皮膚に寄生することで起こる疥癬という感染症にかかり、自宅隔離になってしまいました。とにかく体がかゆくて夜も眠れず、薬が合わなかったこともあり、3週間ほど家で過ごすことになってしまいました」

   何もできず、気持ちばかりが焦る。そうした中、JICAフィジー事務所の企画調査員(ボランティア事業)から「家でもできることがあるはず」と励まされ、日本の施設で働いていた時に取り組んでいた“施設内新聞”を作ろうと思い立った。

「介助・介護時の声がけの仕方など、気をつけるべきことを同僚たちに面と向かって注意しにくかったのですが、この新聞に書くことでそれとなく伝えるようにしました。データを施設職員のグループチャットで流したところ、カウンターパート(以下、CP)が管轄省庁の職員グループチャットにも共有してくれて、そのうち読んだ人からハートマークがついたり、『これってどういうこと?』と実際に相談が持ちかけられたり、だんだんと変化が見られるようになりました」

   配属先の皆に「新聞を作っている人」として知ってもらえるようになったことは、周囲になじんで活動を進めていく上でも大いに役立った。

現地の価値観に学び、帰国後の進路を決定

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力
配属先の仲間たちと平井さん。3代目の隊員だったこともあり、日本人ボランティアの存在にも皆が慣れていて、活動しやすかったという

   活動を続ける中で、今まで見えていなかった課題も見えてきた。体操やもの作り、ゲームといった入所者向けアクティビティへの、男性参加率の低さだ。

「女性入所者の場合は平均して50%ほどが参加しているのに対し、男性は10~20%。女性と比べて男性は集団での活動に抵抗がある様子でした。理学療法士隊員の協力で、アクティビティの一環として個別の筋肉トレーニングやリハビリを始めたところ、参加率は30~40%と上昇しました」
 平井さんが提案したアクティビティは他にもある。

「フィジー博物館で活動している学芸員隊員からの提案で、昔の風物の写真などを通じて高齢者と対話を行う“回想法”という心理療法を実践しました。入所者の方々には思い出を語ることで認知症予防や自己尊厳向上といった効果がある一方、学芸員隊員も昔のフィジーの様子を聞き取ることができて一石二鳥。実際、昔のことを話すのは楽しかったようで、皆いつも学芸員隊員が来るのを待ちかねていました」

   周囲の人々の専門的な力も借りながら一つひとつ成果を上げていった平井さん。「新聞を作るのも楽しく、車椅子の修理やアクティビティなどのタスクを行うことにも慣れてきました。このまま楽しい時が続けばいいのに、という日々。任期満了の半年前頃には、省で出す『高齢者虐待防止週間』のポスター案をCPから依頼されて、それも自信になりました」。

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力
平井さんが作った施設内新聞。誌面はオンライン編集ツールを使用して自作した

   しかし任期満了が近づくと、改めて“異文化理解・活用力”を求められるような状況に出合う。

「国内にある同じ系列の施設でも車椅子の修理をしてほしいとの話があったので、実際の訪問を調整しようと各施設長にメールを送ったのですが、なしのつぶて。現地の人たちは連絡しても返ってこないことが多く、それは慣れるしかない。車椅子の修理法は現地職員にも教えたいと思っていましたが、あまり関心は持ってもらえませんでした。心残りなこともありましたが、新聞制作の取り組みのように、職場の文化が少しずつでも変わったと感じる場面も多々ありました」

   帰国後、平井さんが取り組んでいるのは、施設介護ではなく訪問介護。

「フィジー人は高齢者も含めて今を楽しむという価値観の人たちで、いつかは死ぬのだから最後まで好きなことをしたい!といった感覚が当たり前です。施設介護ではどうしてもルールに従わなければいけない側面があるため、最後まで自宅で自らの好きに生きていきたいという日本の高齢者の方をサポートしたいと考えるようになったのは、協力隊で見たフィジー人の生き方の影響が大きいと思います」

現役隊員へのメッセージ

協力隊員が任地の人に嫌われる原因は「上から目線で接する」「正論を振りかざす」「配属先の体制を変えようとし過ぎる」の3つ。まさにこれで失敗した隊員の話を聞いたので、気をつけていました。大切なのは相手や環境にこちらが合わせ、目の前のことに黙々と取り組むこと。そうして2年たったら、必ず成果が出ます!

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力

Text=池田純子 写真提供=平井優子さん