途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力

配属先が移転、要請も白紙に。
“働きかける力”を発揮して自らの活動を模索

佐藤佳奈恵さん
佐藤佳奈恵さん

キルギス/観光/2023年度1次隊・北海道出身

バックパッカーをしていた頃に国際協力に関心を持つも、日常の忙しさに紛れて思いを忘れていた。北海道の観光会社でインバウンド担当をしていたが、コロナ禍で業務がなくなり、社内公募でファイナンス部署へ異動。その際にマダガスカル人と業務を共にしたことがきっかけで国際協力への関心が再燃し、協力隊に応募した。帰国後の現在は外国人就労者を支援する会社に勤務中。

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力
スライドを見せながら3年生の学生たちに日本社会についての講義をする佐藤さん

「赴任して現地語学研修を受けている最中、大統領の一声で配属先のある建物を高校として使用することが決まり、いきなり活動先が移転するという予期せぬ出来事がありました」と苦笑する佐藤佳奈恵さん。配属先である国立大学付属日本学院が、元々の独立したキャンパスから大学のメインキャンパスへと急きょ移ることになったのだ。新学期のタイミングでの混乱もあり、佐藤さんだけでなく、同僚たちも仕事をできない状態が1カ月半ほど続いた。

   元々要請されていたのはホテルサービス学科の学生に向けた演習で、客室の清掃・整頓やレストランでのサービスなどを教える予定だったが、移転の影響で教室や備品が確保できないため実施が難しいと判明する。そうした中、活動に関する要望はただ一つ、「学生たちと日本語で話してほしい」ということだった。学院は日本で働く人材を育成するビジネス専門学校だが、佐藤さん以外にネイティブの日本人がおらず、学生は日本語を話し慣れていなかった。

「実技なしで観光についての座学ばかり行うより、日本語のコミュニケーションも含めて職場で使えるスキルを教えようと思いました。日本で働くならば、時間厳守や“報連相”など、チームでの働き方を理解することが大切。そうすれば、どんな業務でも応用が利くでしょう。また、日本は地震大国なので防災の知識も大切ですし、日本語会話と共にそうしたことも教えたいと考えました」

   佐藤さんの方針に配属先も全面的に同意。佐藤さんは、まず授業で見せるスライドの作成を進めた。

「言葉で伝えるだけでなく、イラストや映像を使ったスライドを見せて、理解を促しました。また、発話を重視していたので、学生にどんどん質問を投げかけて答えてもらう形式に。例えば『もし自由な時間があったら何をしますか』といった質問を、漢字に振り仮名をつけた形でスライドに投影します。学生にそれを日本語で読み上げてもらい、質問に答えてもらったり話し合ってもらったりと、正解・不正解のない質問で会話の機会を増やしました」

自分一人でできることも、あえて相談する

途上国での活動を経た先輩隊員に聞く!協力隊で身につく19の力
“日本デー”のイベントでの学生たちと佐藤さん。学生と積極的に話して交流するうちに、佐藤さんも日本のアニメ声優にハマるなど、新たな興味・関心が開けた

   工夫を凝らして授業を行っていた佐藤さんだったが、その取り組みを配属先関係者に知ってもらわなければ、任期終了後の継続性に課題が残る。

「カウンターパートもいなかったので、自分から同僚の先生たちに関わっていかないと、何をしているのかもわからない存在になってしまいます。そこで他の先生方に積極的に声をかけ、学生の日本語レベルを聞いてみたり、難しい日本語をキルギス語で説明する時の言い回しを一緒に考えてもらったりと、あえて相談を持ちかけるようにしました」

   まさに“働きかける力”につながる行動だった。さらに教員だけでなく、学生にも働きかけた。

「学生たちに日本の何が好きなのか聞いてみると、アニメなどが挙がりました。さっそく私も動画配信サービスなどで見て、授業でも取り入れると好評でした」

   学生への働きかけとしてもう一つ、日本の高校生や大学生との交流の機会を設けた。

「札幌市の公立高校とオンラインでつないで交流会をしたり、インターンでキルギスに来ている日本人大学生に参加してもらったりして、生の会話をする機会を増やすようにしました。最初はトークテーマなどを決めていたのですが、同世代だけにすぐ打ち解けて『好きなタイプは?』などと話して大いに盛り上がっていました」

   学生の会話力は飛躍的に伸びていったが、それでも伸びない子もいる。“難しい日本語”を使っていたからだと佐藤さんは気づいた。

「例えば、地震についての説明で『揺れが発生したら』や『すぐに避難してください』という表現は難しいので、『もし揺れたら』『すぐに逃げてください』などと平易な言葉で話してみる。そして『逃げる』もわからない子は、わかる子にどういう意味か日本語で説明してもらうようにしました」

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任期終盤に2年生の学生たちと行ったピクニックの様子。3年生はレストランを予約して食事会を開いてくれた。「できればまだしばらく現地にいたいと思いました」

   ここで自分の意見をわかりやすく伝える“発信力”が培われたのではないか、と振り返る佐藤さん。赴任と同時に活動先が移転となり、出鼻をくじかれたとはいえ、半年過ぎてからの活動は順調そのもの。学生の多くの会話力が磨かれ、佐藤さんの授業を参考にしたいという教員も増えてきた。任期満了が近づくにつれて、佐藤さんの中に芽生えてきたのが“社会貢献意識”だった。

「自分のできることを還元していくと、学生の成長があり、それに感謝してもらえて、自分も嬉しい気持ちになる。これこそが社会貢献意識なのかなと実感しました」

   日本語の挨拶すらできなかった生徒が、日本語弁論大会で堂々とスピーチしている姿を見て、嬉しさから泣いてしまったという佐藤さん。実りの多い2年間の任期を終えて帰国してからは、また新しい世界に踏み出した。

「外国人就労者を支援する仕事をしたいと漠然と思っていたのが、協力隊活動を通して明確になり、外国人就労者を支援する会社に転職しました。今はまだ私自身が研修中ですが、いずれキルギス人の技能実習などにも関わりたいです」

現役隊員へのメッセージ

物事は捉え方次第で幸福度が変わります。例えば時間の感覚。任地で待たされることにストレスを感じる隊員もいましたが、私は日本で働いていた時から、国や地域によって時間の長短の認識が異なることを知っていたため、キルギスでもそれほど負担には感じませんでした。良し悪しではなく、異なる認識そのものを楽しんでください。

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Text=池田純子 写真提供=佐藤佳奈恵さん