

コスタリカ/環境教育/2016年度1次隊・東京都出身
| 就職先 | 三井物産株式会社 |
|---|---|
| 事業概要 | 金属資源、エネルギー、機械インフラ、化学品、生活産業、次世代事業などを世界規模で展開する総合商社。多様な商品取引に加え、資源開発やインフラ整備、環境、デジタル分野への事業投資を行っている。 |
| 略歴 | 1991年 | 東京都生まれ |
|---|---|---|
| 2015年3月 | 東京大学大学院入学 | |
| 2016年7月 | 協力隊員としてコスタリカに赴任 | |
| 2018年7月 | 帰国 | |
| 2019年3月 | 大学院修了 | |
| 2019年4月 | 三井物産株式会社に入社 |
高校時代、メディア分野への関心が高かった日髙夏希さんが国際協力にも目を向けたきっかけは、読売新聞のジュニア記者としての経験だった。ボリビアのドキュメンタリー映画の監督への取材を機に、中南米の文化や社会問題に引かれるようになる。他方で環境問題への関心も強かったことから、大学院時代には、中南米地域の環境問題について研究。その中で、現地へ赴いて経験を積みたいとも考え、休学して協力隊に参加することを決めた。
配属先のパルマレス市役所環境課は、カウンターパートと日髙さんの2人だけという小さな部署。ここで建物が完成したばかりのリサイクルセンターの立ち上げと、高倉式コンポスト(※1)の普及が要請内容だった。日髙さんはリサイクルセンターに設置する機械の選定や人員採用、運営フロー作りなど、ゼロからの構築に取り組んだ。またコンポストの普及活動では、地域住民を巻き込むために学校や市場、地域コミュニティなどで毎週のようにワークショップを開催した。
コスタリカは環境先進国として知られ、住民の環境への関心は高いが、コンポストに虫が湧いた、忙しくなったなどの理由で、やめてしまう家庭も少なくなかった。日髙さんは自分がいなくても続く仕組みを作ることを意識し、住民の興味を維持しつつ主体的に動いていけるようなアプローチに注力した。
活動の合間には、修士論文のフィールドワークとしてカリブ海側の農園地帯も訪れた。協力隊活動でコスタリカ人の環境意識の高さや国民性なども理解していたため、現地での取材もスムーズに行うことができ、論文制作に役立ったという。
帰国・復学が近づき、日髙さんが大学院修了後の進路に定めたのは、民間企業の立場から社会課題に関わる道だった。協力隊での活動を通じて、社会課題に向き合うには公的資金などに頼るだけでは限界があると実感し、ビジネスとして利益を出すことが持続可能性につながると考えたからだ。
中南米で日本企業が再生可能エネルギー事業などを通じて現地社会に貢献している姿を間近に見たことも大きかった。そこで、就職先は中南米での経験とスペイン語を最大限に生かせる環境であることを条件に決めた。また、現地で出会ったコスタリカ人男性との結婚を控えていたことから、安定した福利厚生と働きやすさも重視。三井物産株式会社の面接ではプライベートのライフプランを率直に伝えたことも高く評価されたという。
入社後は、自動車の輸出入に関わる部署でのメキシコ駐在を経て、社のサステナビリティ方針の策定・推進に関わる部署に移り、持続可能な企業活動の実現に取り組んだ。現在は日本で育児休業中だが、将来的には再び中南米に関わる仕事をしたいという思いは強い。家庭と仕事を両立しながら、自分の価値観に合った形で社会に貢献し続けることを目指している。
※1 高倉式コンポスト…髙倉弘二氏が開発した生ごみ堆肥化技術。特定の発酵菌ではなく、野菜片や果物の皮、発酵食品、米ぬか、もみ殻、腐葉土などから現地で入手できる菌類を培養して用いることが特徴。
大学院修了後すぐに就職したいと考えていて、帰国予定が新卒採用のピークを過ぎた7月だったため、留学帰国生などが対象の採用情報を転職サイトや企業のサイトで探しました。
条件に合った募集情報を三井物産のサイトで見つけ、コスタリカからエントリーシートを送信しました。自己PRには、協力隊での経験を踏まえ、次はビジネスという異なるアプローチから中南米や環境分野に関わりたい、と書きました。適正テストの提出期限が迫っており、帰国当日に空港からテストセンターに直行して基礎学力テストと性格適性検査を受けました。
面接官は2人の一般社員で、協力隊での活動が話題の中心となりました。配属先の初代隊員として同僚や住民に根気よく説明しながら活動に取り組んだことや、現地で目にしたビジネスによる社会貢献に感銘を受けたことも話しました。
約40人の1次面接通過者による1泊2日の合宿選考では、集団討論や個別面接がありました。皆がスーツ姿の中、私だけ参加案内の「私服」を真に受けTシャツ姿で、懇親会では現地のダンスを披露するなどコスタリカのノリで臨んでしまいましたが、意外にも担当者から「商社に向いている」と言われました。
これまでの面接で、コスタリカで出会った男性との結婚の予定や、「自分が家族を養うために稼ぐ必要がある」「夫と共に中南米のどこへでも駐在できる」といった個人的なライフプランを率直に伝えていました。役員による最終面接では、家族の事情などから海外駐在が難しい社員も多い中、私の駐在への意欲や家族条件なども好意的に受け取られたと感じています。
入社後はモビリティ第一本部に配属され、中南米地域を中心に自動車関連の海外事業を担当しました。2022年からは取引先の自動車メーカーのメキシコ代理店へ出向し、販売需給の管理・取り回しや、サービスの改善、ディーラーとの関係構築、などに携わりました。協力隊での経験は、現地の人とのコミュニケーションにも役立ちました。24年からはサステナビリティ経営推進部で、企業全体の環境・社会課題への取り組みを支える業務を担当しています。具体的にはCO2排出量削減の取り組み、森林・水資源の保全に向けた取り組みの推進、事業の環境・社会リスク評価などESG(※2)領域に関わる業務が中心となっています。
※2 ESG…Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の略で、企業などが持続的経営を目指す上で配慮すべき観点とされる。
私自身、メディアを志した学生時代から、国際協力、ビジネスと、目指す分野は変わっているのですが、社会に貢献したい、持続可能な社会のために役立つことがしたいという思いは変わっていません。国際協力の道にこだわる必要はなく、協力隊で得た視点や経験は、どんな分野でも必ず生かせます。大切なのは「自分は何のために、誰のために働きたいのか」という軸を持つこと。迷う時期があっても、その迷い自体が成長につながるはずです。興味のあることに素直に向き合うことで、可能性は広がっていくと思います。
https://www.jica.go.jp/volunteer/obog/career_support/index.html
Text=油科真弓 写真提供=日髙夏希さん