副学長(国際交流担当)
小澤大成さん
本学では、1998年から20年以上にわたり、教育分野においてJICAの短期・長期研修員の受け入れや技術協力プロジェクト、草の根協力事業など、さまざまな形で連携協力を重ねてきました。研修員の受け入れでは、99年に南アフリカ共和国の教員を受け入れて以来、これまでに63カ国から1,200人を超えるJICA研修員を受け入れてきました。
また、累計200人以上の本学教員をJICA専門家として派遣しており、国際教育協力の分野において着実に経験・知見を培ってきました。それらを基盤として2005年に「教員教育国際協力センター」を設置したことを皮切りに、国際協力プログラムの組織的実践を進め、19年には大学院修士課程に「グローバル教育コース」を設置。大学院に3年間在学して大学院課程と学部課程の科目を併せて履修することで教員免許状と修士(教育学)の学位を同時取得できる制度もあることが特色です。
協力隊で途上国での活動を経験し、「現地で感じた・知ったことを学術的に追究したい」「修士号を取得して国際協力分野に進みたい」「現地で新たに教育分野への関心を持ち、ゼロから教員免許を取得したい」といった思いを持った方々が、大学院への進学を検討されます。本学としてもそうした方々は積極的に受け入れたく、協力隊OVの方への筆記試験免除などの対応を設けています。
まず多くの協力隊OVに共通して感じるのは、社会人経験者が多いことです。教育大学なので教育機関の経験がある方が多いですが、職業経験を一度経て、その上で協力隊に参加した後に本学へ入学している。前記のように現地での活動を踏まえて進学を決めているため、自身のやりたいことや追究したいことが明確にある方が多いです。社会経験があるので落ち着いていて、リーダーシップをよく発揮してくれる資質も持っている傾向があります。
また、ゼミや授業などの場において、人に興味・関心を持たせて巻き込むことにも長けています。それは途上国で現地の人々との信頼関係づくりに苦労した経験から、相手を尊重して信頼を勝ち取るための知見や技術が身についているおかげなのでしょう。
その他、予定の変更や予期せぬトラブルなどへの対応力も目立ったものがあります。途上国では予定がほごになることは日常茶飯事でしょうし、協力隊の要請も、いざ赴任してみると現場の実情が異なっているケースがあると聞きます。そのような予定外の事態に対処する経験が豊富なためか、目の前の状況に柔軟に対応しながら自分のやりたいことをうまく進めていける。そうした“レジリエンス”は一つの大きな特質ではないかと思います。
JICA専門家などになる例は少ないのですが、開発コンサルティングの道へ進む方は少なからずいて、JICAの在外拠点の企画調査員になった方もいると聞いています。最近は在外公館の専門調査員なども増えているようです。以前は修了すると教員になることが多かったのですが、ここ数年はいろいろなパターンが出てきています。もちろん従来のように学校現場へ進んでいく方もいるのですが。
すると、本学としても新たに入ってきた学生の方にさまざまなキャリアプランを示すことができる。協力隊OVの方々が切り開いたキャリアパスは現役の学部生にもアピールできている部分があって、自身も協力隊に応募したいという学生や、卒業して大使館のポストに応募してみようという学生も出てきています。教育大学ということで進路イメージが教育機関に限られがちだったので、学生の間で選択肢の多様性が増したのは本コースとしてはありがたいですね。
本学にはアフリカやアジア、中南米、大洋州などからの留学生が多く在籍していますが、協力隊経験を持って入学してきた方々は、彼らとも率先して交流している様子が見られます。留学生と話す際の共通言語は基本的に英語ですが、必ずしも隊員時代の活動言語が英語とは限らないものの、そうした方も頑張ってコミュニケーションを図っています。前述の予定変更への対応力にも関わることですが、留学生が約束の時間に来ないなどのトラブルにも冷静に「まあ、そういうこともあるよね」と受け入れて動いてくれます。
こうした背景の下、海外経験のない学生と留学生をつなぐ役割を担ってくれているのが協力隊OVで、現地の実体験に基づく経験談も含め、彼らの存在自体が他の学生にとっても大きな刺激となっています。異文化にオープンで多様な人々と協働できる能力は、これからの社会や教育現場において、ますます重要になるのだろうと思います。
今後の日本社会や学校現場は、外国人を受け入れることなく持続していくことは難しいでしょう。さまざまな国籍・ルーツの人たちと関わっていく上で、協力隊OVが持つ資質や対応力が大いに生きるはずだと思います。本学がある徳島県内の学校ではまだ多国籍化が進んでいませんが、修了生の中にはそうした自治体の教育機関に就職する方もいます。協力隊OV自身だけでなく、その存在に刺激を受けた現役学生も含めた本学の卒業生・修了生が、今後の多様化する社会の中で活躍してくれることを期待しています。加えて、すでに述べたとおり、社会人経験・協力隊経験を踏まえて本学で学び、再び海外での仕事にチャレンジする協力隊OVも多く、そうした方々の国際教育への貢献も切に願っています。
異国の地へ自ら赴き、途上国の発展を志して活動する協力隊員の方々の姿には、心から敬意を表します。慣れない環境の中では想定外の出来事や困難も多いと思いますが、一人の個人として現地の人々と向き合いながら、地域や社会の課題を見つけ、解決を目指して取り組まれていることは本当に素晴らしいことです。くれぐれも健康に留意しながら活動を続けていただきたいと思います。
そして、もしも現地での経験や気づきをさらに深めて研究したい、特に教育の分野での学び直しがしたいと考えた時には、帰国後の進路の一つとして本学を選んでいただければ嬉しく思います。
Text=秋山真由美 写真提供=国立大学法人鳴門教育大学