
ザンビア/村落開発普及員/2009年度
3次隊・広島県出身
有坂純子さんが協力隊に参加したのは2010年。ザンビア東部の地方都市カテテに村落開発普及員として派遣された。要請内容は、HIV陽性の女性たちのエンパワーメントを目的に、ザンビア農村開発省の小規模融資貯蓄プロジェクトを補佐することだった。「主な取り組みはマイクロファイナンス(※1)でしたが、実際に赴任してみると、ほとんど機能していませんでした。最初は国際機関が元本を入れましたがうまく活用されないまま、出張などの業務経費ばかりかかって資金は減り続け、100人いた融資受給者が10人にまで減少し、受給者とのミーティングも行われていない状況でした」。
そんな状況を打開しようと、有坂さんは奔走した。「省庁のトップに何度も会いに行きました。そのうち前倒しで追加資金を入れてもらえることになり、赴任後6カ月目でようやくマイクロファイナンスに本格的に取り組めるようになりました」。
そこから同僚と共に、一から仕組みを作り上げていった。
「まずきちんと予算を立てて帳簿をつけ、職員同士でダブルチェックをするなど、基本的なことを徹底しただけで、うまく回り始めました。赴任当時10人だった融資受給者は、2年後には200人に。かなりの達成感がありました」
融資はHIV陽性の女性たちが優先されていた。
「いつ倒れてもおかしくない、薬を飲みながら生きている女性たちが、食堂経営などでわずかな収入を得て家族を支えている。何も持たない中で融資を受けて起業している彼女たちの勇気は、私が隊員時代に最も感銘を受けたことです」
帰国した時は「アフリカで活動するのはもう十分」という気分だったという有坂さん。とにかく日本できちんと働こうと途上国支援をしている一般財団法人アライアンス・フォーラム財団に就職。偶然にもその財団はザンビアの栄養改善事業も行っていた。「最初はザンビアに短期駐在員として赴任し、その後東京に配属されました。その財団ではBOPビジネス(※2)を支援する事業にも携わりました。BOPビジネスというコンセプトは面白いものの、日本企業が途上国で成功している例はまれ。自分が挑戦してみたい!と思うようになりました」
その思いが形になったのは16年。財団を退職し、夫婦でモザンビークに移住、売り物にならない木炭くずを再生した環境に優しい形成炭を生産・販売する、Verde Africa(ヴェルデ アフリカ)という会社を設立したのだ。「炭を選んだのは、アフリカの一般市民が使えるものを売りたかったから。また、アフリカ各地で森林の伐採が問題となる中、持続的な形で森林保全を促したいという気持ちもありました」。
現地社員10人で工場を稼働させていたが、収益を得るには難しく現地の友人に事業を譲渡。しかし「アフリカで起業したい」という有坂さんの熱意は消えず、たまたま訪れた農村部で、新たなビジネスチャンスをつかむ。「現地の人から『マルラオイルというオイルを作っているので、日本でも売ってみてくれない?』と言われたのです」。これはマルラという野生の木の実の種から採れるオイルで、果肉は生食や果汁に使われる。種子から搾るオイルは欧米では化粧品として人気が出てきていたが、日本ではほぼ知られていなかった。生産過程で実の内殻を割って種子を集める必要があるので農村女性の雇用創出につながる可能性があり、また、森林資源の持続的利用で雇用機会や収入を増やせれば、森林伐採を防ぐ一助にもなると有坂さんは考えた。「Verde Africa時代の起業の目的は雇用創出と森林保全でしたから、炭とオイル、商品は違えど目指すところは一緒だと思い、21年に株式会社Verde Marula(ヴェルデ マルーラ)を設立しました」。
ただ、道のりは険しく、モザンビークで有坂さんたちが生産・輸出を試みたオイルは雑菌の混入から輸出基準をクリアできなかった。混入を防ぐ技術のある工場を探したところ、南アフリカ共和国の企業に巡り合う。「現地の村落から買い取った種子でマルラオイルを作る信頼できる業者で、そこから原料を仕入れて販売することを始めました」。
会社を設立してから4年余り、現在は他にもバオバブオイルなどのアフリカ産天然植物オイルの輸入・卸販売と、自社スキンケアブランド「subi」を展開している。メインの取引先は日本の商社やメーカーで、subiの商品は日本のショップなどで購入できる。現在はマルラオイルの原料を現地の業者を通じて調達しつつ販路の拡大を進めているが、いずれは搾油も自社で行い、地域の人々の直接雇用も実現することも長期的な夢だという。「私に起業するというマインドをくれたのは、ザンビアのたくましい女性たちでした。これからも頑張り屋のアフリカの女性たちと一緒に働いていきたいです」。
※1 マイクロファイナンス…貧困層や低所得層を対象に貧困緩和を目的として行われる小規模金融のこと。
※2 BOPビジネス…社会課題の解決と持続可能な収益化の両立を目的とし、所得階層別人口ピラミッドの最底辺(Base of the Pyramid)に位置する人々に商品やサービスを提供するビジネスモデル。
2005年
高校卒業後、教育系の企業で子ども向けの英会話講師として勤務。その後退職してカルガリー大学で経済学を学び、マイクロファイナンスに興味が湧き、協力隊に応募しました
2010年
マイクロクレジットオフィサーとして、現地の女性グループに、経済的自立を目指した収入向上のアドバイスを行いました。赴任当初、プロジェクトはほとんど停止状態でした
2013年
財団に就職。ザンビアの栄養改善事業のため、現地に駐在して調査を行いました。BOPビジネス支援にも従事し「炭なら事業になるかもしれない」と思いつきました
2014年
協力隊活動2年目にザンビアで出会い、おつき合いしていた有坂之良さん(ザンビア/デザイン/2009年度4次隊)と結婚。新婚旅行でタンザニアやウガンダ、モザンビークなど、現地視察を兼ねて巡りました
2016年
財団を退職し、夫婦でモザンビークに移住しVerde Africaを設立。低所得者層向けに木炭より安価で環境に優しい形成炭の生産販売を行いました
2021年
新規に会社を設立し、代表取締役社長に就任。アフリカの天然植物オイルの輸入・卸販売のほか自社ブランドの商品開発も行い、ECサイトや日本の代理店を通して販売しています
Text=池田純子 写真提供=有坂純子さん