ウェブメディア「ganas」の
制作や研修・講座の
運営に取り組む

長光大慈さん

ベネズエラ/環境教育/
2005年度3次隊・広島県出身

長光大慈さん

途上国の「人」を通じて生の情報を日本に伝え、
世界に対する多角的な視点を育みたい

派遣から始まる未来 先輩たちの社会還元
隊員時代の長光さんと学生たち。「赴任直後は“営業”を兼ねていろいろな場所へ出向いてプレゼンやワークショップをしました」

   開発途上国の情勢や現地の暮らし、国際協力の取り組みなど、大手メディアがカバーしない多様な情報を発信するウェブメディア「ganas」を運営する長光大慈さん。記者活動を“究極のアクティブラーニング”として、国際協力を絡めて執筆スキルなどを教える研修・講座も開設する。

   長光さんが特に途上国に目を向けるようになった原点は、若い頃の体験だ。高校時代に父親の転勤で渡米し、白人が多数派の学校で差別を感じる経験をした一方、帰国して進学した上智大学で出会ったフィリピン人留学生たちとは対照的に意気投合。単身で東南アジアを訪ねたこともあった。

「船で暮らすバジャオ族などさまざまな少数民族がいて、見たことのないような生活様式や独特の文化に魅了されました」

   アジア関連の雑誌に現地体験を寄稿したことで書く仕事にのめりこみ、卒業後はアジア圏の経済情報を中心にニュースなどを邦訳・配信する日系メディアでの東南アジア駐在や、電力業界紙記者などを経て、2003年にフリーライターとなる。日本で忙しく働いていたが、再び途上国に関わりたい気持ちが募り、協力隊に応募。06年、環境教育隊員として赴任したのは、ベネズエラの人口3,000人ほどの村だった。

「アジアで働いていた時代から、政府や大企業などの周辺の世界よりも土着の生活の中へ入っていきたい気持ちがあったので、地方の村に派遣されて幸運でした」

派遣から始まる未来 先輩たちの社会還元
ミャンマー英語サロンのミャンマー人リーダーが来日した際の交流会。日本で途上国との関わりを持てることもganasのプログラムの特徴

   現地での環境教育を模索する中、自らがしたいことを伝えようと自然や環境問題を主テーマにしたフリーペーパーを“営業ツール”として制作。それが興味を引き、高校生や大人とフリーペーパーを作ることになった。紙面作りを通じて考える力も育む活動は成功し、高校生グループは州内の高校の課外活動を評価するコンテストで賞を受けるに至った。

   任期終了後はアメリカのメディア企業Devexの日本支社からの依頼でJICA研究所(現JICA緒方貞子平和開発研究所)の業務に携わった長光さん。他方、11年の東日本大震災の折、被災地支援をするNPOなどをまとめた寄付先リストをDevex日本支社のウェブサイトで公開すると、閲覧数が予想外に伸びた。「当時はミレニアム開発目標以降の国際協力も話題で、社会問題に関わる団体や、ひいては途上国が注目される機運を感じました。国際協力や途上国に関する媒体のニーズもあるのではと考え、12年に始めたのがganasです。スペイン語で“やる気”という意味の言葉を冠しました」。

   運営母体としてはNPO法人開発メディアを創設し、ウェブサイトやSNSで情報を発信して日本社会に多角的・複眼的な視点を広げるという目標を設定。書き手はボランティア中心で、デスクもプロボノ(※1)が担う。多様な立場の人を束ねるには記者としてのノウハウや隊員時代のフリーペーパー制作の経験が生きたが、課題は収益化の方法だった。「有料記事は読まれないと確信していて、『読んでもらう』という前提を損なわずにどう売り上げを得るか頭を悩ませました」。

   そこで考えたのは、記事は無料で広く発信し、体験プログラム類を有料で実施する形だった。13年に都内でフィリピンの困窮邦人(※2)に関するイベントを行ったのが初の企画で、翌14年から開始した、途上国で実践型の研修を行う「Global Media Camp」は今も続く看板プログラム。今年春には、タイに逃れたミャンマー難民や、セネガルのスポーツ選手をそれぞれ現地で取材しており、8・9月にも次の回を計画中だ。その他、途上国について伝えながら取材・執筆スキルを指導する「グローバルライター講座」など、多様なプログラムを展開していて、年間受講者数は300人近くになる。

派遣から始まる未来 先輩たちの社会還元
ベナンでのGlobal Media Campでブードゥー教の指導者に取材する様子。現地に深く入り込む取材が魅力で、これまでに10カ国14カ所で計47回開催している

   また、長期的な経済危機でベネズエラの人々が困窮する中、20年にオンライン語学講座「命のスペイン語レッスン」を開始。現地人を講師に迎えて受講料を報酬として送る仕組みだ。語学のみならず生の現地事情に触れることができて途上国の人への支援にもなる講座は受講者から好評を博し、今は軍事政権下のミャンマー人や同国を逃れた難民たちから英語を学ぶ「ミャンマー英語サロン」も行っている。

   今年で創設から14年たつganas。発信した記事は約2,000本、プログラムの予定もびっしり詰まっている。 「ganasの記事は一貫して『人』にフォーカスしていて、プログラムでも海外の人と言葉を交わす体験を提供しています。私が活動したベネズエラなどの昨今の情勢に目を向けると、日本の報道やSNSでは、現地の庶民の声がほぼ顧みられません。ですが、ganasの記事やプログラムを通じて個々の人への関心や感度を高めた方たちは、より多角的な視点で世界を見てくれるはず。それが大切なことだと思っています」


途上国・国際協力のメディア「ganas」のウェブサイトへ▶

※1 プロボノ…職業上の経験やスキルを生かした社会貢献活動のこと、およびそうした活動をする人々のこと。

※2 困窮邦人…一時滞在者・永住者を問わず、海外に在留する日本人で生活困窮状態に陥っている人々を指す。



長光さんの歩み

Text=新海美保 写真提供=長光大慈さん