廣瀬拓哉さん

日系/ブラジル/野球/2017年度1次隊、短期/ペルー/野球/2023年度9次隊・大阪府出身

ワールドカップで町は機能停止?
仕事も勉強もそっちのけに!

   サンパウロ市から約100kmのインダイアツーバ市にある日系人協会の野球部で、青少年チームの指導をしました。任地は常日頃とても穏やかな町なのですが、ある時期だけは雰囲気が一変。それがサッカーワールドカップの時でした。

   開幕後のある日、私が行きつけの理髪店に行った時のこと。入り口で声をかけても席に案内されないため店内を見ると、理容師2人と先客1人がテレビ中継に見入っていました。この日はブラジル戦ではないのに、仕事が手につかない様子。やっと気づかれて席に通されると、今度は私を担当する理容師と隣の担当がプレーの批評合戦を始め、たまに髪を切っては言い合うことの繰り返しでした。ボールがゴールに迫ると手は完全に止まり、シュート時は絶叫して天を仰ぎ、ボールがコート外に出てプレーが止まるとやっと少し切る、という具合。結局、いつもは30分で終わる散髪が2時間かかりました。私は言葉もあまりわからないのでノリについていけず、「早く切ってくれ~」と思いつつ、出してもらったコーヒーを飲みながら、熱狂ぶりをほほ笑ましく見ていました。

   そしてブラジル代表戦の日には、前日に同僚から、「明日は町のすべてが止まるからね。買い物に行くなら今夜のうちに!」と忠告されてはいたのですが、道路はガラガラ、町からは人が消え、小・中学校も試合がある午前中は休み、と日常生活よりも観戦が優先でした。

   ブラジルでは、誰もが代表チームの黄色いユニホームを着て応援していました。私の出身地大阪でも、皆一様に黄色と黒のタイガースカラーに身を包んだ阪神ファンの熱い応援が有名ですが、その連帯感や熱狂ぶりには相通じるものが感じられました。遠く離れていても、スポーツファンの気質は同じなのだな、と興味深く思いました。


あの日の、地球の、あの場所で。

Illustration=牧野良幸 Text=成松佳子(本誌)