

地方自治体の役所に配属され、ごみ分別の普及を支援しています。役所から市民に向けた発信も行われているのですが、分別に対する意識や知識がなかなか根付かず、啓発のためのセミナーを開催しても、限られた人しか参加してくれません。結局、収集したごみを職員が分別することになり、他の取り組みに割く時間が取れません。どうしたらもっと市民にアピールできるでしょうか。
途上国の人に限らず、日本人でもそうだと思いますが、自分の得になると思わないことには関心を持ちにくいですよね。特に環境教育分野の方はマナーの側面からアプローチしがちですが、メリットを示さなければ耳を傾けてもらうのは難しいかもしれません。メリットとは、例えばリサイクル資源が売れるといったこともそうですが、よりささやかに、セミナー開催時に記念バッジや折り紙細工、日本の風景の絵葉書をプレゼントする。あるいは、子どもなら飴玉をあげるなどでも、気を引くことができるでしょう。
私が活動したマレーシアの社会では、イベント開催時には主催者が食事やお茶、菓子を用意することが一般的です。そのため、ただセミナーなどを実施しても、なかなか関心を持ってもらえないかもしれません。現地の団体もインセンティブになるものを準備して集客することを行っていますから、そういったやり方も参考にするとよいと思います。
また、同じくマレーシアの事例でいえば、自分の身内や持ち物を大切にするため、街路はごみだらけで汚いのに、家の中は非常にきれいだったりします。「公共の場所は自らが保全する対象ではない」という価値観の人に対し、大上段から「街を美化しましょう」「地球環境を守りましょう」と言ってもピンとこず、「自分には関係ない」という反応になる。あるいは“先進国”日本の環境意識をそのまま求めても、「なるほど理想はそうだけれど、ここでは無理」という感想で終わってしまう。各国で事情は異なるでしょうが、大なり小なりそうした傾向はあるはずです。
それを踏まえてどうアプローチすべきか。例えば本人や家族に関わる形で、「汚くしていると感染症や害虫が増える。家族が病気で死んじゃうかもしれないよ」などと個人レベルの話から入ると受け止めてもらいやすいでしょう。
そもそも日本人にしても、公衆衛生への意識の高まりはここ数十年の話で、私が子どもの頃は汽車の床や座席の下などごみだらけでした。それが変化したのは、教育によって「清潔でなければいけない」と反復して刷り込まれた結果ですから、派遣国の人々にも繰り返し伝えることで何かが変わる可能性がある。そのためにも、本来の目的から少し外れていてもメリットを示し、環境教育の場に関わり続けてもらうことが大切なのです。
マレーシア/村落開発普及員/1989年度1次隊、短期/マレーシア/林業・森林保全/2024年度9次隊・北海道出身
帯広畜産大学で環境保全学を学んだ後、北海道大学大学院で生態系管理学を専攻。1985年に北海道庁に入庁し、89年に同庁で初めて現職参加制度の下で協力隊に参加。マレーシアでの活動を経て復職し、2001年より酪農学園大学に移り教壇に立つ。現在、同校名誉教授。また、23年に同校認定第1号のベンチャー企業として株式会社インターリージョンを設立し、代表取締役CEOを務める。
Text=飯渕一樹(本誌) 写真提供=金子正美さん