加藤マリさん
お話しいただいたのは
加藤マリさん

ケニア/エイズ対策/2010年度1次隊・秋田県出身

大学卒業後、エイズ対策隊員としてケニアに赴任し、地域や学校での栄養指導と性教育に取り組む。活動の中で現地農家と知り合ったことで食と農業に興味を持ち、帰国後は兵庫県淡路市で農業の基礎を学んだ後、秋田県仙北市で三吉農園を設立。2026年3月の法人化に伴い、現在は株式会社三吉ファームの代表取締役を務める。また、農園から少し離れた水沢温泉郷ではペンション兼農家民宿「Hotel Radish House(ホテルラディッシュハウス)」も運営。

OB・OGショップファイル
収穫した大根を燻す小屋。気温が氷点下の時期は土から掘り出した大根がすぐ凍ってしまうため、急いで燻煙工程に移る。「燻すペースなどを計算しながら同時並行で作業するので、漬け込んだ大根の樽上げが終わる4、5月まではずっと大根に追われています」

隊員経験を経て「地域にあるもの」を生かす農業を実践
いぶりがっこを通じて秋田の食文化を伝える

   エイズ対策隊員として保健事務所で活動した加藤マリさんは、「健康維持のためには、日々食べるものが大切」という気付きから、身近な野草や地域の食文化を生かした啓発活動に奔走した。同時に、現地の農家と深く関わる中で「食べるものを作る仕事はかっこいい」と農業に目覚め、帰国後は地元の秋田県で農業に就く。取り組んだのは、化学肥料や農薬をほとんど使わず、元々の環境にあるものを生かす農業である。いろいろな野菜を試した結果、土地に最も適していたのが大根だったことから、事業の軸を秋田伝統のいぶりがっこ(燻製大根のたくあん漬け)に決定。こうして2017年にスタートしたのが「三吉農園」だ。

   いぶりがっこの材料には、自社農地で育てた大根を使用。収穫後すぐにサクラやナラといった広葉樹で3〜4日燻し、水分が抜けると、米ぬかや塩で1~2カ月漬け込んで発酵させる。無添加で素材の味がそのまま生きているのが特徴だ。定番の真空パック製品に加え、冬の樽上げシーズンには発酵菌が生きている「生いぶりがっこ」も登場する。

   漬け込みを行う加工場では、21年の食品衛生法改正による衛生基準強化でいぶりがっこ作りの継続が難しくなった個人生産者の分も漬け込みを引き受けている。加藤さんは「いぶりがっこは作り手によって味が全然違います。地元のおばあちゃんたちの味が途切れてしまうのはもったいない」と三吉農園製の商品と共に販売も担い、伝統の味と食文化の継承も支えている。

OB・OGショップファイル
大根の収穫期は10月中旬から12月。11月後半には雪の季節が到来し、時には1mもの積雪の中で大根を掘ることもあるという
OB・OGショップファイル
いぶりがっこは生産者ごとに燻し方などの流儀があり、味に個性がある。「三吉農園を始めた頃は地域に6人いた生産者のおばあちゃんたちも、まだ現役の方は2人。体調に気を付けつつ、一緒に頑張ろうと声を掛けて毎年続けています」
OB・OGショップファイル
三吉農園で販売しているいぶりがっこ

Text=油科真弓 写真提供=加藤マリさん