広島大学
大学院

大学連携
【連携開始】 2001年5月
【派遣国】 ザンビア
【協力分野】 理数科教育
【派遣形態】 人間社会科学研究科の大学院生
2~3名を隔年で2年間派遣
【累計派遣】 計42名(~2020年度)

広島大学大学院 人間社会科学研究科は、6つの研究科を統合した400名ほどの教員が所属する「スーパー研究科」。青年海外協力隊員のOVであり、広島大学で20年以上にわたりJICAとの連携事業に関わってこられました副研究科長の馬場教授と派遣された鶴留守氏、高橋由哲氏にお話を伺いました。

※文章内の制度名、派遣名称は派遣当時のものです。​

馬場 卓也 氏

副研究科長

馬場 卓也

「JICA海外協力隊」の連携派遣から広がっていく大学の国際貢献活動

JICA海外協力隊へ行くか、大学院へ進学するか、どちらを先にするかで悩む学部生が多かったことを背景に、本学のJICA連携は、「実践しながら研究し、研究しながら実践する」という「研究と協力の両立」を目指して開始されました。知識は習得中であるがやる気と積極的な姿勢・意欲を持っている学生と、知識・経験は豊富でもザンビアの現場情報に触れる機会の少ない広島大学教官にとって、両者が一緒になって指導・学習活動を通じ、広島大学としての「大学機能」を高めることができていると感じています。
本学の教官は、年に1回、ザンビアへ赴き活動中隊員の巡回指導を行っていますが、現在、このシステムは国立ザンビア大学との共催セミナーに発展し、連携派遣隊員やJICA専門家のみならず、大学、学校教育カリキュラムを作成するCDCや、国家試験を管轄するExamination Councilといった、中核機関からも参加する現地で唯一の教育研究発表の場であり、教育分野専門家が集う機会となっています。
年1回の一週間程度の現地訪問だけでは、広島大学としてはおそらく現地の事情を十分理解することはできなかったはずです。連携派遣の隊員の活動視察が契機となって、広島大学はザンビアで実施されているJICA技術協力プロジェクトと繋がりが出来、プロジェクトの依頼でザンビア国別研修等も実施するようになりました。また、JICA留学生の受入れにも結び付き、広島大学の同窓生が、派遣された大学院生の現地カウンターパートや上司ともなっています。ザンビア教育界と広島大学がここまで繋がることができたのは、まさにJICAと連携して協力隊を派遣できたからであると思っています。連携推進のコアとして、JICA連携の協力隊員派遣の意義を高く評価しています。

次の時代に向けたJICAとの連携を目指して

「研究と協力の両立」という大学にとっての新しい取組みは、JICAにとっても大学連携という新たな派遣形態であり、その導入にあたっては、大学の制度とJICA海外協力隊制度のすり合わせを行う必要がありました。当初よりJICAとは喧々諤々の議論を行い、ここ10年ほどは人事交流を行うこと等によって意思疎通を改善することで、現在のような制度の実現に至っています。
 広島大学には、将来、国際協力の道に進みたいと考える学生が非常に多いです。ただ、彼らへは、今と同じような国際協力が10年後も続いていると考えるべきではないと言っています。JICAに就職したい、有名コンサルタント会社に入社したい、ということに捉われず、発想を新たにして、こんなものがあれば良いな、という夢を形にしていくような国際協力の形を追求して欲しいと思います。また、JICA連携においても、今後更によい連携となっていくよう、様々なアイディアを出し合っていきたいと思います。
JICA連携に真面目に向き合って取り組むと、実に様々な可能性を秘めたプログラムであると感じています。大学は「指示された業務」を遂行・達成することはあまり得意とはしていない機関であり、むしろ、課題対応の常識に「疑問」や「改善」を提示する研究者たちの集団です。「教育・研究・社会貢献」という大学の役割に照らし、大学だからこそ出来る国際協力の形があると思っています。JICA連携のスタートは第一義的には学生の「教育」でありました。その後、学生の活動を通じて「研究」が進展し、JICAからの要請も受けて、国際協力という社会貢献の幅がどんどん広がっていきました。三つの役割が相互に関連するとき、大学が真の力を発揮できると考えています。そのプロセスに学生たちの若い力を組み込んでいく、という取り組みが、将来の新しい国際協力にとって非常に意味があると考えています。

※このインタビューは2020年12月に行われたものです。

鶴留 守 氏

鶴留 守

派遣国
ザンビア
派遣職種
理科教育

協力活動を支援する大学を軸としたネットワーク

JICA海外協力隊として派遣中、広島大学からの支援として一番大きかったのは「メール・ゼミ」です。毎週のタイムフレームを決めて、研究室在籍者や研究室OBと、現地からの報告、日本からのコメント・回答、のメールで繋がり、送付後1週間程度でコメント・助言等を受けることができました。
外国人で突然やってきた自分が生徒たちに受け入れてもらうためには、生徒中心の、生徒が参加したがる授業をやらなければなりません。JICAの技術補完研修で学んだトピックスの活用、グループワーク・ピアワークの導入、派遣前訓練での模擬授業で得たノウハウの応用などを試み、JICA専門家や同僚から様々な助言を貰いながら自分と生徒との対話量を増やすよう努め、試行錯誤してきました。研究の対象は生徒。協力活動で、生徒がよりアクティブに、主体的に授業に参加するよう提案をしてきましたが、同僚教師に対してもっと働き掛けても良かったかもしれないと振り返っています。
「実践と研究の往還」とも言えるJICA連携プログラムに参加して、個人として考えていた研究を、現地で時間を掛けて試行するプロセスを得られました。大学院入学時にあった、途上国の教育の質を向上したいという漠然とした情熱から、今は、特定の人々を対象に、具体的に何をどのように改善するか。そのための提案を行う、という目標が明確となり、また研究意欲も高まりました。
広島大学で研修を受けたザンビア教育局長がその後研究雑誌の発行を始めています。今は、その雑誌に自分が現場経験を通じて纏めたSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育に関する研究成果を掲載することを計画しています。自分の研究が、この先広島大学での教育にも役立てばいいなあとも感じているし、これから10年後も、ずっとアフリカ地域の教育協力を意識し続け、実際それに関わる就業ができればと思っています。

高橋 由哲 氏

高橋 由哲

派遣国
ザンビア
派遣職種
理科教育

新たな進路へのチャレンジ

広島大学が開催した「国際協力キャリアセミナー」を通じていろいろなお話を伺い、広島大学のザンビア・プログラムが国際協力で働くために必要な修士号と海外経験を兼ね備えていたので、流通科学大学で経済学を取得後に広島大学大学院へ進学しました。自分にとってJICA海外協力隊員として理科を教えること、大学院生として教育分野で研究することの両立は、想像以上に困難な経験でした。隊員時代は理科の授業と学級経営に力を注ぎましたが、やはり、持続性の観点で現地教員の巻き込みが弱かったと反省しました。
ただ、自分自身、理科や数学が苦手だったため「生徒だったら、どういう授業だと楽しいか。どういう授業なら参加したくなるか。」と工夫して授業案を作るなど、プラス作用はあったかもしれません。重力を教える授業では、生徒を校庭に連れ出して実際に石を投げさせてみる、ジャンプをさせてみる、など、頭の中だけでなく「身体を動かす、五感を使わせる」ようなことも意識しました。
派遣前訓練は苦しかったです。英語学習も大変だったし、教員経験も無かったので模擬授業でも苦闘の連続でした。訓練所長が講話で語った、協力隊はボランティアであるが、その活動は草の根外交官として期待される「仕事」でもある、という言葉を思い出しながら、その後の辛いとき、厳しいときも耐えることができました。
広島大学のJICA連携プログラムに参加できたことで、同じ物事を二つの観点から見る重要性と面白さを学べました。過去に得た知識に影響された観察と、研究という視点からザンビアの今の教育事情を見るのとでは全く違いました。ザンビアの児童は棒を書いて数えて計算をすることが多いのですが、これを、「ああ、これがザンビアの文化・慣習か。」と割り切るのではなく、「なぜ棒を使って計算するのか?棒を使いたがるのか?」という背景・理由を深堀りするのが研究の姿勢です。このような「研究題材」を自分の目で豊富に見出すことができるのが現場。協力隊員+研究者としての活動経験は、自身の将来の企画力やマネジメント能力の開発にも必ず役立つと確信しています。

※このインタビューは2020年12月に行われたものです。