日本も元気にするJICA海外協力隊 岩手県

堀子 美里さん

堀子 美里さん 青年海外協力隊
Misato Horiko

盛岡市立大新小学校教諭

【職場】
岩手県
【職業】
小学校教諭
赴任国
セネガル共和国
セネガル共和国
【赴任地】
ファティック県フィムラ郡
【職種】
小学校教育
【派遣期間】
2016年9月~2018年9月

「当たり前」が「当たり前ではない」
異文化の経験を子どもたちに伝えていく

教育実習の経験しかなかった大学新卒の身で、セネガルの小学校の教育支援を担当。
不安を抱えながらも得意な算数を活かし、指導法を現地教員に提案、普及させていった。
今、2年間の協力隊活動で得た経験を糧に、地元の子どもたちの成長を見守っている。

初めての外国生活
算数指導に活路を見出す
初めての外国生活 算数指導に活路を見出す
 母親と見ていたテレビ番組で、地球の片隅で活躍する青年海外協力隊員の姿を目にし、「かっこいい、私もあんな風になりたい」と憧れたのが協力隊へ興味を持ったきっかけだった。大学卒業を前に挑んだ教員採用試験が不合格となり、進路に悩んでいた時、母親に背中を押されて協力隊参加を決意した。
 それまで海外旅行さえしたことがなく、赴任国セネガルが初めての異国の地。途上国の暮らしやボランティアとしての活動は、驚きの連続だった。現地の小学校では、休憩時間が終わっても教室に入ろうとしないのは、子どもたちではなく教員たち。授業中にスマートフォンをいじったり、他のクラスの担任と話したりする教員の姿もあった。一方、教材が不足している中、教員は子どもたちの興味を引くために黒板に絵を描くなど、工夫しながら授業を進めていた。
 配属先から具体的な要望は出されず、赴任から半年ほどは近隣の5つの小学校を巡回し、授業の見学をして過ごした。そこで感じたのは、算数の授業は行われているものの、「子どもたちの理解を助ける工夫が必要」ということ。特に、低学年の子どもたちは学力の差が大きく、教員たちも指導に苦労していた。自分が得意な算数を中心に、補助教材の提案や楽しく学べるゲームの紹介ができるのでは、と考えた。
悔し涙に嬉し涙
信頼できるカウンターパート
 活動の目標を二つ決めた堀子さん。一つがテストの点数のアップ。これは目に見える成果となるので、同僚の教員たちにも分かりやすい。そこで、計算能力の向上や問題の反復練習、そして教員の指導力の充実を目指した。もう一つは、子どもたちが算数を勉強して楽しいと思えるようにすること。授業中に使用するのはフランス語だが、日常生活ではセレール語が話され、フランス語で書かれた問題を読み解くのは子どもたちにとって大変なことだった。そこで、日常使っている物、例えば洗剤のボトルや飲み物の空き瓶を使って量の概念を説明したり、紙を切って図形を作ったりするなど、体験型学習を重視。児童向けの教材カード『フラッシュカード』や『百マス計算』、シルエットパズルの一つ『タングラム』も導入した。
 しかし、これらの提案が同僚にうまく伝わらないことが多く、「これだから日本人は」「ここは日本とは違う」と陰口を言われ、涙を流したことも。そんな時、仲の良い教員から励まされたことは忘れられない。セネガルでは涙を流すことを決して良しとしないが、この教員は「涙を流せば辛いことも流れていくから、泣いてもいいんだよ」と慰めてくれた。活動に協力的で、互いに意見を言い合える、良きカウンターパートだった。
 協力隊活動も終盤になると他の教員との距離も縮まり、「算数の授業があるから来てよ」と誘われるようになった。そうした信頼関係をもとに実行できたのが、全校を対象にしたクラス対抗算数大会。「子どもたちのやる気向上と実力を測る目的で実施しましたが、実際、意欲や集中力の向上が見られ、他の教員たちにも喜んでもらえました」
「テランガ(おもてなし)」の国
協力隊経験を子どもたちに伝えたい
 「セネガルの人たちは、知らない人にも話しかけたりするほどフレンドリー。そんなお国柄に救われました」活動を振り返ると、自分のやってきたことがセネガルの人たちにとって必要なことであり、成果もあったと自信を持って言うことはできない。しかし、「自分にとって非常に意味のある2年間だった」と確信を持って言えるという。考え方も価値観も違う人たちの中に入り、自分や日本の“当たり前”が通用しないことを知り、やろうと思ってもできないことが多かった。分かったのは、「共に暮らし、理解し合う」ことの大切さ。現地の人たちとの繋がりは、一生の宝物となった。
 帰国後、協力隊経験を伝えていくのは自分の務めとして、異文化理解の出前講座など、機会があれば積極的に参加するようにしている。「民族衣装を着て現地のことを話すと、子どもたちの目が輝くんですよ」
 また、教員採用試験に再挑戦し、見事合格。現在、盛岡市の小学校で働き始めて2年目になる。学校でも子どもたちに協力隊経験を伝える堀子さん。
 「世界の人たちが国を越えて理解し、協力して世界平和を実現する。そんな理念を持って、将来は国際理解教育の指導ができる教員になりたいです」
 堀子さんは自身の経験を社会に還元しながら、これからも子どもたちの成長を見守っていく。
  • 子どもたちのテスト答案を採点する堀子さん
    子どもたちのテスト答案を採点する堀子さん。協力隊時代のように楽しく、彼らの学力が向上するよう努めている。
  • 放課後にたわいもない話で盛り上がるのも、大切な時間の一つだ
    仕事の意見交換や相談ができる同僚が職場にいるのは心強い。放課後にたわいもない話で盛り上がるのも、大切な時間の一つだ。
  • 授業の準備をしながらそれを考えるのは、堀子さんにとって楽しい時間
    子どもたちの成長に役立つことをしたいと考える日々。授業の準備をしながらそれを考えるのは、堀子さんにとって楽しい時間。
堀子 美里さん
Profile
 岩手県出身。大学で児童教育学を学び、小学校教諭を目指す。同県の教員採用試験を受けるも、望みかなわず。母親の勧めで、新卒で青年海外協力隊に応募。セネガルに派遣され、小学校教諭として算数の指導支援を行う。帰国後、花巻市内の小学校常勤講師として「ことばの教室」を1年担当。再度、教員採用試験に挑戦し合格。2020年より、盛岡市立大新小学校教諭として勤務。
堀子さんへのエール! グローバルを知る“頑張り屋さん”に期待
 元気な子どもたちを相手に毎日、一生懸命頑張ってもらっています。協力隊として途上国で2年間暮らし、学校では経験できないことをたくさん経験して、人間の土台づくりがしっかりできています。一人前の教員になるには少し時間が必要ですが、子どもたちのために尽くそうという意識や意欲は、素晴らしいものがあります。グローバルを知る先生から、多様な価値観を理解できる子どもたちが育つことを期待しています。
盛岡市立大新小学校 校長 小島 正弘さん
盛岡市立大新小学校 校長
小島 正弘さん
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