日本も元気にするJICA海外協力隊 熊本県

宮本 武蔵さん

宮本 武蔵さん 青年海外協力隊
Takekura Miyamoto

芦北町立星野富弘美術館 参事(学芸員)

【職場】
熊本県
【職業】
学芸員
赴任国
ガーナ共和国
ガーナ共和国
【赴任地】
アッパーウェスト州
【職種】
プログラムオフィサー
【派遣期間】
2009年3月~2011年3月

地域のための美術館を目指して

日頃は意識しなくても、青年海外協力隊での経験が自分の芯を作っている、と気づく時がある。
多くの人たちの様々な思いを受け止めつつ、ポジティブな気持ちで何事も建設的に考えること。
そんな強みを活かして、地域のための美術館運営に静かな情熱を燃やす。

公務員として更なる人的成長を目指して
公務員として更なる人的成長を目指して
 熊本県芦北町では、これまで3名の役場職員が派遣条例※の適用により青年海外協力隊に参加。帰国後はその経験を活かしながら、町のさまざまな部署で活躍している。
 町立星野富弘美術館で学芸員として勤務する宮本武蔵さんもその一人。大学卒業後、イギリスへ留学した宮本さんは、語学力を活かしてさまざまな分野の仕事ができそうな公務員に魅力を感じ、地元の芦北町に就職した。先輩職員が協力隊に参加する姿を見て、自身も開発途上国で人的成長を遂げたいとの思いが募り、応募を決意。2009年から2年間、アフリカのガーナでプログラムオフィサーとして活動した。 ※国家公務員や地方公務員が休職してJICA 海外協力隊に参加すること認める条例
芯を持って働くことを学んだ協力隊時代
 ガーナでは、海外の資金援助を受けて活動する現地の地域開発系NGOに配属され、業務改善や事務所の管理運営などの指導を任された。
 「とにかく忙しいNGOで、スタッフは行き先も告げずに現場へ出ていくため、電話がかかってきても何処にいていつ戻るのか、分かりませんでした。そこで、日本では当たり前のことですが、行き先や帰社時間などを共有する仕組みを導入しました」
 資金調達の際には、名刺やポスターのほかパンフレットなどの資料を作り、分散していた事業報告書を一カ所にまとめ閲覧できるようにするなど、町民向けにサービスを提供する役場での業務経験が活かされることも多かった。
 「資料のリソースセンターを設立したことで、開発学を学ぶ大学生が勉強しに来るようになりました。また、海外からの視察団には、きちんとした組織であることをアピールするのに貢献できたと思います」
 同僚から「組織にとって大切なことを教えてくれる存在」と感謝されていた宮本さん。協力隊活動を通して「何のためにその仕事をするのか」を意識しながら取り組むようになり、帰国後も自分の仕事の意義を考えながら、芯を持って働くことができているという。
小さな町にある美術館の意義とは
 現在勤務する美術館には、星野富弘さんが描く水彩の詩画が展示されている。群馬県出身の星野さんは、身体に障がいを負いながらも、口に筆をくわえて文や絵を描きはじめた詩人・画家だ。ここ芦北町の美術館は、群馬県高崎市にある本館の姉妹館として2006年にオープンした。
 「すべてを他人に頼ってしか生きていけない状態の中で、星野さんは自分のできることを考え、詩画を描くようになりました。彼が伝える、いのちの尊さや生きる喜びを感じていただければ嬉しいです」
 展示物を見せるだけでなく、資料の保存管理や資料を使った教育の普及も大切な仕事と考えている。目的・意義を考えながら能動的に仕事を生み出す点は、協力隊時代と変わらない。
 「人口1万7千人の小さな町に美術館があることの意義を考え、子どもたちや地域の人々に何を伝えられるか模索しています。地域のためになる美術館でなければいけないし、ただ存在するだけではもったいない。美術館の活用を学校教育に取り入れてもらうなど、地域に役立つメイン事業を考え、実施していきたいと思っています。現場はまだまだ受け身。そこにどうにかして入り込み、地域のリソースを使いながら新しい流れを生み出す働きかけは、協力隊の活動と似ていますね」
出会いは財産、原動力の源
 帰国して10年近く経つと、日常生活の中で協力隊経験を意識することはあまりない。しかし、日頃から何事にも柔軟に対応し、物事を前向きに、建設的にとらえる気持ちを持っていられるのは、協力隊経験が自然と自身の中に根付いているからだと宮本さんは語る。
 チャレンジしたからこそ出会え、命の尊さや生きる喜びをも教えてくれたガーナの人々や、同じ志を持って海外に飛び立ち、今も連絡を取り合い互いの近況に刺激を受け合う協力隊の仲間たち。
 「出会いは財産ですね。仲間のアクティブな活動を聞くと、規則的な毎日から一気に引き戻されます。私も常にチャレンジする気持ちを忘れず、地域のための美術館運営にどうすれば新しい風が吹かせられるのか、常に考えていきたいです」
  • 町内の小学校では、美術館の教育普及活動として出前講座などを行うなど、協力隊経験も織り交ぜながら、故郷や世界、いのちの尊さや生きる喜びについて伝えている。
    町内の小学校では、美術館の教育普及活動として出前講座などを行うなど、協力隊経験も織り交ぜながら、故郷や世界、いのちの尊さや生きる喜びについて伝えている。
  • 星野富弘さんの描く世界をどうやって来場者へ伝えるか。年5回の展示入れ替えは、学芸員にとって腕の見せ所でもある。
    星野富弘さんの描く世界をどうやって来場者へ伝えるか。年5回の展示入れ替えは、学芸員にとって腕の見せ所でもある。
  • 保育園児のためのお絵描き講座。小さいうちから「町の美術館」に愛着を持ってもらうための取り組みの一つ。
    保育園児のためのお絵描き講座。小さいうちから「町の美術館」に愛着を持ってもらうための取り組みの一つ。
宮本 武蔵さん
Profile
 熊本県芦北町出身。別府大学文学部史学科を卒業後、イギリスへの語学留学を経て芦北町役場に入庁。国民健康保険・年金業務を担当後、2009年3月から町が有する派遣条例を活用して青年海外協力隊に現職参加し、プログラムオフィサーとしてガーナで活動。帰国後は町役場に復職し、国際交流事業担当などを経て現在に至る。
宮本さんへのエール! 彼ならではの世界観を創り出して欲しい
 宮本さんは、学芸員としての専門は史学ですが美術もかなり勉強しているので、専門的なことは一任しています。星野さんの詩画の世界に深く入り込まなくてはならない難しい作業の際にも、季節に合った詩画を選び、企画内容とマッチする詩画をどう並べるかなど、彼の感性に頼るところは大きいです。来年は開館15周年。彼が語る、協力隊で培われた「地域のリソースを使いながら新しい流れを生み出す視点」での展開に、大いに期待しています。
町立星野富弘美術館 館長 下田 研さん
町立星野富弘美術館 館長
下田 研さん
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