日本も元気にするJICA海外協力隊 宮城県

中鉢(奥山) 典子さん

中鉢(奥山) 典子さん 青年海外協力隊
Noriko Chubachi(Okuyama)

ともだち・カワン・コミュニティ 代表/
宮城県柴田農林高等学校 教諭

【職場】
宮城県
【職業】
団体代表/高校教諭
赴任国
マレーシア
マレーシア
【赴任地】
サラワク州クチン
【職種】
青少年活動
【派遣期間】
2015年6月~2017年3月

派遣国とのつながりをきっかけに
国籍や年齢、障がいを越えた交流の場をつくる

青年海外協力隊の活動で学んだことは、どの国でもどの地域でも“人それぞれ”ということ。
相手のことが分からないと不安だが、一度友だちになれば互いに違うことも楽しくなる。
そんな体験ができる場を作り、今日も友だちの輪を広げている。

人と人とが心を通わせる
多様性が実感できる交流
人と人とが心を通わせる 多様性が実感できる交流
 中鉢さんが青年海外協力隊員として派遣されたのは、マレーシアのサラワク州立図書館。利用者増進のために現地の様々な団体と共にイベントを開催する中、ボランティアセンターの運営に携わっていたハムザさんとの出会いが、新たな活動の始まりだった。
 「津波や原発で大きな被害を受けた人たちを支援したい」帰国後、福島県に居住していた中鉢さんにハムザさんから突然の連絡があった。彼が被災者支援に関心をもった原点は、幼少期の個人的な辛い体験。「人は顔で笑っていても心では泣いている時がある。被災者も心の中では泣いているかもしれない。人と人が心を通わせることでみんなが幸せになってほしい」中鉢さんはそんな彼の想いに共感、2019年に多様性社会の実現を目的とした『ともだち・カワン・コミュニティ』を設立した。カワンはマレー語で「友だち」のこと。様々な人が共に暮らすこの世界で、お互いの違いを認め合い、皆が自分らしく輝きたい。そのためには「自分は認められている」という安心感が必要であり、そんな自己肯定感を支えるのが“友だち”だ。
 同年、ハムザさんを含めて4名のマレーシア人を福島県に招待し、市民と交流する機会を実現させた。ハムザさんはマレー系のムスリムで、他は「英語を話す中華系」「中国語を話す中華系」など、多様性を体現するマレーシア人を前に、市民は多くの刺激を受けながら交流を深めた。
友人や家族を大切に
マレーシア人の素敵な生き方
 大学卒業後、宮城県内の高校で勤務していた時、同校に招いた協力隊経験者の体験談を生徒と一緒に聞いた。「私も行きたい」と迷うことなく応募を決意し、現職参加※で夢を叶えた。
 中鉢さんの配属先となったボルネオ島は、マレーシア、インドネシア、ブルネイの3ヶ国の領土で成り立っており、マレー系、中華系、少数民族が暮らす多民族社会というのが大きな特徴。住民は友人や家族と過ごす時間を大切にし、自然も豊かでゆとりある生活をしていた。日本人のように仕事にのめり込んだり、完璧を求めたりすることもなく、定時になれば帰宅して自分の暮らしを楽しむ。出会った人たちとは心からの優しさで声を掛け合える関係になり、決して仕事上の付き合いだけで終わることはなかった。そんな関係は本当に心地よいものだった。
 配属先ではトップダウンで仕事が進み、日本との違いに戸惑うことも多かったが、そんな中でも図書館の利用者が増えるよう、様々なアクティビティを実施。自身の帰国後も活動が継続されるよう、同僚との技能共有にも力を注いだ。そして、活動の集大成として、図書館が地域住民の持っている知識や技術を他の住民に共有するセンター的な役割を担えるよう、情報をデータベース化。様々なニーズに対応できる検索システム『KaNCiL(カンチル=賢い動物の意)』を作り上げた。
※所属先の身分を保持したまま、休職してJICA海外協力隊に参加すること。
『ともだち・カワン・エキスポ』
一人ひとりが輝く場を
 マレーシアから帰国後、中鉢さんは『ともだち・カワン・コミュニティ』以外にも二つの団体の設立に関わった。一つは宮城県を活動拠点に、日本で暮らすムスリムと日本人が交流する場を作る『Tigmi(ティグミ)』。Tigmiは北アフリカで使われているベルベル語で、意味は「家」。国境や宗教を越えて一つ屋根の下、誰もがいつでも帰れる場所であって欲しい、という想いを込めた。
 もう一つは『ぶっくしまふくしま』。国籍も障がいも関係なく、大人も子どもも絵本を通していろんな表現方法と出会い、自分の好きなように気持ちを表すことを目指す団体だ。両団体とも、発足から本格的な活動まで仲間たちと協力しながら、事業を継続している。
 多様性を認め、お互いを尊重する。困っている人がいたら助ける。異なる視点から物事を考え理解し合う―これはハムザさんや仲間と大事にしている共通の想いだ。
 「2025年に『ともだち・カワン・コミュニティ・エキスポ』を開催することが目標です」と語る中鉢さん。マレーシアで学んだこと、帰国後に取り組んだこと、そしてそれを理解しサポートしてくれる人たちの想いを広く伝えるとともに、様々な立場の人たちや団体とのつながりを深めるエキスポにしたいという。
 「誰もが輝ける場」の実現。中鉢さんと仲間たちの思い描く未来は、決して遠いものではないだろう。
  • 地域の人々が多文化に触れる機会を精力的につくっている
    帰国後、福島への移住をきっかけに地域へのまなざしが生まれたという中鉢さん。地域の人々が多文化に触れる機会を精力的につくっている。
  • 活動仲間とともにマレーシアの写真を見ながら談笑、大切な時間の一つだ
    活動仲間とともにマレーシアの写真を見ながら談笑。今後、コロナ禍でストップしているマレーシア人との映画制作を開始する予定だ。
  • もうすぐ出産を控えている中鉢さん
    もうすぐ出産を控えている中鉢さん。育児や教員の仕事との両立は容易くないかもしれないが、活動の幅を広げていきたいと夢は膨らむ。
中鉢(奥山)
典子さん
Profile
 山形県出身。大学卒業後、宮城県内の高校に勤務。2015年、青年海外協力隊に現職参加。マレーシアに派遣され、青少年活動隊員として活動。帰国後、宮城県内の農林高校に勤務。プライベートでは国内のムスリムと日本人の交流の場をつくる『Tigmi(ティグミ)』、年齢や国籍、障がいの有無に関係なく絵本を楽しむ『ぶっくしまふくしま』の2団体の立ち上げに関わった。また、2019年には『ともだち・カワン・コミュニティ』を立ち上げ代表として従事。
中鉢さんへのエール! 市民団体の一歩先行く活動に期待
 市民活動のサポートをしていますが、中鉢さんの考え方や取り組みから教わることが多いです。障がい者やLGBT、外国人などのことを市民に理解してもらう活動は様々な団体が行っていますが、中鉢さんは常にインクルーシブな視点で一歩先を進んでいますね。これまで一緒に活動してきましたが、いつもこちらが多くのことを吸収させてもらっています。これからも力を発揮していただき、共に地域を盛り上げていきたいと思っています。
多賀城市 市民活動サポートセンター 副センター長 川口 葉子さん
多賀城市 市民活動サポートセンター
副センター長
川口 葉子さん
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