日本も元気にするJICA海外協力隊 宮崎県

田阪 真之介さん

田阪 真之介さん 青年海外協力隊
Shinnosuke Tasaka

宮崎大学 特別教授/株式会社グローカルプロジェクト 代表取締役

【職場】
宮崎県
【職業】
大学教員/会社経営者
赴任国
セントルシア
セントルシア
【赴任地】
グロズレー
【職種】
小学校教諭
【派遣期間】
2002年7月~2004年7月

故郷で続ける「飽くなき挑戦」、
世界と繋がる「教育」と「ビジネス」を創る

一見、無謀とも思えるような数々の挑戦には、確固たる裏付けがあった。
それは、青年海外協力隊で磨かれた『分析→企画/設計→実行』というスキル。
いつしかその力は様々な立場の人を結び付け、故郷と世界を繋いでいく。

苦手な英語にあえて挑む
新卒参加で味わった実力不足
苦手な英語にあえて挑む新卒参加で味わった実力不足
 田阪さんは大学卒業後の進路を考えた際、「広い世界を見てみたい」と思った。そんな時、電車の中吊り広告で『青年海外協力隊』の文字が飛び込んできた。「英語は苦手でしたが、海外で仕事をしてみたくて、社会人経験者の多い協力隊に新卒での参加を決めました」
 派遣されたのは、東カリブ海に浮かぶ島国セントルシア。小学校教諭の隊員として勇んで行ったが、教員経験もない自身の力不足を痛感させられた。その中で、「今の自分の力でできることは何か」を考えて取り組んだのが、セントルシア全土での模擬試験の実施だった。試験を通じて生徒の弱みや強みを分析し、授業にフィードバックさせるというものだ。教育経験が豊富な仲間の隊員を中心に据え、自身は現地カウンターパートたちに協力を仰ぐなどの裏方に専念し、実施にこぎつけた。
 がむしゃらに走り抜けた2年間だったが、帰国後に気づいたことがある。それは「現状を分析して企画を立て、それを基に設計して実行に移す」という行動を、常に繰り返していたことだった。
ビジネスでスキルアップを
数字で評価される世界に
 帰国後、ビジネスの世界で成長してみたいとの思いから、大手の教育関連企業に就職した。海外経験のタフさを買われ、任されたのはコンサルティング営業。「お客さんに喜んでもらいつつ、しっかり結果を出す。数字で評価されることは、協力隊では学べなかったこと。ビジネスの醍醐味を味わうことができました」
 そんな時、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞。彼の『ソーシャル・ビジネス』という言葉と出会い、協力隊経験とビジネスを掛け合わせることができると考えた。バングラデシュとインドネシアに飛んでフィールド調査を実施。社内の新規事業コンペティションにて「模擬試験を途上国でも販売する」と企画・提案したところ、最優秀賞を受賞した。
 その後、田阪さんは35歳で退職し、故郷の宮崎県でNPO法人グローカルアカデミーを起業。テーマは『宮崎と世界を繋ぐ教育とビジネスを創る』こと。「地方で、自分一人の力でブレークスルーを起こしてみたいと思ったんです」
宮崎と海外を繋ぎ地方創生
教育で起こす地方の好事例
 故郷を舞台にした新たな挑戦。ここでも活かされたのは、『分析→企画/設計→実行』というスキルだった。県内高校生・大学生の海外留学者数を増やそうと、地元企業でのインターンシップも兼ね備えた県独自の留学制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム『地域人材コース(宮崎県版)』」を、産学官連携で2016年に創設。2019年までに30人を、15ヶ国へ送り出すまでに成長させた。
 また、株式会社グローカルプロジェクトを起業。地方の高校生が、学んだ英語を使ってコミュニケーションをする機会が少ないという課題に対し、英文添削を通して海外と繋がり、外国人の友だちと文通する感覚で英語力を高めるICT教材『スマートレクチャーコレクション』を企画・設計した。国際交流にも繋がることが評判となり、リリースから3年で全国約200校、8万人が使うサービスにまで成長している。
 その後、JICAの専門家として事業総括を担ったのが、日本のIT人材不足とバングラデシュの雇用問題を同時に解消する『日本市場をターゲットとしたICT人材育成プロジェクト』(略称B-JET)※だ。バングラデシュのIT関連学部の卒業生を対象に、現地で3ヶ月間の日本語教育とIT技術研修を行い、更に宮崎大学での日本語教育と地域企業でのインターンシップを経て、高度なICT技術を有する外国人材の日本での円滑な就業を支援するというもの。県内では、宮崎大学と行政、そして地元IT企業が『宮崎-バングラデシュ・モデル』と呼ばれるシステムを構築。宮崎市では、バングラデシュ人材を採用した企業には補助金を支給する制度も設立された。「草の根の活動から行政の制度にまでしてもらえたことは、嬉しかったです」
 協力隊で磨かれた『分析→企画/設計→実行』のスキルを使い、挑戦を続ける田阪さん。「立場や考えも異なる人たちとの連携や支えがあって今があります。そう思えるのも、協力隊の経験があったからこそ。多少なりとも、故郷や地方に貢献できていますかね」
 田阪さんの、世界と繋がる「教育」と「ビジネス」を創る、という飽くなき挑戦は、これからも続いていく。
※B-JET Bangladesh-Japan ICT Engineers’ Training Programの頭文字
  • トビタテ!留学JAPANで留学した大学生と田阪さんらコーディネーター。海外留学に踏み出したい学生の背中を押し続けている。
    トビタテ!留学JAPANで留学した大学生と田阪さんらコーディネーター。海外留学に踏み出したい学生の背中を押し続けている。
  • B-JET生と日本の小学生をオンラインで繋ぎ国際交流会を開催。お互いの文化を学び合う、貴重な機会となった。
    B-JET生と日本の小学生をオンラインで繋ぎ国際交流会を開催。お互いの文化を学び合う、貴重な機会となった。
  • 日本政府からも期待を寄せられるB-JET生たち。当時の経済再生担当大臣がバングラデシュを視察した際に面会し、激励を受けた。
    日本政府からも期待を寄せられるB-JET生たち。当時の経済再生担当大臣がバングラデシュを視察した際に面会し、激励を受けた。
田阪 真之介さん
Profile
 宮崎県出身。大学卒業後、新卒で青年海外協力隊に参加。セントルシアにて小学校教諭隊員として活動。帰国後は、教育関連企業などを経て、地元の宮崎県にNPO法人やベンチャー企業を設立。産官学の連携事業を展開し、宮崎県とバングラデシュを結ぶ「日本市場をターゲットとしたICT人材育成プロジェクト(B-JET)」を総括担当。同事業が宮崎大学に引き継がれることから、2021年4月より同大学特別教授に就任。
田阪さんへのエール! 日本全体のメリットになるシステムを作ってくれました
 常にアクティブで前向き、調整能力が長けています。思慮深く、かつスピーディーな行動力は、協力隊経験の賜物でしょう。地方の労働人口は減り、人材確保が課題です。IT人材は、建設業やICTなど幅広い分野での活躍が期待されています。彼の作り上げた『B-JET』は、宮崎だけでなく日本全体のメリットになるでしょう。彼は我が大学の「宝物」。これからも、大学と外の世界との「繋ぎ役」として活躍を期待したいですね。
宮崎大学 副学長(国際連携担当) 村上 啓介さん
宮崎大学 副学長(国際連携担当)
村上 啓介さん
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