日本も元気にするJICA海外協力隊 奈良県

戸口 誠仁さん

戸口 誠仁さん 青年海外協力隊
Masahito Toguchi

株式会社大和農園 種苗販売部 営業

【職場】
奈良県
【職業】
会社員
赴任国
コロンビア共和国
コロンビア共和国
【赴任地】
アルメニア市
【職種】
病虫害対策
【派遣期間】
2013年7月~2015年7月

栽培しやすく美味しい野菜づくりと
食文化を豊かにする手伝いを

コロンビアでは、自ら動き、周囲の人と共に変化を起こしながら、国の将来を考えるプロセスを学んだ。
そこから得たのは、異なる視点で物事を見る力、そして固定観念に対して常に疑問を持つ力。
今、日本で、世界で求められる野菜づくりを通して、地域の未来を見据えている。

求められる野菜づくりを一緒になって考える
求められる野菜づくりを 一緒になって考える
 1920年の創業から、時代のニーズに合わせた野菜の品種改良や新品種の育成に取り組む株式会社大和農園。戸口さんは営業担当として、日本中の種苗店を駆けまわっている。
 きっかけは、企業団体向けに開催された青年海外協力隊の報告会。発表した活動に関心をもった同社が戸口さんに声をかけた。「未知の業界で、学生時代は避けていた営業職。最初は驚きましたが、国内外の様々な地域で学んできた知識や経験を活かせる、そんな仕事に惹かれて入社しました」今では、各地に足を運び、産地が抱える課題を聞き取りながら品種提案や技術情報を提供する仕事に、大きなやりがいを感じているという。
 世界をもっと知りたい―そんな思いから参加を決意した協力隊。「国民性や政府の方針などを知ると、その国や地域の内面が見えてきます。協力隊員として一つの国に長く住み、言葉を覚え、風土を感じることで知り得たことは多く、人生を大きく左右する経験でした」
 しかし、コロンビアに着任した当初は想定外の連続だった。本来は、政府管轄下の研究室でバナナやコーヒー豆などの病虫害対策に取り組むはずだったが、戸口さんの赴任前に政権が交代、研究室を立ち上げることができない状況になったのだ。途方に暮れながらも、農地を巡回して野菜や果樹の病気に関する指導から始めるが、検査もせず“見る”だけの指導では「…だと思う」としか言えず、歯がゆい思いをしたという。
自ら動くことで
自分とその国の未来を開拓する
 「自分が持つ知識や技術を伝えたくて、仕事を探すことからのスタートでした」自分の役目は何か。そんな模索を続ける中、近隣大学で研究アドバイスを行う活動をきっかけに大学研究室からオファーがあり、配属先を変更。病虫害対策を指導する環境が整った。コロンビアには植物病理学という学問がなく、その重要性は理解されにくかった。屈託のないコロンビア人だが、楽天的な性質が仕事にも影響して、なかなかプロジェクトも進まない。戸口さんは自ら栽培指導を行い、技術や知識を提供しながら理解者を増やしていった。
 国立大学の研究チームでは研究指導も行い、植物病理学の重要性を感じてもらうことで、コロンビアの植物を守るための人材育成につなげた。「正しいと思ったことは第一線で主張して、みんなを説得して良い方向に向かわせる。それが、私が赴任する意味だと思いました」
 自身が去った後の配属先を想像し、戸口さんは周囲の人々に想いを伝えていった。「日本の常識は通じない環境、文化や考え方が異なる人々との出会いを経て、“違うことが面白い”と思えるようになりました。主張の強いコロンビア人との討論で、メンタルも鍛えられましたね。この経験は、営業として新たな場所に行き、知らない人と会話するうえで大いに活きています」
 各産地の事情や考え方を否定せず、なぜそのような状況なのか背景を想像する。その上で自分の意見もしっかり述べる。お互いに思いを伝えあうことが、より良い結果につながっていく。協力隊で得た、異なる視点で物事を見る力、固定観念に対して常に疑問を持つ力は、今の生活の中でも様々な場面で役立ち、戸口さんを助けている。
地域の発展と食文化の豊かさのために
 コロンビアには、生野菜を食べる習慣があまりない。栽培技術や品種の問題だけでなく、暑さの影響で野菜が甘くなりにくいことに加え、洗う水道水も安全ではないため、生で食べるとお腹を壊しやすいからだ。日本の美味しい生野菜は、世界的にみると贅沢品なのかもしれない。
 一方で、日本国内でスーパーに並ぶ野菜は、耐病性を重視した結果、野菜本来の味が損なわれているものも少なくない。世界と日本にある食の格差をなくし、美味しい野菜をみんなに食べてほしいと戸口さんは願う。「野菜の新品種を開発する新情報をいち早く仕入れ、自社の品種改良に活用すること。これが私の考える地域貢献です。そうして作った、より美味しく、より病気に強い新品種を販売していくことで、野菜づくりに悩む人々をサポートしていきたいですね」
 近年では、JICAのプロジェクトでミャンマーを訪れ、特産もやし種子の収穫量向上のための栽培指導をはじめ、種子の発芽率や純度を高めるための調整指導などにも協力。野菜の生産性や食味を高める戸口さんの仕事は、日本で、世界で、求められている。
  • 全国各地に足を運び、産地の課題を聞き、共に考え、解決策や情報を提供する戸口さん
    全国各地に足を運び、産地の課題を聞き、共に考え、解決策や情報を提供する戸口さん。その土地で求められる野菜づくりと未来を育んでいる。
  • スイカ苗の出来栄えについて同僚たちと協議
    スイカ苗の出来栄えについて同僚たちと協議。相手の意見にじっくり耳を傾け、自分の意見もしっかり伝える術は、協力隊経験に磨きをかけたもの。
  • スイカとメロンの食味調査
    スイカとメロンの食味調査。より美味しく、より病気に強い品種を世に送り出すことが、食文化の豊かさと地域の発展に貢献すると考えている。
戸口 誠仁さん
Profile
 神奈川県出身。大学在学中に植物病理学を専攻し、より知識を身につけたいと大学院へ進学。卒業後、世界を知り、視野を広げようと青年海外協力隊に参加。2013年、病虫害対策隊員としてコロンビアに派遣され、植物病理学の視点から研究アドバイスを行う。帰国後、JICAが主催する企業団体向けの隊員報告会で株式会社大和農園と出会い、入社。現在、日本と世界の野菜の品質向上に注力している。
戸口さんへのエール! 親身になって成果への行動ができる存在
 何事にも前向きに取り組み、自身の可能性を伸ばす姿勢が素晴らしく、顧客や生産者の懐に飛び込むことが上手ですね。相手の要望を的確に捉え、行動に計画性を持つなど、期限ある中で最大の成果を得られるよう取り組んだ、協力隊での経験が大きいと思います。
 見知らぬ土地でも能力を発揮したように、現職でも未経験領域に挑戦しながら、さらに活躍の範囲が広がるよう期待しています。
株式会社大和農園 種苗販売部 部長 内田 健志さん
株式会社大和農園 種苗販売部 部長
内田 健志さん
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