日本も元気にするJICA海外協力隊 富山県

山下 裕美さん

山下 裕美さん 青年海外協力隊
Hiromi Yamashita

『よってカフェ』『あおむし』代表(高岡市立福岡小学校教諭)

【職場】
富山県
【職業】
団体代表(小学校教諭)
赴任国
ジャマイカ
ジャマイカ
【赴任地】
ポートアントニオ
【職種】
養護
【派遣期間】
2003年7月~2005年3月

協力隊で導かれた自身の「生き方」
個性豊かな子どもたちを支える活動をライフワークに

自分の力を試したい─若さゆえのチャレンジ精神が養護学校の教員から協力隊へと導いた。
ジャマイカで知ったのは、人の優しさと助け合いの精神が「社会で生きる力」になること。
障がいの有無に関係なく、子どもからお年寄りまで誰もが集える場所づくりで地域を変えていく。

ゼロからスタートして自分の力を試してみたい
ゼロからスタートして自分の力を試してみたい
 祖母が視覚障害者だったという山下さん。その影響もあって大学では障害児教育を専攻し、養護・ろう学校の教員資格を取得。2000年から富山県立となみ養護学校の教員として、知的障害児の指導にあたっていた。
 「就職して1年目に、同僚が青年海外協力隊としてサモアに行くと聞いたんです。人脈もなく言葉も通じない海外でゼロからスタートするのか……私も自分の力を試してみたい、と思いました」
 念願が叶い、2003年に現職教員特別参加制度※を活用して協力隊に参加した。派遣国はカリブ海の島国ジャマイカ。小さな港町であるポートアントニオの養護学校を中心に、知的障害児や聴覚障害児に図画工作を指導することが、主な活動だった。
※現職の教員が、その身分を保持したままJICA海外協力隊に参加する制度。
図画工作を通じて障害児の創作力を伸ばす
 赴任した頃、図画工作などの情操教育は軽視されがちで、教室もなく放課後ベランダで授業をすることもあった。そこで同僚と相談し、宿泊学習を企画。日本の企業が資金を援助してくれた。
 「2泊3日の合宿の間、ずっと図画工作をして、Tシャツ作りやローラー遊び、ビッグペーパーペインティングにも挑戦。子どもたち一人一人が、伸び伸びと創作活動に取り組んでいました。図画工作が好きになった子もいて、新たな才能の発見になったと思います」
 宿泊学習で残った資金を使い、学校の近くのバス停に壁画を描いた。ジャマイカの国旗を真ん中に、手を繋ぐ笑顔の子どもたち。同僚や子どもたちと3カ月かけて完成させた壁画は地元新聞でも紹介され、地域の人たちに子どもたちの創作活動を見てもらえる場になり、養護学校のイメージアップにも役立った。「こうした活動を続けるためにも、自分たちで資金を稼ごうと考えました。雑誌のページを三つ折りにしてバスケットを作ったり、粘土で花瓶を作ったり……おかげで子どもたちの創作意欲もだんだん向上していったんです」
 活動を一ヵ所だけで終わらせないために、協力隊の養護隊員が首都キングストンに集まり、合同のワークショップを開催。各都市の養護学校の校長や教頭など、スーパーバイザーの役割を担う者が約20名集まり、図画工作の模擬授業などを行った。一方で、重度障害児の施設でもサポートを続け、日本文化の紹介や簡単な遊びをするワークショップを開催した。
 「国際協力とは、お金や物を与えることではない。現地の状況を理解し、住民がそこにあるものでできることを考える。住民の努力を支援することなんだ、と実感しました」
 ジャマイカの人たちから学ぶことも多かった。ハリケーンの時には「ヒロ、大丈夫か」と心配してくれ、そんな心やさしい彼らの助け合いの精神に触れて、感動することも多かったという。
 2005年に帰国し、読み書き障害のある子どもの指導に困ったジャマイカでの経験から、(一社)日本LD学会※が認定する特別支援教育士の資格を、2年かけて取得。現在は、高岡市立福岡小学校にて特別支援学級や読み書き障害のある子どもたちへの指導を担当している。
※LD(学習障害)等の発達障害に関する研究・臨床・教育の進歩向上や、LD等を有する児(者)に対する教育の質的向上等を目的とした団体。
学校の外にも子どもたちの居場所を
 養護学校の卒業生が気楽に立ち寄り、悩み相談できる場を作りたい―そんな思いから、2010年に『よってカフェ』を開設した。「原則月1回ですが、春はお花見、夏はサマーコンサートなど様々なイベントも開催。地域の人たちも楽しみながら協力、参加してくれています」
 子どもたちは個性豊かで、学び方も千差万別。そんな子どもたちの保護者から依頼を受けて、2014年には放課後の学びの場『あおむし』を開設した。「社会で生きる力は、学校の学習だけから得られるのではありません。料理や掃除などの生活スキルを小さい頃から覚えること、人との関わり方やルールを身につけることも大切なんです」
 現在は、3歳から中学生までが自習や料理作りに取り組み、苦手なことへの挑戦や小さい子の面倒をみたりできるようになっているという。「今後は不登校児を集めたフリースクールの開設も目指しています。私は、協力隊活動を通じて、子ども自身の努力を応援することが大切だと気づかされ、生き方を導かれました。これからは、この財産を地域のために役立てていきたいです」
  • 養護学校の卒業生のために開設した『よってカフェ』
    養護学校の卒業生のために開設した『よってカフェ』。今では、障害や問題の有無を超えて地域の老若男女が集まる場になっている。
  • 子どもたちが心と身体の関係をコントロールできるようにと、活動には今話題のマインドフルネスも取り入れている
    子どもたちが心と身体の関係をコントロールできるようにと、活動には今話題のマインドフルネスも取り入れている。
  • 3歳から中学生までが通う『あおむし』
    3歳から中学生までが通う『あおむし』では、料理などの生活スキルを覚えることで、人との関り方やルールを身に着けていくという。
山下 裕美さん
Profile
 富山県出身。大学で障害児教育を学び、卒業後は富山県立となみ養護学校の教諭を務める。現職教員特別参加制度を活用し、2003年に青年海外協力隊としてジャマイカへ。現在は高岡市立福岡小学校で特別支援学級の指導にあたる傍ら、『よってカフェ』『おあむし』を開設して活動中。
*現在、養護学校は特別支援学校に、ろう学校は聴覚支援学校に名称変更。
山下さんへのエール! 子どもたちへの支援の輪が広がるよう応援したい
 教員をしていた時に山下さんを知り、その考え方に共感して、退職後は『あおむし』のスタッフとして活動しています。山下さんは、障害児や問題を抱えた子どもたちの支援が、生き方そのものになっているような、すばらしい女性。支援のためのアイディアを、次から次へと出してくるんです。この会の活動の輪がさらに広がるよう、これからも応援していきます。
学びの場『あおむし』 学習支援スタッフ、本澤 泰子さん
学びの場『あおむし』 学習支援スタッフ
本澤 泰子さん
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