Interview

ICTで広がる国際協力の選択肢。
魅力ある日本語教育を目指して

松田 智子さん職種:日本語教育
石川県かほく市生まれ。福井大学教育地域科学部卒業後、地元企業に就職。ベトナムで日本語教育事業や留学事業を展開する会社への転職をきっかけに、本格的に日本語教師の道を目指す。日本国内の日本語学校にて教師を経験した後、2019年7月からJICA海外協力隊としてブラジルのサンパウロ州モジ・ダス・クルーゼス市(ピンドラーマ)に赴任。
派遣国:ブラジル
現在の活動:石川県にて、ベトナムへ向けたオンライン日本語教育
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(上)カウンターパート(左から3人目)と、任地の近くに派遣されている隊員仲間
(下)通常の授業風景

異なる文化を理解し、
互いの意見を尊重する姿勢が必要

JICA海外協力隊を初めて知ったのは、小学校の授業です。海外協力隊について学び、「海外に渡る国際的な仕事」へ漠然とした憧れをもっていました。その後、日本語教師の資格取得を目指して学校に通っていた際、協力隊経験者からブラジルの日系社会や、継承語※としての日本語教育が必要とされている話を聞きました。その時、自分にできることがあると考え、JICA海外協力隊に参加することを決意します。

派遣先がブラジルに決まった時は治安面が一番不安でしたが、実際行ってみると、危険なエリアへ行かない・夜出歩かないなど、意識して自衛手段を取れば問題ないと感じました。

現地へは、日本語教育隊員として2019年7月から赴任しました。当初は、日系の子どもに向けた継承語教育のつもりで渡航したのですが、現地の日系の子どもが通う学校ではJLPT(日本語能力試験)などの試験対策も求められたため、10歳から18歳の生徒に向けたJLPTレベルN5~N3※の本格的な授業を行いました。

活動中、カウンターパート※との意見の相違で、仕事が進めづらいと感じる場面も何度かありました。人とスムーズなコミュニケーションを取るには、相手を尊重しながら自分の意見や改善策を伝える。一番大切な信頼関係を構築しつつも、自分と異なる価値観の違いを楽しむことが大事だと再認識しました。

※継承語:親から受け継ぐ言葉のこと。
※日本語能力試験のレベルのことで、N1 ~N5の設定で、N1が一番難しい。N3は日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できるレベル。
※カウンターパート:赴任国現地で行動を共にし、活動に協力してくれるパートナーのこと。

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オンライン授業をしている様子

一時帰国は広い視野で
行動を振り返るチャンス
今こそ次のステップへ移る準備を

世界中での新型コロナウイルス感染症の拡大により、私たちJICA海外協力隊も現地での活動を中断し、日本へ一時帰国することになりました。私はまだまだやり残したことがたくさんあり、帰りたくない気持ちが強かったのですが、現地に残ることで自身の命にも関わる状況を考えると「帰りたくないけど、帰りたい」という複雑な感情でした。

日本へ帰国後、14日間の隔離生活となりましたが、その時はどこか無気力になってしまい、何も考えられない状況が続きましたね。ですが徐々に、「この現況を乗り越えるには、自分に今後何が必要で何ができるのか」と、今一度足元を見直して考えるようになりました。このような振り返りの時間を経て、ブラジルでの隊員経験を生かし、視野を広げて前を向いて進んでいこうと決意しました。周りのJICA海外協力隊の仲間が国内でいろいろな活動をし始めていたことも、自分の原動力になったと思います。

現在は、日本語教師の資格を取得した学校の先生からの紹介で、来日予定がコロナ禍によって白紙になってしまった5人のベトナム人を対象に、オンライン授業で日本語を教える活動をしています。そして、このコロナ禍をきっかけに地元の様々な方とお話をする中で、日本語学習が上手くいかずに困っている外国人がいるという、地域の問題にも気づくことができ、地元の公立中学校に通う外国人生徒に向けた日本語教育にも挑戦し始めています。

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少人数制の授業では、活発な意見交換ができるような雰囲気作りを心がけている。

一時帰国中に実感した
ICT教育のメリット
効率的な学習スタイルの可能性

JICA海外協力隊としてブラジルへ赴任する以前にも、ベトナムで日本語教師をしていたこともあり、それらの経験から日本語教育は対面授業が基本スタイルだと思っていました。ですが、今の状況下では海外へ渡航することが困難なため、パソコンやタブレットなどのICT(情報通信技術)を活用したオンライン授業が主流になりつつあります。

また最近では、日本語学習をゲーム感覚で楽しめるアプリケーションがとても充実していたり、様々な動画を見せたりもできるため、対面よりも合理的に授業を進めることができるメリットが十分にあります。教師にとってICT教育は、これからの新しい選択肢のひとつだと感じています。現在実施しているベトナム人へのオンライン授業でも積極的に取り入れていますし、もし今後ブラジルへ再赴任できるならば、工夫してICTを活用し、皆が楽しめる授業に挑戦していきたいと考えています。

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朗読会で入賞した生徒たちとの集合写真

「日本を好きになってもらいたい」
未来の日本を創る、
自分にできる小さな一歩

ブラジル現地では、日系の方を中心に日本の文化、特にアニメや漫画などのカルチャーが、世代を越えて広く人気を集めています。今回の派遣で自分の知識不足を痛感したこともあり、この一時帰国中にいろいろな知識を身に付けようと、日本文化を改めて勉強中です。一時帰国中とはいえ、やることはまだまだ尽きそうにありません。

私が日本語教師を目指す主な理由は、海外の人に「日本をもっと好きになってもらいたい」そして「未来の日本を盛り上げたい」ということ。そのために私ができることは、海外の方々に日本ならではの文化や慣習に触れてもらい、もっと日本を好きになってもらう、その小さな一歩を踏み出すきっかけを作ることです。それを実現するために、大学院に通い日本語教育を基礎から学び直す予定です。

日本語教育を通して、今後の国際社会を引っ張っていく国際人材の育成に携わることを夢に掲げ、その実現に向けて歩き続けます。

※インタビューは2020年8月に行われました。