Interview

人との出会いは財産。
多様性を認め合うことで、
自分の成長につながる。

川崎夏美さん職種:幼児教育
新潟県新潟市生まれ。新潟県立大学人間生活学部子ども学科卒業後、県内の幼稚園に5年間勤務。2018年9月からJICA海外協力隊としてヨルダンに赴任。公立幼稚園にて幼児向けのアクティビティのプログラムを実施するほか、現地教員向けのワークショップの企画運営も行う。一時帰国中に任期が終了し、現在は新潟県の認定こども園に勤務しながら、ヨルダンに向けて幼児教育動画の制作・発信を行う。
派遣国:ヨルダン
現在の活動:新潟県から、ヨルダンに向けて幼児教育動画を制作・発信
01

(上)身体を動かす運動系のアクティビティを行う様子
(下)子どもたちに折り紙を教える川崎隊員

人生を変えるキッカケを生む、
人との出会い

私は、何か資格を取得して手に職を付けたいと考え、大学では子どもの未来を支える幼児教育の分野を専攻していました。在学中は教授との出会いにも恵まれ、創造性や社会性を養う幼児教育の魅力を感じつつ、子どもを育てることで自分自身が成長できることも実感し、この道で行こうと決心しました。

大学時代には短期でフィリピンやカンボジアの孤児院へのボランティアへ行くなどもしましたが、幼稚園の先生として海外の教育現場で長期間働くという選択肢を考えたことはありませんでした。しかし、大学4年生のときに、教授のつながりで協力隊経験者の体験談を聞く機会があり、そこで初めて幼稚園の先生でも海外で活躍できる場所があるということを知りました。そして、自分もいつか海外で幼児教育の現場を経験してみたいと思い描くようになりました。大学卒業後しばらくは地元の幼稚園で勤務していました。幼児教育の楽しさとやりがいを感じながらも、これからの自分のポテンシャルをもっと広げるために、JICA海外協力隊に応募しました。

現地では、首都アンマン近郊にあるいくつかの幼稚園を巡回し、現地の先生たちと一緒に、子どもと身体を動かしたり考えたりするアクティビティを行いました。玉入れ・綱引き・かけっこ・鬼ごっこなどの運動、絵の具遊びや折り紙、さらに現地の先生たちは教育系のアクティビティ(文字のカルタや数字ゲームなど)を好むので、そういったものもバランスよく紹介しました。また週の半分くらいは、幼稚園が終わった後に、私が所属していた公立幼稚園を管轄する教育局に出かけて、幼児教育担当のカウンターパート※と共に運動会などの幼稚園行事や、先生向けのスキルアップワークショップの企画などもしていました。

※カウンターパート:赴任国現地で行動を共にし、活動に協力してくれるパートナーのこと。

02

幼児教育用のYouTube動画を作成・発信し、日本からヨルダンへのアプローチをしている

気持ちが伝われば、
行動が変わる

一時帰国が決まったときは残りの任期が半年というタイミングで、その期間で自分に何ができるか、やり残したことはないかと考えているところでした。帰国してからは、この状況は仕方がないと思いながらも、やり残したことが日々自分の中で膨らんできて、徐々に悔しさが込み上げてきました。ただ、自分にできることは限られていたので、ヨルダンの先生たちと連絡を取ったり、現地で通った幼稚園の行き方を忘れないように地図に位置を書き込んだりと、少しでも気を紛らわせ、モチベーションを保っていました。

そんな中でも、カウンターパートからの連絡で「コロナが収束したら、幼稚園の運動会もやるし、ワークショップもやるつもりでいるから、その時は一緒に考えてほしい」と言ってもらえたことがとても嬉しかったです。自分の活動は意味があったと感じましたし、自分の思いがしっかり現地の方に伝わっていたのだと思えました。

一時帰国中の活動としては、任国へ向けて踊りや手遊び、折り紙などの幼児教育用の動画を作成してYouTubeにアップしています。現地で活動している時から動画は積極的に取り入れていて、普段の活動やワークショップ内でも活用していました。一時帰国した後、日本から数本の動画をアップしてみたところ、 現地の先生たちから「遠い日本で、ヨルダンのために考えてくれてありがとう」という声をいただき、思った以上に喜んでくれて、私も感動しました。日本からでも貢献できる新しいアプローチ方法が見つかったと思いました。その後も、折り紙の遊び方や、現地でもよく食べられ、栄養価の高い「卵」についての簡単な食育教材動画など、色々と企画して制作しています。手工芸が得意な同期隊員に小道具の制作を手伝ってもらったり、アラビア語の発音を正しいものにするためにナレーション音声を現地のカウンターパートに依頼したりするなど、様々な人の協力を得ながら、活動を続けています。

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コミュニケーションの大切さをより意識するようになったと語る川崎隊員

喜怒哀楽の感情を伝えて、
豊かな表現力を養う

認定こども園で働くことになった経緯は、以前からお世話になっている方から声をかけてもらったのがきっかけです。幼児教育の場に携わっていたかったこともあり、3~5歳の子どもたちを対象に、園内で安心して楽しく過ごせるように努めています。

その際、協力隊の活動を経て自分が成長したなと感じる点がありました。子どもたちとより正面から本気で向き合うことを意識するようになったことです。先生の表現力が子どもの感情に与える影響はとても大きく、ヨルダンではなかなか自分の言葉が通じないからこそ、自然と喜怒哀楽の感情を表現する力が必要になりました。改めて現場に出てみると、以前よりも多くの感情を子どもと共有しながら関われるようになったと気付きました。また、一緒に働いている同僚とのコミュニケーションは幼児教育の現場に限らずとても大切です。現地では伝える手段を言葉だけでなく、紙に書いたり動画を見せたりと、できるだけ可視化して説明をしていました。言葉で伝わらないことも伝わるようになり、先生たちの興味を引くことができました。今働いている職場でも、自分の持っている知識や経験の伝え方を工夫し、相手に一方的に受け入れてもらう形ではなく、問いかけて考えてもらうことで相手が自ら気づく形を意識するようになりました。

04

カウンターパートと先生向けのワークショップを行う様子

他者の価値観を尊重し、
他者の魅力を認める

協力隊での活動経験を通して、様々な考えを持った色んな人に出会えたことは、自分にとって大きな財産になっています。

カウンターパートはとても気立てのよい人で、私の言葉に伝わりづらい部分があっても取り持ってくれ、助けてもらいました。また、派遣中に転勤してきた若い女性の先生との出会いも、私が幼児教育の原点に立ち返ることができた時間でした。その先生は子どもを愛おしく思い、何事にも意欲的に取り組む人で、一緒に活動する時間が本当に幸せでした。
以前は自身を人と比較してしまうこともありましたが、今は多種多様な価値観を尊重することの大切さを実感しています。日々、子どもの成長に携わる経験は、一つひとつが自分の中に蓄積されます。その環境の中で、幼児教育をよりよくするために自分にできることは何かを常に考えるようになり、そこに難しさとやりがいを感じています。まずは自分の弱い部分を理解して、今以上に経験を積み、自分なりの幼児教育を語れるようになること。それが、これから私がステップアップしていく最初の一歩だと思います。

※インタビューは2020年9月に行われました。