Interview

子どもが夢や希望を持てる
社会の実現を目指すために
できること

山縣 亮介さん職種:青少年活動
山口県生まれ。山口大学教育学部卒業後、2019年7月からJICA海外協力隊としてパプアニューギニアに赴任。現地の小学校にて英語と算数の指導を担当。一時帰国中の現在は、山口県の認定特定非営利活動(NPO)法人山口せわやきネットワークが実施する「こども明日花プロジェクト」に参加。家庭事情や経済的な理由で悩みを抱える子どもたちに向けた、英語や数学の学習支援ボランティアを行う。
派遣国:パプアニューギニア
現在の活動:山口県にて、英語や数学の学習支援活動
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(上)任国の学校にて英語の授業を行う山縣隊員
(下)算数を勉強する児童たちの様子

子どもたちへ伝えるために
世界が抱える問題を体験

大学時代は教育学部に在籍し、中学校や高校の英語教員を目指していました。日本の教科書には、水道が使えない国があるとか、働いた賃金をきちんともらえず苦しい生活を強いられている人がいる等といった話がよく出てきますが、私はそういった話をする際に、それが現実であることを現地で実感した上で教えたいと思っていました。JICA海外協力隊に応募することを決めたのも、英語教師としてのスキルアップだけでなく、国による習慣や文化の違いを実感したり、世界が抱える課題に現場で取り組んだりすることで、帰国後にそれらの経験を子どもたちに伝えられると考えたためです。

パプアニューギニアへは、困難を抱えた子どもたちに寄り添いながら健全な育成を目指す「青少年活動」の隊員として赴任して、現地の教会が運営する小学校で、英語と算数を教えていました。オロ州ポポンデッタという街で小学3年生の担当をしていたのですが、生徒に配布されるべき教科書が満足に行き渡らず、机や椅子も満足にない状態でした。子どもたちが教師の板書を写すだけの授業が行われ、学習環境が整わないことも、生徒の基礎学力不足につながっていると感じました。

最初は私自身が教壇に立つのではなく、先生が授業をして私が助言する形での支援を考えていました。ですが、物がない・設備がないという環境では、日本と同じように物事が進まないと感じ、実際に自分で授業をしてみないと助言もできないと気付き、自分でも授業をするようになりました。

算数では、計算能力の向上のために、5×5のマスの交差する数字を計算する「25マス計算」を取り入れました。さらに数の理解を深めてもらうため、リンゴや棒などの絵を見せて、物と数を結び付けられるように指導しました。英語は、読み書き能力向上のために、綴り字と発音との間にある規則性を学ぶ「フォニックス」を取り入れ、語彙数を増やすため、リズムに合わせて単語をつなげて歌う教育手法にも挑戦しました。その様子を見て、他の先生から「今度うちのクラスでも歌ってよ」と言ってもらえたことは、とても嬉しかったです。

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ひとり親就学支援助受給家庭支援学習会の様子

人の出会いと学びは、
未来への希望の一歩

一時帰国が決まった時は、小学校の新学期がスタートし、新しい子どもたちとの信頼関係を作る大事な時期でした。そのため帰国後も現地とつながりたいと考えましたが、現地ではネット環境が不十分で、オンラインで連絡を取ることがままならず、とても悔しい思いをしました。

しかしその一方で、協力隊の仲間たちが農業支援やオンライン授業など、国内で社会貢献活動を始めたという話を耳にし、自分も心を切り替えて動かないといけないなと思いました。

そしてちょうどその時に、新型コロナウイルス感染症拡大により収入が減るなどして、生活に困窮する山口県在住の外国人を対象にした食品配布のイベントがありました。青年海外協力隊山口県OB会が主催するもので、山口県のJICAデスクからその会への参加を打診いただき、まずはそこへ参加しました。そしてそのイベントの場で、認定NPO法人に所属し「こども明日花プロジェクト」という支援活動を行っている協力隊経験者の方と出会います。そのプロジェクトは、家庭事情や経済的理由で悩みを抱えていたり、見守ってくれる大人が周りにいなかったりする子どもたちへ向けて居場所づくりや学習支援などを行うもので、“どんな環境に生まれ育っても、こどもが明日(あす)に希望を持てる社会を実現する”というビジョンを掲げています。その考えは、まさに私が赴任先で感じていたことと共通するものだったこともあり、7月からはそちらで学習支援のボランティア活動を始めました。

現在は、こども明日花プロジェクトの一環の「さくらさく学習会」で、中学生に向けて週1回英語を教えています。高校合格が目標なのですが、基礎学力の形成、学習習慣や学ぶ姿勢づくりといった基礎的な指導も重要です。児童養護施設から通う子どもたちは、高校に進学しないと施設から出なくてはいけないという状況もあり、プレッシャーもありますが、私が取り組みたいと思っていた教育を実践できていると感じています。

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出前講座を行う山縣隊員

世界が抱える問題を、
自分ごととして捉える

パプアニューギニアの教育省の発表によると、およそ3割の子どもが何らかの理由で初等教育を受けられない環境にあるといいます。基礎学力を身に付けないと、仕事に就くことが難しかったり、社会保障が受けられず不利益を被ってしまうことが多くあります。それは世界共通の課題であり、日本においても基礎学力を身につけることは最も重要であることを改めて感じたので、その部分を支援していきたいと考えています。またNPOでの活動のほかに、依頼を受けた学校に対して国際協力出前講座を行う活動もしています。赴任国の紹介や私の活動、世界が抱える課題について話すのですが、子どもたちの反応はとても励みになります。「自分が思っているより、世界は厳しい状況ということを知りました」「日本の教育は恵まれていると気付いた」などの意見に加え、「開発途上国の抱えている問題は自分たちにも責任がある。自分たちの問題として考えていきたい」という声をもらいました。普段の生活では自分ごととして捉えることが難しい話だと思うので、講演をしてよかったと嬉しい気持ちになりました。

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現地の学校のクラス写真

子どもたちの
明るい未来のために
教育者としてできることを。

今、活動のフィールドは国内ですが、これから先も、赴任先で感じた「全ての子どもたちが将来に希望を持てるよう支援していきたい」という思いはずっと変わりません。もちろん、中学校や高校で英語を教えたいという思いもあります。英語を勉強することで、得られる情報が増えますし、英語を使うことで自分の選択肢を増やすこともできます。英語教育を通して、子どもたちの可能性を広げるお手伝いをしながら、世界の諸課題を自分ごととして考え、課題解決を図る人材の育成に携わりたいです。目を背けたくなるような格差の現状に絶望するのではなく、私たち一人ひとりの行動によって変えていけるものだということを子どもたちに伝えていきたいと思っています。

どんな環境に生まれても、子どもが明日に希望を持てる社会を実現する日は必ず来ると、私は信じています。これからも、その未来に向かって活動し続けます。

※インタビューは2020年10月に行われました。