Interview

リモートでの有機栽培支援。
新たな国際協力の形を実現する

石川栄貴さん野菜栽培
東京都生まれ。拓殖大学国際学部卒業後、民間企業へ就職。2016年に東京都大島町へ帰郷し、就農者支援研修センターに通いながら農業を始める。2019年1月からはJICA海外協力隊として、ネパールで農家に対する技術指導・普及を行う活動に従事。一時帰国中の現在は、無農薬・無化学肥料の野菜を育てながら、農業に関する動画を制作。ネパールに向けて配信をしている。
派遣国:ネパール
現在の活動:東京都大島町にて、ネパールに向けた農業関連動画の制作・配信
01

(上)野菜の直売所で農家の方にインタビューをする石川隊員
(下)農家の方に野菜の栽培方法指導をする様子

海外で働くというあこがれ
強く思い描いた未来が
現実になる

小学生の頃、国連平和維持活動(PKO)でイラクへ派遣された陸上自衛隊が現地で食料支援をする姿をテレビで見て、漠然と海外で働くことにあこがれを持っていました。それから中学・高校と、世界の課題や国際協力について勉強する機会が増えていく中でJICA海外協力隊を知り、そういった活動へ参加して海外支援をしたいと、未来の自分を思い描くようになりました。

2011年、東日本大震災が発生したときに、大学のボランティアチームに参加しました。そこでは、ボランティア活動のために世界中から集まった支援者たちの活動を目の当たりにし、自分も将来海外で活動して、恩返しをしたいという想いが芽生えました。

大学卒業後の2017年には、大学の専門性や知見を活用するJICAと拓殖大学の大学連携※が締結されました。私は卒業生として参加することになり、その第一号の隊員としてネパールに派遣されることになりました。

ネパールは標高60mの平原から8800mに上るヒマラヤ山脈まで大きな標高差があり、この標高差が自然や社会の多様性を生み出し、多民族・多言語国家を形成しています。そのような中でも周囲とコミュニケーションを取りながら生活するネパールの方は、相手を思いやり、感受性が豊かな人が多く、治安も安定しています。

派遣中は、ネパール中部のゴルカ郡にある農業普及センターで、各農家を回り意見交換をしながら、有機栽培の普及や栽培方法の指導に努めました。

※現地での活動支援を充実させるために特定の大学の専門性・知見を活用し、大学側の組織的バックアップ(教官、委員会などの指導等)のもと、大学生、大学院生などを派遣するもの

02

一時帰国後も故郷の大島で無化学肥料、無化学農薬の野菜栽培に勤しむ

持続可能な農業を
目指すために
化学肥料も農薬も使わない

一時帰国が決まったときは、ネパール人の愛情深い人柄もあったと思いますが、「早く日本に帰ったほうがいいよ」と心配してくれる人が多くいました。その頃、現地では有機野菜の市場価値を上げるため、ブランド化する活動を始めていました。1年かけて現地での野菜づくりの環境を把握し、2年目に入ったところで農家の人たちと一緒に栽培計画を立て、普及させていくタイミングでした。現地の人ともコミュニケーションが密に取れるようになってきたところで、活動もまだ途中だったので、とても残念でした。

日本へ戻った後は、生まれ育った大島へ戻り、派遣前に耕していた自分の畑で農作業をすることにしました。1ヘクタール弱の広さの畑で、無化学肥料、無化学農薬で野菜を中心に、今の時期はさつまいもや落花生、葉物野菜などを栽培しています。

実は、以前は当たり前のように化学肥料や農薬を使って、花の栽培をしていました。しかしある日、友人に子どもが生まれ、自分で育てた花をお祝いにプレゼントした時、「農薬のついた花を赤ちゃんに触れさせてもいいのだろうか」という気持ちが頭の中に浮かびました。そのときから、農薬や肥料を使った農業は、本当に自分がやりたいことなのかと考えるようになり、環境にも人にも優しい方法に取り組まないといけないと気付きました。生産者として持続可能な農業を確立していく必要があると感じ、その出来事があってから、少しずつ有機栽培を勉強し、切り替えていきました。

03

動画を活用したコミュニケーションにも取り組む

動画を活用した
新しいコミュニケーションの形

ネパールで出会った農家には文字の読み書きや、計算ができない人も多く、栽培方法を記したマニュアルを渡しても効果的ではありませんでしたし、口頭で栽培方法の説明をしても、私が話した内容をメモに取ることができず、知識を定着させることがなかなか困難でした。

こうした識字率の低さもあり、赴任中から栽培方法などを動画にまとめて伝える手法で挑戦していました。動画だと繰り返し見ることができますし、文字が分からなくても内容が伝わりやすいと思ったからです。日本に戻ってからも数本アップしているのですが、現地から「うまくいった」「効果があった」という反応が多くあり、とても嬉しかったです。

今は、栽培技術や害虫駆除の方法など、無農薬栽培のノウハウ動画を撮り貯めています。今後は、現地の仲間にお願いして現地語のナレーションを入れるなど、一緒に工夫して作り上げた動画を発信したいと考えています。

04

人に寄り添う優しさを忘れずに今後も活動をしていきたい

思考と心の
多様性を受け入れ、
自他共に尊重する社会へ

ネパールでは、化学肥料や農薬の正しい使い方を理解せずに使ってしまっていることが多くあります。そのため現地では、有機栽培の普及・促進ということに加えて、単純な化学肥料の使い方や農薬の安全な使い方など基礎的な知識も併せて指導していました。

今でもそういった基礎的な質問や困りごとが、現地の人からオンラインで届くため、個別にサポートをしています。小さなコミュニケーションですが、こうした活動を続けていくことで、ネパールの有機栽培の光を絶やさないようにしていきたいと考えています。

また、JICA海外協力隊を経験したことで、本当の意味での多様性を受け入れることを学びました。ネパールには130ほどの民族がいるといわれ、日々、さまざまな人種の人たちと出会うことができます。いろんな民族の人と関わっていく中で、他者の価値観を受け入れられる力が身に付いたと実感しています。

実は、ネパール人は、技能実習生というかたちで日本に多く滞在しています。農家に滞在している人も多くいますので、自分の農園でも受け入れて研修を受けてもらい、その人がネパールに帰った後、現地の仲間へ教えて広がっていく、そんなビジョンを描いています。ネパールで学んだ、相手を思いやり人に寄り添う優しさを忘れずに、これから先も日本や世界で支援を必要とする人たちの力になれるような、様々な活動をしていきたいと考えています。

※インタビューは2020年10月に行われました。