国際交渉の最前線から途上国の計画策定まで 伴走の気持ちで気候変動問題に取り組むフロントランナー【国際課題に挑むひと・6】

#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs

2023.11.13

《JICAの国際協力活動には、JICA内外のさまざまな分野の専門家が、熱い想いを持って取り組んでいます。そんな人々のストーリーに着目し、これまでの歩みや未来に向けた想いについて掘り下げる「国際課題に挑むひと」。第6回は、気候変動分野のコンサルタントである加藤真さんです》

一般社団法人海外環境協力センター(OECC)の加藤真さん

一般社団法人海外環境協力センター(OECC)の加藤真さん

仲間がいるからこそ課題に立ち向かえる

世界の国々が気候変動について議論するCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が、11月30日〜12月12日の日程で開催されます。気候変動は、世界全体で取り組まなければならない喫緊の課題。それによってもたらされる諸問題は、先進国だけでなく、途上国でも同じように課題解決に向けた取り組みが必要とされています。

「気候変動問題は、この地球に住むすべての人に関係する課題です。だからこそ、さまざまな人たちと助け合わなくてはいけません。逆に考えれば、それは一緒に仕事をする仲間がたくさんいる、ということ。日々情報がアップデートされていく分野でもあるので、大変なことも多いですが、世界各地の多くの人たちと協力しながら仕事ができるのは非常にやりがいがあります」

そう話すのは、一般社団法人海外環境協力センター(OECC)に所属する環境コンサルタントの加藤真さん。JICAが行う国際協力事業においては、途上国から政府関係者などを日本に招いて行う研修のほか、タイやベトナムでは、政府や自治体が行う気候変動対策の計画策定や実施支援などに携わってきました。また、COPなど国際会議でも幅広く活躍しています。

ベトナム政府の担当官たちとの勉強会

ベトナム政府の担当官たちと気候資金に関する勉強会。気候変動対策に意欲的な人が多いという

インターンを通じて気候変動に“出会った”

加藤さんをよく知るJICA職員は、加藤さんを「気候変動分野のフロントランナー」だと評します。そんな加藤さんが気候変動分野に触れたのは、大学院時代のインターン活動がきっかけでした。

「国連アジア太平洋社会経済委員会(UN ESCAP)にインターンとして入り、ここでのさまざまな出会いとチャンスをもらえたことが、今の仕事につながっています。学生時代は国際法や行政学を勉強していたのですが、気候変動分野は間口が広かったのも幸いしました。政策や法制度をつくる法律家など、いわゆる文系でも活躍している人が多いんです」

国際協力に興味をもったのは、地元の北九州で暮らしていたころのこと。1960〜70年代の公害経験をもつ街に生まれ育ったことで、幼くしてその克服にまつわる教材に触れていたことや、北九州市にあるJICA九州で行われる普及啓発イベントにも積極的に参加していたことが、自身の出発点だと話します。大学時代には、国連で取り扱われる諸問題についてディベートなどを行う模擬国連というサークル活動にも参加しました。

そして、UN ESCAPのコンサルタントとして活躍した後、現在も所属するOECCに入り、日本政府の気候変動分野の開発途上国支援や、日本が進める二国間クレジット制度(JCM/途上国と協力して温室効果ガス削減に取り組む制度)の促進事業などに携わってきました。

それらの活動を通じて活躍の舞台を広げていった加藤さんは、2004年のCOP10から、国連の気候変動交渉に日本政府代表団として参画しています。「サークルの活動ではなく、本当に、自分が国際交渉のリアルな現場に来たのだと思うと、感慨深いものがありますね」

COPの交渉にあたった各国代表との記念写真

COPの交渉にあたった各国代表との記念写真。右から5人目、「CO-FACILITATOR(共同進行役)」の札を持つ加藤さん

変化の早い分野ならではの苦労と醍醐味

加藤さんがコンサルタントとして携わったJICA事業は、たとえば、タイ・バンコクの「気候変動マスタープラン」作成を支援するプロジェクトが挙げられます。バンコク都が今後取り組むべき内容を計画にまとめる作業において、専門家の立場から助言しながら、ともに作り上げていくのが役割です。

「バンコクでは、まちづくりを考える上で、これまではあまり気候変動のことは頭に入れられていませんでした。たとえば、豪雨などで道路が浸水すると大渋滞が起き、都市の機能が著しく低下してしまう、ということが頻繁にあります。そこで、災害などのリスクを考えながら、そうしたリスクに備えて、早期警報の発信や回避ルートをつくるといったノウハウの提供も行っています」

ベトナムでは2021年から、パリ協定に係る「自国が決定する貢献(NDC)」の実施に向けた支援プロジェクトにも参加しています。国際的合意の結果、地球の平均気温上昇を1.5度以内に抑える目標が掲げられており、各国はこの目標に向けて、エネルギー・交通・廃棄物などの分野で温室効果ガス削減対策を進める計画・実施しています。このプロジェクトは、ベトナムが国連気候変動枠組条約事務局へ提出した計画(NDC)を実施するための支援で、民間企業など多くの関係者を巻き込んで実行する過程を、加藤さんがサポートしているのです。

気候変動は変化のスピードの早い分野で、次々と新たな技術や対策方法が登場します。しかし、だからと言って途上国が遅れをとっているわけない、と加藤さんは言います。「むしろ積極的に取り組みたいという流れが加速していて、日本の技術や社会的な取り組みについても関心が高まっています」

日本だけでなくさまざまな国の事例を比較検討しながら自国に合うやり方を模索しよう、という現地の人々の思いに応えるべく、加藤さんは、日本がこれまで培ってきた知恵や経験を自身で学び、そうした引き出しをもとに、それぞれの国・自治体に合った助言を行っています。また同時に、最新情報もしっかりキャッチアップできるよう日々勉強を重ねています。

途上国での取り組みに携わる醍醐味について、加藤さんは次のように語ります。「たとえば日本が20年かけてやってきたことを、途上国では5年や8年で実施しようとしています。困難を伴いながらも、それを近くで見届けられるのは、他では得られない醍醐味です。そもそも、国の法律や制度をつくるお手伝いができるなんて、国際協力活動ならではですよね。非常に面白い仕事です」

バンコクの都市緑化を普及・啓発するイベントでのテープカット

バンコクでは、都市緑化を普及・啓発するイベントにも参加(左から4人目が加藤さん)

日本が選ばれ、助けられる国際協力に

国際協力の現場では、日本が過去やってきたことをそのまま押し付けるような支援ではなく、ともに最善の解決策を見出していく「併走型支援」を心がけているという加藤さん。「時には意見がぶつかって大ゲンカになることもあるのですが、それは、同じ目標に向かって真剣に議論をしているからこそ。少しでも『考えるきっかけ』を与えたいと思って取り組んでいます」

複数のプロジェクトにまたがって長期間、同じ人々と仕事をするケースでは、彼らの変化を目の当たりにすることもあるそうです。「最初の頃は『自分たちは途上国だから、そんなことはできない』と言っていた人が、今では自分から課題を見つけてきたり、新しい支援を要請してきたり、積極的に取り組んでいる姿を見ると、私としても本当に嬉しくなります」

加藤さんの寄り添うという姿勢が、人々にも確実に伝わっているからこその成果と言えるでしょう。もうひとつの活躍の場である国際交渉などの現場でも、こうした人々とのつながりが生きることもあると言います。というのも、そうした場で「日本が途上国に助けられることも多い」そうなのです。

「たとえば国際会議で日本の立場に理解を示してくれたり、他の国にそれを説明してくれたり、といった場面も実は多いです。また、ASEANの大臣会合がラオス・ビエンチャンで開催された際には、現在の案件で一緒に仕事をしているベトナム政府の高官が、私たち日本側のサポートをしてくれました。一方通行ではないつながりが生まれていくことは嬉しいですね」

今後については、協力の「上流から下流まで」を一貫して担当する仕事もしてみたい、と前向きです。「目標値をつくり、実現するための方法を模索することも当然重要ですが、同時に、実際に現場で実施する人たちが自分から進んでやりたいと思ってもらえるような道筋をつくることも大切であり、双方に関われたらと思います」

コンサルタント業務を通じ、日本と世界をつなぐ加藤さん。これからも活躍の場を広げてくれるに違いありません。

加藤真さん

「国際交渉は勝ち負けではない」と話す加藤さん。現場を知る立場ならではの着地点の提供を心がける


加藤 真(かとう・まこと)
一般社団法人海外環境協力センター(OECC)理事・業務部門長。神戸大学大学院国際協力研究科在籍中にインターンで参加した国連アジア太平洋社会経済委員会(UN ESCAP)でのコンサルタントを経て、2003年よりOECCで気候変動分野の国際協力に従事。途上国における気候変動計画の策定・実施、関連制度の構築などを支援する。2004年のCOP10より国連気候変動交渉日本政府代表団に参画。パリ協定の交渉では「途上国キャパシティ・ビルディング」(12条)のリードネゴシエータを担当。慶応義塾大学政策メディア研究科環境イノベーターコース非常勤講師。


一般社団法人海外環境協力センター(OECC)
海外での環境開発協力の分野において幅広い知識と経験、ネットワークを持つ専門家集団として、1990年に設立。国内外の環境開発協力に関する調査・研究、および能力開発などを手掛ける。JICAや環境省のほか、アジア開発銀行(ADB)や国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局をはじめとする国際機関との連携のもと、多様な環境開発協力を推進。

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