水の恩恵を分かち合う・中東地域統合的水資源管理コース

2007年4月にレバノンで、シリア、ヨルダンと3カ国による帰国研修員の同窓会が開かれました。そこで行われたワークショップのテーマは「水」。
これら3カ国は古くから水系を共有していますが、年間降水量が100mm未満の地域もあり、政治的、経済的に様々な利害関係が絡み、今日まで水資源管理に関わる正式な政府間協議はほとんど進んでいません。

そして、中東地域を対象とした、水資源の管理手法を学ぶ研修が、初めて2008年3月〜4月にかけて行なわれました。来日したのは、8カ国(アフガニスタン、イエメン、イラク、エジプト、サウジアラビア、シリア、パレスチナ、レバノン)から10名。 研修員たちがこの研修で学ぶのは、「統合的水資源管理」という概念です。

言葉を聞いてもなかなかイメージをつかみにくいこの言葉。
簡単に説明すると、「水をとりまく3つの要素を考慮しながら、統合的に管理を行う取り組み」となります。
1つ目の要素は、自然界における水循環。川として流れる水、地下水、雨水、地面から蒸発する水。それぞれの水量、水質等の特徴を踏まえて管理体制を整えます。
2つ目は、水の利用用途。生活用水から農業、工業用水、さらに自然環境の維持のための水。どの用途にどれだけの水が必要なのか、全体を把握します。
3つ目に、水をとりまく人々の関係。政府から自治体、民間企業、市民ひとりひとりのすべての関係者の参画を重視します。
水問題は、それぞれの国や地域で置かれている状況が異なります。統合的水資源管理には、1つの決まったマニュアルがあるわけではありません。各国がこの概念を念頭に置きながら、その国や地域の自然環境、社会経済状況を踏まえて、水資源をどう管理していくのか、計画することが必要です。誰かが独り占めすることなく、皆が水の恩恵を受けられるように、公平で平和的な管理が大切なのです。

研修員たちは、JICA東京での研修で統合的水資源管理の概要を学んだ後、実際に日本の管理がどのように行われているか視察に出かけました。
視察先は、いくつもの都県をまたいで流れる、日本で最も流域面積の広い利根川水系の関連施設。渡良瀬川上流の水資源機構が管理する草木ダムから始まり、利根川水系の全てのダムを統合的に管理する、国土交通省の事務所、最後にさいたま市への配水を行なう配水場までを見学しました。
利根川水系の管理は、もちろん一つの県だけで行うものではなく、流域全ての県や自治体がそれぞれの役割を分担。ダムやその管理施設を作る際には、目的や用途を話し合って、資金分担を決めています。配水する水の量も、他県のダムや川の状況、天候の変化に応じて、配水場で決定しています。どこかで情報を隠し持っていては、これらの管理は成り立ちません。そして管理施設には、必ず市民向けの展示物や資料があります。
研修員たちも、この視察を通して、流域における「コラボレーション」を肌で感じることができたのではないでしょうか。

島国の日本と違い、中東地域では国を越えて水資源を共有しています。まだ紛争の残る地域もあり、国同士の問題に研修をする日本側が口を出すことはできませんが、この研修では、各国の研修員が直面している課題について情報交換をし、アクションプランを作成して議論しました。これをきっかけに、各国同士が一歩歩みよってくれることを期待したいです。
また、日本に比べ水資源に乏しく、渇水の可能性が高い中東諸国に対して、日本の経験をそのまま伝えるだけでは不十分です。この研修で伝えたことを、中東地域でどのように発展させていけるのか、研修員たちの帰国後も、私たちは一緒に考えていかなければなりません。


JICA東京 広報デスク 菊池 茉奈