海の安全を守る・海洋利用・防災のための情報整備コース

世界のグローバル化が進み、海運による大量輸送が進む中で、航路の安全確保は、非常に重要な課題となっています。先進国、開発途上国を問わずエネルギー資源、工業製品、食料などの物流の多くを海運に依存しています。さらに開発途上国においては、座礁などによる海難事故も毎年のように発生し、おおくの人命が失われています。
航路の安全を確保するためには、海の深さ、潮流の方向や航路標識などが示されている精度の高い海図が不可欠です。こうした背景からJICAでは海図の作成技術を修得するための課題別研修「海洋利用・防災のための情報整備」コースを実施しています。
この研修は海上保安庁海洋情報部の全面的な支援により、本年5月から延べ208日間にも及ぶプログラムとなっており、その内容は測量技術、天文学、水中音響学、海底地震や津波予測などの講義から海洋での測量実習まで、多岐にわたっています。

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船内観測室での演習風景

今回の取材では、相模湾での1泊2日の海上実習に同行しました。研修員はインドネシア、マレーシアから各2名、パキスタン、ケニアから各1名の合計6名の精鋭です。午前10時に東京港にある海上保安庁の基地を出航、測量船「明洋」(550トン)に乗船、1日目は、船内施設や各種測量機器の使用法に関する説明や調整方法の演習を行いました。浅海音響測探装置は船底から音波を発射しその反射波をキャッチすることで海底の地形やその下の地層構造を分析する装置です。船内の観測室では精度の高いデータを取得するための感度の調整という非常に微妙な操作を繰り返し学習しました。うまく調整できないと教官の厳しい指導があり、何度もやり直しを求められます。こうした演習をしているうちに、宿泊地である熱海港に夕刻到着し、1日目の実習を終了しました。

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プロトンを海に投入する研修員

2日目は熱海港を7時半に出航、相模湾の実習地点に到着し、まず海底表層調査に必要な測線の始点・終点をコンピューターで設定、GPSを使い船を側線に一致するよう移動させながら昨日練習した浅海音響測探装置で音波を発射し海底の地形を連続的に記録します。その作業と同時に研修員は甲板に出てプロトンと呼ばれる爆弾のような形の観測器具を海に投入し、磁力調査を行ったり、海底の地形データ収集を行います。モニターに表示された海底の地形データを見ながら、エラーデータを取り除く根気のいる作業を行い、最終的なデータとして整理したところで2日間にわたる実習が終了しました。この作業で得られたデータの位置と深さを図示していくことにより海図が完成します。さらに、こうして収集された基礎データは、海図作成に利用されるだけでなく、資源探査、地震発生時の災害予測、海洋環境保全などを検討するための基礎資料として幅広い分野で活用されることになります。実は、この作業の最中、突然、船の近くに鯨が現れ、潮を吹いて、研修員を歓迎してくれました。海洋実習ならではのハプニングに研修員も乗組員も大歓声、楽しい研修の思い出になったことでしょう。

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測量船「明洋」の前で・・・研修員一同

この研修は、国際水路機関(IHO)の審査を経て、国際水路測量技術者資格基準B級が付与されるコースに指定されています。今回の研修では、研修員全員が国際資格を得られることを願うと共に、研修から得られた技術や経験を生かして、世界の海の安全が着実に高まることを願っています。

JICA東京 次長  蔵方 宏