フィリピンの子どもたちへ、読売巨人軍とオンライン野球教室を開催

2021年3月29日

フィリピン・ミンダナオ島の子どもたちに向けたオンライン野球教室で指導するのは、読売巨人軍の元プロ野球選手たちです。コーチといっしょに体を動かしながら、約300人の子どもたちはきらきらと目を輝かせていました。

JICAと読売巨人軍は、2015年に野球普及・振興のための業務協力協定(MOU)を締結して以来、各地で野球教室を開催し、礼儀を重んじる「日本式野球」の普及活動を共働で実施しています。昨年はミンダナオ島で、野球教室が行われましたが、今年は新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催。野球指導とともに感染症対策の正しい手洗い指導も行われ、子どもたちが楽しみながら学べるひとときとなりました。

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左:指導してくれたジャイアンツアカデミーの辻東倫コ-チ(左)と金子大志コーチ(右)
右:野球教室にオンライン参加した子どもたち

紙ボールや紙バットを使って、誰でもできる練習方法を紹介

打撃練習のコツを実技指導する辻コーチ

2月に開催されたオンライン野球教室で練習方法を子どもたちに教えたのは、かつてプロとして活躍し、現在は読売巨人軍ジャイアンツアカデミーの辻東倫コ-チと金子大志コーチの2人です。打撃指導では、野球用具が満足に手に入らない現地の状況にも配慮して、事前に準備した紙ボールや紙バットを使用して、上半身と下半身それぞれの基礎的な動きをおさらいしました。また、捕球の練習では、空中に投げたボールが手元に落下するまでに手を何回叩けるかを参加者同士で競い合い、数多く手を叩けた子どもたちには、コーチ陣が「すごいね!」と声をかけます。

「画面越しでしたが、練習している子どもたちがレベルアップしていく姿を見ることができてうれしく思います」と、指導にあたった辻コーチは話します。

現在フィリピンでは、新型コロナウイルス感染防止のための外出制限が続き、昨年3月から学校の授業もオンラインで行われ、まだ対面での授業が再開されていません。このような状況を考慮し、自宅でもできる基礎的な練習やエクササイズを中心に指導が行われました。思うようにスポーツを楽しむことができない子どもたちにとって貴重な体験となりました。

オンライン野球教室の開催をサポートしたJICA東南アジア・大洋州部の杉山秀男職員は、「ジャイアンツアカデミーのコーチの方々は、技術面に加え、精神面の重要性にも触れ、子どもたちは真剣な眼差しで聞いていました。JICAがフィリピンで取り組むスポーツを通じた青少年育成に向けた活動では、今後も技術・精神の両面からの指導に取り組んでいきたいです」と語りました。

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辻コーチの動きに合わせて、画面を見ながら子どもたちも一緒に体を動かします

オンラインで広がるスポーツを通じた国際協力の可能性 

フィリピン・ミンダナオ島にあるダバオ市は、明治以降の移民政策により日本人が移り住み、現在も多くの日系人が居を構えています。現地では、民間交流における日系社会支援の一環として長年にわたり野球の振興が行われており、2006年からは野球大会が開催されています。

野球振興に力を入れるミンダナオ国際大学のイネス学長は、「フィリピンにも野球を好きな子どもはいますが、グローブやバットなどの野球用具が揃っていないことと、専門的な知識や技術のあるコーチがいないため、なかなか上達できません。野球教室はプロのコーチの知識やテクニックを知ることができ、子どもたちの野球に対する理解を深められる貴重な機会です」と述べます。

また、今回のイベントには、日系人が多いダバオ市だけでなく、JICAが包括和平に向けて長年支援を続けてきたミンダナオ島・バンサモロ地域の子どもたちも多く参加しました。

JICAフィリピン事務所の佐野喜子職員は、スポーツを通じた平和活動の意義とバンサモロ地域の子どもたちの参加について、「紛争影響コミュニティが多数存在するバンサモロ地域の子どもたちが野球教室に参加できたことが非常にうれしいです。スポーツを通じた平和の定着を念頭に野球教室の企画を始めたのですが、昨年は物理的な距離の制約もありバンサモロからの参加は実現できませんでした。しかし今回は、オンライン開催のため、参加がかないました」と、その喜びを語りました。

手洗いの大切さを動画と漫画を使ってわかりやすく伝える

野球教室に続いて、子どもたちに手洗いの大切さを紹介する動画と漫画も披露されました。新型コロナウイルスの感染予防対策として手洗いが見直されるなか、フィリピンの子どもたちの生活に合わせて、正しい手洗いのタイミングや手順を動画で紹介。また、JICAは漫画で途上国の子どもたちに向けて正しい手洗いをわかりやすく伝えるなか、フィリピンではこの漫画をプリントしたハンカチを作成し、手洗いに関する知識と習慣が定着するよう、オンライン野球教室に参加した子どもたち全員に今後、配布を予定しています。

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左:「手洗い動画」の1コマ。子どもたちの生活に即した手洗いシーンが紹介されました
右: JICAが途上国の子どもたちに向けて制作した「正しい手洗い漫画」。2021年3月時点で27の言語で翻訳されています

子どもたちに手洗いの大切さを紹介したJICAフィリピン事務所のケシー職員は、「通常の対面型イベントよりも相互のコミュニケーションが限られる点が難しかったですが、『外出から帰ってきた際や雑用をした後など、適切なタイミングで正しく手洗いをすることが健康につながっていく』というメッセージは伝えられたと思います」と手洗い啓発に向けた手応えを語りました。

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「正しい手洗い漫画」のプリントハンカチを手に手洗い励行をアピールするケシー職員