04 池上彰と考える『SDGs入門』 「成長の大陸」へと変わりゆくアフリカ TICAD7はSDGsビジネスを加速するチャンス

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社会インフラの維持管理の“技術とこころ”を世界に発信
阪神高速道路、特殊高所技術

アフリカ大陸の北西部、地中海と大西洋に面するモロッコ王国は、経済発展の著しい新興国です。国土面積は44.6万平方キロメートルと、日本の約1.2倍※。運輸セクターの整備も進み、高速道路網は総延長約1800kmに及びます。そのモロッコで高速道路の維持管理に関して技術協力を行っているのが、阪神高速道路と特殊高所技術です。
※出典:外務省

モロッコの高速道路網は当初計画の総延長約1800kmがほぼ完成。
建設フェーズから維持管理フェーズへと移行

きっかけは、2014年8月にモロッコ国営高速道路会社(ADM)の総裁が日本を訪れたこと。日本の高速道路の技術力の高さに感銘を受け、高速道路会社と国際交流協定(MOU)を結びたいと要望されたのです。アフリカでの技術支援で実績のあった阪神高速道路が手を挙げることになりました。

キーマンは、同社技術部国際室室長の西林素彦さん。JICAの技術協力プロジェクトのチーフアドバイザーとして、2010年7月から3年間、ケニアで道路の維持管理技術の普及に取り組んだ経歴の持ち主です。

阪神高速道路技術部国際室室長の西林素彦さん

「ADMの総裁が2014年11月に当社に初めて来られると、話はトントン拍子に進みました。当時の幸和範専務(現・社長)を団長とする訪問団をモロッコに派遣し、逆にADMの技術者が当社を来訪するなどの交流を重ね、翌年の2015年7月にMOUを締結したのです」

MOUをいったん締結してしまうと双方が安堵してしまい、肝心の技術交流がなかなか進まないという話をよく聞きます。しかしこの場合は全く違いました。

「MOUを結んだからにはどんどん技術を吸収したいと、ADMはとても積極的でした。中でも彼らの関心が高かったのが、ニンジャテック(Ninja-tech)と私たちが海外向けに呼んでいる技術でした」と西林さんは話します。

2015年7月にモロッコ国ラバト市にて技術交流に関する覚書(MOU)を締結

海外も注目、高所点検を安全に行えるNinja-tech

Ninja-techとは、ロープや特殊機材を駆使して、高所などでの点検・調査・補修などを安全に行う技術で、京都に本拠を置く企業、特殊高所技術が開発しました。同社はこの技術に関して、2008年に阪神高速道路と業務提携協定を締結しています。

Ninja-techがなぜ今、海外からも注目されているのでしょう。特殊高所技術社長の和田聖司さんは「社会インフラの維持管理は今や、世界的に大きな社会課題になっているのです」と、背景を語り始めます。

特殊高所技術社長の和田聖司さん

「日本は今、高度経済成長期から60年を経て、道路や橋梁などのインフラの維持管理が重要な局面に来ています。2012年に中央高速道路・笹子トンネルの天井板の落下事故がありましたが、天井のすぐ下まで行って人手による叩き点検ができていれば、あの事故は防げたのではないかという話もありました。あの事故から数年経った頃にようやく、遠隔技術ではなく、人が手で触れる距離まで行ってハンドタッチで点検することが法令で定められたのです」

高速道路や橋梁、ダム、風力発電機など、高所にある構造物の人手による近接点検の重要性は高まるばかり。特殊高所技術はこうしたニーズに応えるため、ロープと特殊機材を巧みに使い、高所で安全に点検・調査などが行える技術、Ninja-techを開発したのです。この技術は高く評価され、NETIS(国土交通省新技術情報提供システム)にも登録されました。

「モロッコでは1990年頃から高速道路の建設が本格化し、最近計画路線がほぼ完成したばかりですが、すでに維持管理の重要性に気づいてNinja-techの技術移転を希望されました。とても先見性があると思います」と和田さん。Ninja-techを海外に広めたいと考える和田さんにとっても、モロッコでのプロジェクトは大きな試金石になるはずです。

世界が注目する、高所で安全に調査・点検・補修などが行える技術Ninja-tech

モロッコへの技術移転を円滑に進めるため、阪神高速道路と特殊高所技術は共同でJICAの2015年度「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」に応募、採択されます。その支援を基に、早速2016年5月にモロッコでNinja-techのデモンストレーションを実施。同年8月にはADMの職員3名を受け入れ、Ninja-tech2級資格取得に向けた96時間の研修を行いました。

日本での最初の技術研修に取り組むADMの技術者たち(上)。モロッコでの実務訓練では、日本の技術者が直接指導(左下)。実務を重ねた2年後にはADMの職員が単独で安全に現場作業をこなせるように(右下)

ADMの職員3名はその後、1000時間の実務経験も積み、2018年5月には難関といわれるNinja-techの1級資格も取得。現在、モロッコ各地で高速道路の点検と技術の普及に努めているといいます。

ADMの技術者がNinja-tech1級資格を取得したニュースはモロッコ現地の新聞でも紹介された

技術とともに「道路を守るこころ」を伝えたい

早期のMOU締結に、円滑な技術移転。そのどの局面においても、JICAの支援が大きかったと、プロジェクトを担当した阪神高速道路 技術部国際室エキスパートの川上順子さんは話します。

阪神高速道路 技術部国際室 エキスパートの川上順子さん

「ADMとのMOU締結には、モロッコの設備・運輸・ロジスティック省の大臣や、当時の在モロッコ日本大使にも立ち会っていただきました。またモロッコで行った技術デモンストレーションの会場には、同省の大臣だけでなく、国鉄や電力・水公社などインフラ公社の重役など130人もの方に来ていただきました。JICAの現地事務所の方には事前準備に尽力していただき、とても感謝しています」

今後、阪神高速道路と特殊高所技術は、モロッコでの事業展開をどのように進めていくのでしょうか。

「今回のプロジェクトは、モロッコの技術者にNinja-techを伝えるという人材教育が中心でした。次のステップでは、ADMと共同で構造物の維持管理会社と技術訓練機関を設立し、道路以外のセクター、ダムや風力発電などにコンサルティングや人材教育サービスを展開していきたいと考えています。将来的にはモロッコだけでなく、周辺国に事業対象を広げていきたいですね」と、西林さんは未来を展望します。

和田さんも「インフラ建設は維持管理とセット。この考え方を特に新興国に広げたい」と言います。

「Ninja-techの研修を通して私たちは、モロッコの技術者たちに、道路を守る仕事とは何か、安全を考えるとはどういうことかを伝えられたのではないかと感じています。ワークエシック(職業倫理)というのでしょうか。維持管理という仕事の技術だけでなく、安全作業の精神も含めた“働き方”を世界に発信していきたいと思います」

両社が目指すのは、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤づくり」、目標11「住み続けられるまちづくり」。その実現に向けては、技術と人とを結びつけるパートナーシップ(目標17)がすべての起点になることを教えてくれました。

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レキオ・パワー・テクノロジー