Republic of Uganda

ウガンダ共和国
披露宴でのケーキ入刀

12年越しの結婚式

写真・文  桜木奈央子(フォトグラファー)

Special movie
写真家からのメッセージ

「12年」という歳月に込められた、平和への願い

親友のデニスから「もうすぐ結婚式をするから予定空けておいて」と言われて 数年が過ぎた2020年1月、ついに晴れの日がやってきた。

彼との出会いは20年前に遡る。当時内戦地域だったウガンダ北部の町グルで私たちは大学生だった。子どもたちが反政府ゲリラ軍に誘拐されて兵士にさせられないよう、日本のNGOアルディナウペポの資金提供を受けて避難シェルターを建設し、私たちはスタッフとして一緒に運営した。内戦後には、帰還した元子ども兵士のための職業訓練校を開校し、デニスはその代表として今も奮闘している。去年からはグル郊外の貧しい人たちのためにマイクロファイナンスのプロジェクトを立ち上げた。彼がソーシャルワーカーとして働くドリーンと結婚したのは2008年。ウガンダでは、結婚式は家庭が落ち着いてから行う夫婦も多い。二人の息子も今ではサッカーが大好きな小学生だ。

結婚式1週間前から、デニスとドリーンは別々のホテルに滞在していた。新郎新婦は別々の場所で過ごすしきたりがあるからだ。式の前夜、町の美容室に行くとドリーンが爪を整えてもらっていた。 明日が楽しみ? と聞くと「とにかくいそがしくていやになっちゃう」と笑う彼女の横顔が、いつもの数倍美しく見えた。

結婚式当日。ドリーンは滞在しているホテルで早朝からメイクをしてもらい、ウェディングドレスに着替えた。彼女のドレスの裾やキラキラ光るバッグを持つのはブライズメイド*たち。おそろいのピンクのドレスが眩しい。

ぴかぴかに磨かれた車に乗って、新婦ドリーンと女性陣はホテルを出発する。 クラクションを途切れなく鳴らして町の 人びとの視線を浴びながら、車は教会を 目指す。そして、同じように車で新郎デニスと男性陣が到着。教会は人で溢れ、上空には撮影用のドローンが飛んでいた。

*花嫁に付き添う女性。

太陽がちょうど真上に来るころ、教会の中で厳粛に式が行われた。新郎新婦の入場に来賓客たちが祝福の声を上げ、美しい聖歌隊の歌声とオルガンが響いた。 指輪交換や誓いの言葉、そして音楽。喜びに満ちた時間となった。

披露宴会場である町はずれの野外会場に向かうと、華やかなステージと大きなテントが設置され、すでに300人以上の人でにぎわっていた。首都カンパラからも多くの人が来ていて、久しぶりの再会に友人と抱き合いながら「結婚式ができる平和っていいね」と言葉を交わした。

披露宴でいちばん盛り上がったのは、 ギフト贈呈の時間だ。大音量の音楽が流れるなか、饒舌な司会者によって新郎新婦の職場や友人、同窓生などのグループが次々と紹介され、踊りながらギフトを手渡しに二人がいるステージに向かう。ギフトはさまざまで、服を仕立てるための布や、料理に使う鍋のセット、机や大きな食器棚もある。私は仲間たちと一緒に、事前に購入したヤギを引いて登場した。新郎新婦と抱き合い、肩をたたき合い、そしてみんなで踊った。会場は、苦難を乗り越えてこんなに盛大な結婚式を 挙げられるようになった一組のカップル を祝福する雰囲気に満ちていた。

いつのまにか夜になっていた。会場は色とりどりの光に彩られ、心ゆくまで食べ、笑い、踊った人びとは心地よい夜風に身をゆだねていた。デニスのスピーチがあり、最後にまた大勢で踊って、宴はお開きになった。今、世界は困難に直面しているが、これを乗り越え、またみんなで楽しい時間が過ごせることを切に願う。

2020年6月号「地球ギャラリー」より
2020年6月号「地球ギャラリー」より
桜木奈央子

桜木奈央子(さくらぎ・なおこ)

1977年、高知県生まれ、横浜市在住。2001年からアフリカに通い始め、取材を続ける。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を寄稿。小学校から大学まで講演や授業も多数行っている。著書に『世界のともだち ケニア 大地をかけるアティエノ』(偕成社)、『かぼちゃの下で│ウガンダ戦争を生きる子どもたち』(春風社)など。