Federated States of Micronesia

ミクロネシア連邦
ポンペイ島の風景。雨水は海に注いで、たくさんの生き物たちの栄養源となる©Masa Michishiro(道城征央)

ごみが、自然を、暮らしを、脅かす

写真・文  道城征央(水中カメラマン・フォトジャーナリスト)

美しい自然を守るため、島で清掃活動を実践

太平洋に、ミクロネシア連邦に属するポンペイという島がある。ミクロネシア連邦は、チューク州、ヤップ州、コスラエ州、ポンペイ州の4州、607の島からなる国で、ポンペイはそのうちのひとつの島であり州だ。海洋性熱帯気候で雨季と乾季があるが、ポンペイの特徴は、その中でも雨が多いというところにある。私たちにとってガッカリな雨でも、自然にとっては恵みとなる。その雨水は島のあちこちに点在する滝、川を流れ、海に流れ出て栄養分となる。そのため島の周囲ではマンタがプランクトンを捕食しに集まってくる様子や、ギンガメアジなどの魚群を頻繁に見ることができる。まさにポンペイは海と山、海と森との密接なつながりを感じることのできる島だ。

もともとミクロネシアと呼ばれる地域には、19世紀から多くの日本人が南進論とともに入植してきた。ミクロネシアの人々が私たちを受け入れてくれた理由として、現地に見られる伝統的首長制という厳格な上下関係の存在が、親など家長を敬う日本社会と共通していたことが挙げられるのではないかと思う。しかし敗戦を迎えると日本人は強制退去させられ、その後アメリカによる信託統治が始まった。すると島の人たちの生活も一変してしまった。今までの自給自足の生活から、スーパーに行けば何でも手に入る生活へと変わっていったのだ。また昔のような大家族の生活から核家族化へと進んでいった。このようにアメリカ流の便利な生活が環境を大きく変えてしまったのだ。

そのツケが昨今のごみ問題につながっていると思う。島嶼(とうしょ)国は温暖化による海面上昇で水没の危機に瀕していると言われるが、その原因は都会化を要因とするごみ問題にあるとも言われている。かつて南太平洋にはごみという言葉は存在しなかった。なぜなら、捨てたものはすべて自然に還るとされていたからだ。しかし戦後アメリカなどが持ち込んだプラスチック製品によって島はごみで溢れるようになった。ごみという言葉のない地での、自然に還らないごみのポイ捨てはとどまることなく、そこいらに捨てられたごみは海に流れ込む。島嶼国の多くは、サンゴ礁が島を守るように囲っていたり、そのサンゴ礁の上に州島と呼ばれる島が存在していたりする。サンゴ礁は防波堤としての効果もあるのだが、捨てられたごみがそうしたサンゴ礁に負担をかけて死滅させ、やがて土地は波によって削られていく。結果、水没に至るというわけだ。

そこで私は、日頃東京で行っている清掃活動をポンペイに持ち込んだ。水没うんぬんではなくカメラマンとして、本来あってはならないものが島の自然の中にある光景に大きな不自然さを感じたのも、清掃活動を行う理由のひとつだ。9月15日はWorld Cleanup Day といって世界同時に清掃活動をする日で、現地での活動もこの日に行った。島の子どもたちにごみ問題について啓発活動をしている麗澤大学と立命館大学の学生たちも参加してくれた。しかし私たちがどんなに力を注いでも所詮は部外者であって、最終的には、島の人たちが解決すべき問題だ。日本人が〝上から目線〞で教えるようなことはしたくないので、現地の学生たちにも気軽な雰囲気で参加してくれるようにたのんだ。結果、参加人数は島の人と学生を合わせて約30名で、たった1時間で45リットルの袋で30袋分のごみを拾い集めることができた。

その後、ミクロネシア連邦チューク諸島では八王子市や創価大の学生らと、また、同国のコスラエでは現地のNGOと清掃活動を行った。ポンペイでは、麗澤大学の学生と一緒に現地の小学校へ出前授業を実施。自分で撮った写真を使って、ポンペイの自然の素晴らしさを説いた。現在、ミクロネシア連邦ポンペイとコスラエの学生にカメラを渡し、彼らの目線で島の良さなどを撮ってもらい、それを公表していくというフォトプロジェクトを計画している。

2018年11月号「地球ギャラリー」より
2018年11月号「地球ギャラリー」より
一部加筆
道城征央

道城征央(みちしろ・まさひろ)

小笠原、沖縄、そしてミクロネシア方面へ、年間に何度も旅することから〝南海の放浪カメラマン〞の異名を持つ。自身が撮った写真を使用して「人と自然との関わり方」をテーマに、学校や企業などで幅広い講演活動を行う。また、埼玉動物海洋専門学校において「自然環境保全論」「海洋環境学」の特任講師を務めている。