
砕けた虹を抱いて
マヤ系先住民に重くのしかかる貧困の連鎖
かつてグアテマラで最も豊かな文明を誇っていたマヤ系先住民。今、彼らの子孫が差別や貧困に苦しんでいる。スペインによる植民地時代、マヤ系先住民たちは自分たちの土地を奪われ、安い賃金での重労働を強いられることになった。この搾取と貧困が現在も続いているのだ。2016年に日本でも公開され話題となったグアテマラ映画、『火の山のマリア』(2015年/監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ)でも、厳しい現実と向き合う先住民の姿が描かれている。
現在、アメリカで働くグアテマラ人は約150万人。グアテマラ国民のほぼ10人に1人が、アメリカへの出稼ぎで家計を支えている計算になる。アメリカで働くことを夢見る若者も依然として多く、メキシコ経由で入国する不法移民が後を絶たないという。アメリカ側も、国境警備網をくぐり抜けて入国した不法移民を、低賃金で使える労働者として重宝してきた。しかし、新政権発足当時のアメリカでは、トランプ大統領が公約通りの厳格な移民政策を掲げ、動いた。メキシコ国境沿いに壁が建設されれば、メキシコ人だけでなく、メキシコを経由してアメリカへ渡っていたグアテマラの貧困者にとっても、アメリカへの道が閉ざされることになる。
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グアテマラの南部に位置するケツァルテナンゴは、19世紀、コーヒー豆の集積地として栄えた商業都市だ。市街にはヨーロッパ風の建築物が残り、その周辺の農村にはマヤ系先住民が多く住んでいる -
グアテマラでの1日分の賃金は、アメリカでの1時間分の賃金にすぎない。低所得者たちは海外からの仕送りで家計を支えてきた。アメリカへ行く夢を持つ若者は多い -
山の頂まで続くトウモロコシ畑。大地主制度が今も残るグアテマラでは、多くの農民が地主から土地を借りて耕している。収入の大半が借地代と肥料代に消え、いくら働いても貧しさから抜け出せないという -
農家の庭先に立つ十字架。グアテマラには熱心なキリスト教徒が多い -
初孫の誕生を楽しみにする女性と、母になる日を心待ちにするその娘。しかし、その笑顔の下に大きな悲しみを隠していた。家族の生活を支えるためにアメリカへ出稼ぎに行っていた母の夫が、亡くなったのだ。知らせが届いたのは2カ月前。これからどうしていいか分からないと、途方に暮れていた -
小・中学校は義務教育だが、貧しくて学費が払えず、さらには家族のために働かなければならないため、中学校の就学率は5割だという。国に財政的余裕がなく、教育に回すお金がないため、国からの支援は少ない -
子どもたちの楽しみは、村にやってくるアイスクリーム屋さんだ -
先住民の多くが山岳地帯に住むが都会に出て働いている人も多い。男性は単純労働、女性はメイドの仕事に就くのが一般的だ(トトニカパン県)
グアテマラ滞在中にこんな話を聞いた。アメリカで確実に仕事を得たいなら、ブローカーにおよそ150万円を支払わなければならないそうだ。そのための借金の担保になっているのが土地であり、村全体をブローカーが担保として押さえている出稼ぎ村まで存在しているという話も聞いた。
夫が2カ月前に出稼ぎ先のアメリカで亡くなったという家族と出会った。トウモロコシ畑の片隅にある小さな家で、妻と娘の二人が生活していた。ハリケーンで壊れた家を建て直すために働くと告げて異国に渡った夫は、稼いだお金で家族のために自宅の台所を直し、次は家の周りの塀を修理してやると語っていたそうだ。一家は夫からの仕送りを頼りに生計をつないできた。先日、そんな優しい夫の死を報せる通知が家族の元に届いた。英語で記されていたため、家族は翻訳料として約8,000円を支払ったが、そのまま返信が途切れ、夫の死因はいまだ分からないままだという。
国民の半分以上が貧困層に属しているグアテマラだが、意外にも中所得国に分類される。資産家のみを優遇する国の制度が格差を生み、多くの先住民が貧困から脱却できない社会を構築した。豊かな大地は、現在もグアテマラの基幹産業であるコーヒーやバナナを育み、この国に利益をもたらしている。しかし植民地からの解放後も大地主制度は残り、農民には土地が解放されてこなかった。地主から土地を借りて耕す小作農は、いつまでも豊かになれない。そのため、海外へ出稼ぎに向かい、その送金が生活を支えてきたという家庭も多かった。
彼らの貧困の真の理由に世界が目を向け、この国の社会構造を変えるきっかけになってほしいと思う。


岡本 央(おかもと・さなか)
宮城県生まれ。写真家。「自然と風土に遊び学ぶ世界の子どもたち」や日本の子ども「郷童」をライフワークとして撮り続けている。著書に『ブータン 幸せの国の子どもたち』(東京書籍・共著)、 『ないないづくしの里山学校』(家の光協会)他。