Republic of Guatemala

グアテマラ
グアテマラでは、先住民の80パーセントが貧困層に属している。先住民が暮らすこの村では、貧しさのせいで十分な食事が取れないため、子どもが栄養不良になっている家庭が多い(トトニカパン県ティエラ・ブランカ村)

砕けた虹を抱いて

写真・文  岡本 央(写真家)
取材協力/日本ユニセフ協会

マヤ系先住民に重くのしかかる貧困の連鎖

かつてグアテマラで最も豊かな文明を誇っていたマヤ系先住民。今、彼らの子孫が差別や貧困に苦しんでいる。スペインによる植民地時代、マヤ系先住民たちは自分たちの土地を奪われ、安い賃金での重労働を強いられることになった。この搾取と貧困が現在も続いているのだ。2016年に日本でも公開され話題となったグアテマラ映画、『火の山のマリア』(2015年/監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ)でも、厳しい現実と向き合う先住民の姿が描かれている。

現在、アメリカで働くグアテマラ人は約150万人。グアテマラ国民のほぼ10人に1人が、アメリカへの出稼ぎで家計を支えている計算になる。アメリカで働くことを夢見る若者も依然として多く、メキシコ経由で入国する不法移民が後を絶たないという。アメリカ側も、国境警備網をくぐり抜けて入国した不法移民を、低賃金で使える労働者として重宝してきた。しかし、新政権発足当時のアメリカでは、トランプ大統領が公約通りの厳格な移民政策を掲げ、動いた。メキシコ国境沿いに壁が建設されれば、メキシコ人だけでなく、メキシコを経由してアメリカへ渡っていたグアテマラの貧困者にとっても、アメリカへの道が閉ざされることになる。

グアテマラ滞在中にこんな話を聞いた。アメリカで確実に仕事を得たいなら、ブローカーにおよそ150万円を支払わなければならないそうだ。そのための借金の担保になっているのが土地であり、村全体をブローカーが担保として押さえている出稼ぎ村まで存在しているという話も聞いた。

夫が2カ月前に出稼ぎ先のアメリカで亡くなったという家族と出会った。トウモロコシ畑の片隅にある小さな家で、妻と娘の二人が生活していた。ハリケーンで壊れた家を建て直すために働くと告げて異国に渡った夫は、稼いだお金で家族のために自宅の台所を直し、次は家の周りの塀を修理してやると語っていたそうだ。一家は夫からの仕送りを頼りに生計をつないできた。先日、そんな優しい夫の死を報せる通知が家族の元に届いた。英語で記されていたため、家族は翻訳料として約8,000円を支払ったが、そのまま返信が途切れ、夫の死因はいまだ分からないままだという。

国民の半分以上が貧困層に属しているグアテマラだが、意外にも中所得国に分類される。資産家のみを優遇する国の制度が格差を生み、多くの先住民が貧困から脱却できない社会を構築した。豊かな大地は、現在もグアテマラの基幹産業であるコーヒーやバナナを育み、この国に利益をもたらしている。しかし植民地からの解放後も大地主制度は残り、農民には土地が解放されてこなかった。地主から土地を借りて耕す小作農は、いつまでも豊かになれない。そのため、海外へ出稼ぎに向かい、その送金が生活を支えてきたという家庭も多かった。

彼らの貧困の真の理由に世界が目を向け、この国の社会構造を変えるきっかけになってほしいと思う。

2017年6月号「地球ギャラリー」より
2017年6月号「地球ギャラリー」より
岡本 央

岡本 央(おかもと・さなか)

宮城県生まれ。写真家。「自然と風土に遊び学ぶ世界の子どもたち」や日本の子ども「郷童」をライフワークとして撮り続けている。著書に『ブータン 幸せの国の子どもたち』(東京書籍・共著)、 『ないないづくしの里山学校』(家の光協会)他。