企業で培った技術をパラグアイで生かし
地球環境を守る

ルームエアコンの研究開発に長年携わった藤高さん。地球環境保護のためには経済発展が進み、冷凍冷蔵・空調機器の普及が拡大している開発途上国の技術向上が必要であり、企業を離れた立場で援助や技術協力を行う必要があると、海外協力隊に参加。パラグアイの職業訓練局で能力強化にかかわる活動に着手する。

藤高 章さん
(パラグアイ・冷凍機器・空調・2015年度4次隊)




[藤高さんのプロフィール]
1957年生まれ、広島県出身。北海道大学を卒業した後、松下電器産業(株)〈現パナソニック(株)〉に就職し、ルームエアコンの研究開発に33年間従事。2016年3月、シニア海外ボランティア(※)としてパラグアイに赴任。18年3月に帰国。19年4月から大学の機械工学科の教員として勤務予定。
※ 派遣名称は派遣当時のものです。

[活動概要]
配属先:労働雇用社会保障省職業訓練局イタ支局
主な活動:イタ支局の冷凍空調科の授業の技術支援、実習支援として主に以下の活動を行う。
●授業内容の調査、授業・実習の補助、指導教官への改善提案
●エアコンなどの動作を理解するための設備調査、導入
●教材作成の支援

藤高さんの関係人物

[上司]
エウラリオ・ギメネスさん(配属先の所長):朝はいつも事務所にあいさつに来てくれ、健康面などを気にしてくれた。
[同僚・カウンターパート(CP)]
ブラス・カルバージョさん(配属先の先生):まじめで幅広い知識を持ち、計画的に授業を行う尊敬すべき先生。
[同僚・CP]
オスアルド・アジャラさん(配属先の先生):冷凍機器に関する知識が豊富。しかし、いい加減な面もあり、授業をカリキュラム通りに行わないため、活動が難しくなったことも。
[上司・ コーディネータ]
アリーシア・オルエさん(配属先のスタッフ):生活面の支援や活動の状況をフォローしてくれ、生活や活動の相談相手となってくれた。
[同僚]
ウゴ・ナルバエスさん(配属先のスタッフ):活動面でいろいろな相談に乗ってくれた一番の協力者。
[友人]
ユーロヒア・アグエロさん(スペイン語の先生):スペイン語だけでなくパラグアイでの生活面でも多くのことを教えてくれた。

藤高さんの活動

藤高さんからエアコンの仕組みを教わる職業訓練校の生徒たち

 農牧業を主要産業とするパラグアイ。しかし近年は製造業の発展を目指し、海外の企業を誘致促進するために高度な技術者の確保を必要としていた。技術者などの育成をする職業訓練局でも能力強化が求められており、地方都市のイタにある職業訓練支局で、冷凍空調科の授業・実習支援に藤高さんは取り組むことになった。
 まず、訓練局の実情を知るため、授業や実習を見学し、テキストを調査、また他の職業訓練学校の見学など、さまざまな情報を集め、課題を明確にしていった。特に課題だと感じたのは、実習用設備の不足だ。そこでエアコンの動作原理がわかる設備の導入のために活動計画を作成したところ、所長とカウンターパート(以下、CP ※)から同意を得られた。設備の導入はCPと協力して進める予定だったが、協力を依頼すると了承はしてくれるものの、先延ばしにされることが続く。予定通りに物事が進まず、藤高さんは、なぜ協力してもらえないのかがわからずひとりで悩むことになる。
 できることから始めようとしたが、地方都市では機材や資材が入手できず進まない。首都まで出向いて入手の可能性を聞き、見積もりを取って、必要な資材の資料を作成。しかし、所長からは訓練局の予算で資材の購入がすぐにはできないという回答。そこで、活動のために使用できるJICAの予算で資材を購入し、設備を組み立てられたのは、配属されて1年が経った頃だった。
 その後も、授業や実習の補助や新しい技術が導入された製品のテキスト整備、また冷蔵庫の動作原理がわかる設備の導入などに取り組んだ藤高さん。CPとは、なかなか一緒に活動はできなかったが、彼の事情にも気づいた。正規職員でなく、授業があるときだけの契約社員で、他の仕事もあり多忙だったのだ。事情を知ったことで、確実に支援してくれる職員を見つけ、協力を得て活動は進んだ。とはいえ、根気よくCPに協力を依頼したことで終盤には少しずつ協力を得られるようになったという。

※ カウンターパート…技術協力の対象となる、派遣国の行政官や技術者、配属先の同僚などのこと。

パラグアイの良さ、日本の良さ

 藤高さんはパラグアイで暮らし、日本の便利さや良いサービスを再認識した一方で、日本はあまりにも効率や、便利さ、良いサービスを追求・競争しすぎるあまり、低賃金、長時間労働などにつながってしまい、生活の幸福感が低くなっているように思えた。あまり競争せず、ほどほどに働き、「トランキーロ(スペイン語:ゆっくりと)」で済ませてしまう、パラグアイ社会。日本での当たり前が当たり前ではないことも感じることができた。
「今後はパラグアイでの経験も踏まえて働きたい。そして、多くの人にボランティア活動の重要性と必要性、また退職後の活躍の場にできることを伝えたいと思います」という藤高さん。4月から大学の教員として働く予定だ。

藤高さんの「やりがい曲線」

配属先の前で、スタッフと藤高さん(左から3人目)

(1)活動最初の1週間を振り返る:配属先の職業訓練校を見せてもらったところ、実習用の設備がほとんどないことがわかり、その状況で何ができるのかを考えることから活動を開始。まずは、所員、先生と生徒たちの名前と顔を覚えるため、タブレットで顔写真を撮影、名前などをメモとして残すことに。日本から100円ショップで購入した小さいホワイトボードをパラグアイに持って行き、現地の人と話をして聞き取れない言葉を書いてもらい理解するようにしました。また、パラグアイではスペイン語だけでなく現地の言葉(グアラニー語)も混ぜた言葉で会話されるため、配属先スタッフにグアラニー語を教えてもらい、話すようにすると現地の人はとても喜んでくれました。



(2)複数の先生の授業に出席し、知識の差による授業内容の差が大きく、先生の知識レベルアップの必要性を実感。

(3)所長と一緒に首都の職業訓練学校を訪問し、設備や授業内容について調査。必要な設備や資材のリストを作成し、所長に提出。

(4)所長とCPに活動計画(エアコンの動作原理がわかる設備の導入など)を話し、同意してもらう。所長からCPに協力して活動を進めるように要請してもらった。

(5)CPに支援を要請しても協力してもらえない状況が続き、なぜ支援してもらえないのかが不明でひとりで悩む。自分でできることをしようとしたがなかなか進まない。

(6)首都の店に行き、機器の資材の入手の可能性、見積もりなどを聞き、資料を作成。

(7)機器購入を目指し、活動のために使用できるJICAの予算を申請。JICAから了承を得た。その後、機材や資材がそろい、設備を組み立てる。

(8)CPが交代する。

(9)生徒に誕生日を祝ってもらう。

(10)CPに支援を要請しても、なかなか協力をしてもらえない状況が続くため、協力してくれる人に依頼。

(11)振り返って自分にひと言:活動を通じ、知識や長年の経験を、それを必要とする人に伝えられることができ、良い経験ができた。生活面では初めてのひとり暮らしで、家族と健康の大切さも再認識。

藤高さんの過去のインタビューはこちら

知られざるストーリー