JICA Volunteers’ before ⇒ after

佐藤博亮さん(マラウイ・コミュニティ開発・2015年度3次隊)

before:銀行員
after:自然エネルギー関連企業 社員

 高校時代に「ルワンダ虐殺」のことを知り、国際協力の道を目指した佐藤さんは、大学生、社会人を経て、協力隊に参加。マラウイでの活動を通し、エネルギー分野で開発途上国の支援をしたいと、帰国後は再生可能エネルギーの関連機材を取り扱う企業に就職した。

次の世代のためにできること

マラウイで協力隊員として活動する佐藤さん。イラストを用いて改良カマドを取り入れるメリットを現地の人に伝えた

 高校生のときルワンダ虐殺のことを授業で知り、「同じ時代に起きた出来事に対して、自分にも何かできないのか」と思った。
「私自身、あまり裕福ではない家庭で育ち、いろいろなことを人一倍頑張らないといけませんでした。だから困っている人の役に立ちたいという気持ちがあったのだと思います」
 将来的に国際協力を仕事にしたいと、国際法を学べる大学に進学。しかし、実際に何ができるのかがはっきりせず、就活シーズンが到来してしまう。学校にリクルートに来ていた銀行を受け、採用が決定。法人営業を担当することになっていたので、いろいろな業界を見て次のステップを考えようと思った。
 法人営業の仕事をして2年目、「自分は厳しい環境にいる人の役に立ちたいと思っていたのに何をしているんだろう」と感じることが増えていた。そんなとき、電車内で協力隊募集の中吊り広告を見て、次のステップを踏み出す決意をし、応募。合格した。
 マラウイ南部にある農業普及所に配属され、電気・水道が普及していない農村部で活動することになった佐藤さん。現地の人の生活の質の向上を目指すため、着目したのがエネルギーだった。従来の3つ石ストーブ(*1)を熱効率の良い改良カマド(*2)にすることで、薪の消費量や購入費用、薪集めに費やす時間を削減できる。そう考え、普及活動に取り組んだ。
 活動当初、現地語がうまく話せない佐藤さんを現地の人は優しく迎え入れてくれた。伝えたいことを理解し、ともにカマドづくりに取り組み、つくった後は一緒に食事をした。「マラウイの人に活動をさせてもらった」と佐藤さんは当時を振り返る。
「日本も昔はこういうカマドを使っていた」と佐藤さんは現地の人に話したことがある。すると「孫の世代は将来日本のような生活ができるようになるかしら」と言われた。
「どの国の人も『次の世代にはよりよい生活を』という願いがあるのだと知りました。しかし、現地の人が希望する生活に近づけるほどの地球資源は残っているのかと疑問に思い、限りある資源を活用する再生可能エネルギーの必要性を感じるようになりました」
 改良カマドの普及だけではなく、現地のためにもっと何かをしたかったが、専門的な技術も知識も足りない。佐藤さんは現地の人に「専門的なスキルを身につけて戻ってくるから、10年待っていて」と伝え、日本に帰った。

*1 3つ石ストーブ…熱源の周囲に3つの石を置き、その上に鍋などをのせて利用する。熱伝導率が悪く、大量の薪を必要とする。
*2 改良カマド…熱源の周囲をレンガで囲い粘土で固めたカマド。熱伝導率が良く、薪の使用量が少なくて済むが、定期的なメンテナンスが必要。

再生可能エネルギーを途上国に

木質バイオマスボイラーの点検作業をする現在の佐藤さん。木質バイオマスボイラーで使用する燃料は、未利用の間伐材や製材工場などで残った木材、建造物を解体する際に出る木材など。同機材はオーストリア製で、輸入や設置のための調整業務を佐藤さんが担当している

業務の一環として、学校などで仕事と協力隊活動の紹介も行っている

 地元の山形県で就職活動を始めた佐藤さんは、再生可能エネルギー関連の企業を探し始めた。いつかマラウイに貢献する仕事に就くことを目標としていたので、仕事を通じて開発途上国に貢献する精神を持った経営者のもとで働きたいと思っていた。そのことを青年海外協力隊相談役(*3)に相談したところ、県内に再生可能エネルギーを扱い、社会貢献活動にも注力している会社があることを教えられ、会社を訪問。話を聞くと、海外からの輸入商材を扱っており、語学ができる人を求めているとわかった。佐藤さんは就職試験を受け、合格。太陽光発電など自然エネルギー機材の卸売販売や施工などを行う、ソーラーワールド株式会社に入社した。
 現在営業部に所属し、自然エネルギー機材の営業活動や、一般家庭から太陽光発電設置の依頼があった際の現地調査や見積もり、施工の段取りなどを行っている。機材の施工は担当者が行うが、簡単なメンテナンスや修理は佐藤さんもできるようになった。また、海外営業として、オーストリアから仕入れる商材の調整業務も担当し、設備設計や見積もりなど日本と海外のやりとりをサポートする。
「語学力に加え、協力隊の活動で学んだ選択肢を提示する力が役立っています。現地の生活を強制的に変化させるのではなく、取り入れてもらうための長所、短所を伝えて現地の人に選んでもらう。無理に導入しても継続した利用は期待できないからです。現在もその考え方を下地にお客様とお話ししています」
 昨年は、太陽工学を専門とするナイジェリアの留学生の受け入れも担当。彼女を通して、今後ナイジェリアで小規模太陽光発電設備の太陽光発電キットを販売する準備もしている。仕事を通して技術や知識を得ることで自身の成長を日々感じることができ、「マラウイで役に立てる人間になり、現地に戻るというのが仕事のモチベーション」という。
 8年後、「待っていて」と伝えたマラウイの人が住む地域や、途上国の未電化地域に小規模太陽光発電設備を普及する。その目標を現実にするため、佐藤さんは働いている。

*3 青年海外協力隊相談役…帰国隊員の進路開拓をサポートし、全国に配置されている。






佐藤さんのプロフィール

【before】
[1990]
山形県出身。
[2013]
3月、新潟大学法学部法学科卒業(国際法ゼミ)。
4月、株式会社りそな銀行にて法人渉外・融資業務に従事。

【JICA Volunteer】
[2016]
1月、青年海外協力隊に参加(自分が役立てるのか自信がなかったが、募集説明会の会場で協力隊経験者から伝えられた「興味があるなら応募したほうがいい」という言葉に背中を押され、応募。合格できた)。
マラウイの南部に位置するブランタイヤ県内の農業普及所に配属され、改良カマドの普及に取り組む。薪の消費量、購入費および薪集めに費やす時間の削減に貢献した。
[2018]
1月、帰国。

【after】
[2018]
6月、ソーラーワールド株式会社に入社(同社の社長が過去にバングラデシュで太陽光の技術指導などをしていたと知り、業界研究をしたいと訪問。求人をしていることがわかり、受験した)。

ソーラーワールド株式会社
設立:2009年(開設は1997年)
住所:山形県天童市鎌田2-1-11
業務内容:自然エネルギー機材の卸販売・施工など。
従業員数:8人(2020年5月現在)

知られざるストーリー