地域における多文化共生推進の重要性の高まりと
協力隊経験者への期待

話=上坊勝則さん
総務省 自治行政局 参事官(国際担当)

地方自治体による多文化共生推進の方向性を示す「地域における多文化共生推進プラン」。今年9月、14年ぶりにその改訂版が策定された。これを所管する総務省に、プランの概要や、協力隊経験者がその実施の担い手となることへの期待などについて伺った。

地方自治体による施策の方向性

かみぼう・かつのり●1972年生まれ、奈良県出身。95年、自治省(現・総務省)に入省。2015年7月から18年7月まで、(一財)自治体国際化協会のシドニー事務所長として「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」の推進、地方自治体の国際交流の支援などを担当。20年7月より現職。

 外国人住民の増加を受け、総務省は2006年に初めて、地方自治体による多文化共生推進の方向性を示す「地域における多文化共生推進プラン」(以下、「推進プラン」)を策定しました。その後、多くの地方自治体で地域の実情を踏まえた多文化共生推進の指針や計画が策定されてきました。今年9月、総務省は指針や計画の策定や見直しに資するため、「推進プラン」の改訂版 を策定しました。外国人住民の増加や多国籍化、昨年4月の「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)の改正による「特定技能」(*)という在留資格の創設、デジタル化の進展といった社会・経済の情勢変化や、政府全体で外国人の受け入れに関する環境整備を推し進めるプラン「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(こちらの記事を参照) の取りまとめといった国や地方自治体による多文化共生推進の変遷を受けたものです。
 改訂前の「推進プラン」では、施策の方向性を「コミュニケーション支援」「生活支援」「多文化共生の地域づくり」という3つの柱でまとめていました。改訂後の「推進プラン」はそれらを引き継ぎつつ、中身の具体的な施策に変更を加えています。例えば、「コミュニケーション支援」に位置付けている「行政・生活情報の多言語化、相談体制の整備」では、ビデオ通話などで通訳者を広範に活用するなど、デジタル化の進展を踏まえた施策を加えています。
 改訂後の「推進プラン」ではさらに、4つ目の柱となる「地域活性化の推進やグローバル化への対応」も新たに設けています。これは、行政サービスの受け手としてだけでなく、一住民として、外国人住民の方々に地域づくりに能動的にかかわっていただくための施策をまとめたものです。

* 特定技能…農業や介護など、人手不足が深刻な産業分野で即戦力となる外国人に認められる在留資格。

地域の多文化共生推進の重要性

 以上のように進めている地方自治体の多文化共生推進ですが、地域における多文化共生推進は現在、3つの背景から重要性が高まっています。1つ目の背景は、「推進プラン」を改訂するに至った背景でもある、外国人住民の増加と多国籍化です。昨年末の外国人住民の人数は約293万人で、改訂前の「推進プラン」を策定した06年の約1.4倍となっています。国籍の割合については、06年に約15パーセントだったブラジルが約7パーセントへと半減する一方、約2パーセントだったベトナムが約14パーセントになるなど、東南アジアの割合の増加が顕著です。
 2つ目の背景は、外国人住民が暮らす地域の広がりです。10年の入管法改正で創設された「技能実習」や前述の「特定技能」などの新たな在留資格で外国人が就けるようになった職業には、農林水産業など全国津々浦々で仕事を得ることができるものも多いため、これまで外国人住民が少なかった町村でその人数の増加が顕著となっています。外国人住民がにわかに増えた地域の地方自治体では、多文化共生の推進に必要な体制の整備が追いついていないため、それを早急に進めなければならないという課題があります。
 3つ目の背景は、改訂後の「推進プラン」に新たな柱を盛り込んだ背景でもありますが、地域が外国に打って出なければならないという状況になっていることです。具体的には、地域経済の1つの大きな柱になっている観光インバウンドをさらに盛り上げていくこと、あるいは地域産品の販路を外国に広げていくことが、地域の大きな課題となっています。それらの解決にあたり、外国人住民の知見や感覚を活用しようというのが、改訂後の「推進プラン」に新たに盛り込んだ柱の趣旨であり、そうした形の多文化共生を推進する意義は、今後ますます高まっていくことと思います。

協力隊経験者への期待

 地域における多文化共生推進の重要性が高まるなか、地方自治体による多文化共生推進の担い手として期待するのが、JICA海外協力隊経験者の方々です。年単位の長い期間にわたって外国で生活し、仕事をするなかで鍛えられた語学力、外国人住民の視点に立つ力、専門性の3つを発揮していただける仕事だからです。
 語学力に関しては、外国人住民全体に占める割合が増えている東南アジアの国々の言語が話せる方は、地方自治体の多文化共生推進で特に重要な役割を担っていただけることと思います。
 外国人住民の視点に立つ力は、地方自治体の多文化共生推進の担い手にとってとても重要なものです。例えば、防災や気象に関する情報を住民に発信する際、外国人住民にも適切な行動をとっていただくためには、多言語で行うことだけでは不十分で、発信する情報の内容自体にも配慮しなければなりません。日本人住民ならば、「いついつ、どれくらい大きな台風が来る」という「フロー情報」だけで、自分がどのような行動をとれば良いのかが判断できます。しかしそれは、「この川は氾濫のおそれがある」など、その地での生活で蓄えてきた「ストック情報」を持っているからであり、それを持たない外国人住民には、あらためてお伝えする必要があります。しかし、外国人住民は「ストック情報」を手に入れるのが難しいこと、それがないと困る場面があることなどは、自分自身が外国人住民として生活した協力隊経験者のような方でなければ発想するのが難しいものでしょう。協力隊経験者ならば、「外国人住民のために『ストック情報』も発信しよう」といった外国人住民の視点に立ったアイデアを、地方自治体に提供していただけることと思います。
 外国で「仕事」をするのが協力隊員ですから、「保健師として外国人に健康指導をするときに、どのようなコミュニケーションの取り方をすれば良いか」など、外国人を相手にそれぞれの専門の仕事をする際のノウハウを身に付けて来られることと思います。そうしたノウハウを、さまざまな専門性の協力隊経験者の方々から地方自治体にもたらしていただきたいと考えています。と言うのも、日本は地方分権により、幅広い分野の行政サービスを地方自治体が提供しており、いずれの分野でも外国人住民への対応の質を高める必要があるからです。
 協力隊経験者の方々は、途上国の方々の支援をしたいという熱い思いによって、日本とは異なる環境での苦労を乗り越えてきたことと思います。帰国後は、そうした熱意を多文化共生の推進という課題に直面している地域に向けていただきたいと、切に願っています。

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