外国人相談の豊かな実績を持つNPOで統括役を

話=新居みどりさん
●NPO法人国際活動市民中心(CINGA) 職員
●青年海外協力隊経験者(ルーマニア・青少年活動・1998年度3次隊)

外国人を対象とする一元的相談会の運営を2000年代半ばから手掛けてきたNPO法人国際活動市民中心(CINGA)。その事務局で統括役を務める新居さんに、事業内容や多文化共生についての考えなどを伺った。






PROFILE

にい・みどり●1977年生まれ、京都府出身。99年4月、青年海外協力隊員としてルーマニアに赴任。2001年4月に帰国した後、早稲田大学と同大学院で多文化共生について学ぶ。東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター(現・多言語多文化共生センター)のコーディネーターを経て、2011年にNPO法人国際活動市民中心(東京都千代田区)に入職。

協力隊時代●ムレシュ県トゥルグ・ムレシュのNGO、ルーマニア・日本文化愛好協会「至道」に配属され、日本語教室や折り紙教室の運営などに取り組んだ。右写真は、活動の仲間と新居さん(右端)。


−−勤務されているNPO法人国際活動市民中心(以下、CINGA〈シンガ〉)の概要についてお教えください。

「外国人住民が抱えている問題」や「やさしい日本語」について伝える日本人住民対象の講習会で講師を務める新居さん

 東京都の区や市にある国際交流協会(*1)やNPOは、2004年に「東京外国人支援ネットワーク」というネットワーク組織をつくり、外国人住民を対象とする相談会を月に1回、加盟団体が持ち回りで開催する活動を始めました。「リレー専門家相談会」と名付けたもので、弁護士や行政書士、医者などさまざまな専門家が会場に詰め、一元的に対応する相談会です。その運営を支援する団体として設立されたのがCINGAで、設立以来、多文化共生の推進に関する事業を幅広く行ってきました。
 専門家相談会はその後も継続してきたのですが、コロナ禍を受け、今年4月からは一元的な専門家相談会を月に2回、オンラインで行うようになりました。この相談会の運営のほかに、CINGAでは現在、主に2つの事業を行っています。1つは地域日本語教育分野の事業で、文化庁と協力しながら、日本語学習支援ボランティアを対象とする研修を実施するなどしています。もう1つは、国の「外国人受入環境整備交付金」(こちらの記事を参照) によって全国の地方自治体で設置が進んでいる一元的相談窓口の支援です。具体的には、各窓口の相談員から「相談票はどういうフォーマットが良いか?」「アラビア語の通訳者が地域に見つからない」といった相談を電話で受け、ノウハウや情報を提供しています。19年度には約60カ所の一元的相談窓口を回って課題の聞き取りを行い、同時にCINGAが中間支援をする旨の周知もしました。
 一方、行政機関から業務を受託することもあります。そのメインとなっているのは外国人相談窓口の運営で、現在、08年に全国に先駆けて東京入国管理局により新宿区と埼玉県に設置された一元的相談窓口など5カ所の運営を請け負っています。

*1 国際交流協会…地域住民による国際交流や国際協力、外国人住民支援などを進める地方自治体の外郭団体。

−−相談窓口はどのような体制で運営しているのでしょうか。

 相談員数人と、そのフォローをするコーディネーターを配置するというのが通常です。運営を受託している5カ所の相談窓口に配置している相談員は計60人ほどで、現在のところ、日本語力が高い外国人の方にお願いすることが多くなっています。しかし、相談員業務は語学力よりも、外国人住民にかかわりがある制度の知識、あるいは相談対応の態度のほうが重要なので、どの相談窓口でも定期的に相談員の研修を行っています。

−−新居さんが担当されている業務は?

 私はCINGAの有給職員のなかの一番の古株なので、新規事業の立ち上げや受託業務の応札など、現場以外の統括的な仕事を担当しています。最近では、コロナ禍を受けた事業の立ち上げにいくつか携わりました。オンラインで専門家相談会を行う仕組みをつくったのもその1つです。また、PCR検査の受け方など、医療機関にかかる際に必要な知識を外国人向けに「やさしい日本語」(*2)で解説するシリーズ動画『医療で用いる「やさしい日本語」』を、医学と日本語の専門家と共に作成し、動画サイトに投稿していますが、その業務も私が担当しました。CINGAは、東京都との協働で今年4月に立ち上げた「東京都外国人新型コロナ生活相談センター」の運営も行っています。その窓口を開設するとすぐさま、通訳者がいなければPCR検査の受け入れはできないという病院が多いことがわかりました。そこで、通訳者の不足で外国人が検査を受けられなくなるおそれがあると感じ、つくり始めたのがこのシリーズ動画です。

*2 やさしい日本語…母語話者ではない人でも理解できる表現だけを使った日本語。

−−多文化共生の推進に携わるうえで、協力隊の経験はどのように生きていますか。

 私は協力隊に参加した後、英国に留学しているのですが、2つの外国で生活した経験が、多文化共生に目を向けるきっかけとなり、その後も多文化共生について考え、その推進のために行動するモチベーションとなっています。ルーマニアでは友達がたくさんできたのに、英国ではほとんどできませんでした。そうして「日本で暮らす外国人たちはどちらなのだろう」という疑問を持つようになり、多文化共生推進の仕事を志すようになりました。両国の違いはどこに原因があったのか、いまだに明確な答えは出せていません。しかし、可能性があると考えているのは、両国の社会には人々が交わる度合いに違いがあったということです。経済が発展している英国では、人は互いの力を借りなくても生きていける。一方、当時のルーマニアはそういうわけにはいかないため、おのずと人々が交わる度合いが高かったのではないか。
 今、日本で暮らす外国人の方々は、私が英国で体験したように「日本人の友達ができない」と感じているかもしれません。外国人住民は出身国ごとにコミュニティもあり、日本人住民との交わりが薄くても生活に支障がない人もいるでしょう。しかし、日本人住民との交わりが濃くなれば、それだけ彼らの楽しみ、さらには日本人側の楽しみが増えるはずです。そうした観点から、私は外国人住民を日本人住民が行う地域づくりに呼び込み、共に活動していくべきではないかと考えています。人間は、人や社会の役に立てたときに「幸せ」を感じるものだからです。例えば、森林を育てるために行う間伐のボランティアなどは、日本語の力がない方でも参加していただけます。そこに、外国人住民の方々を招き入れる。実は、そうしたことを実現できるのが協力隊経験者ではないでしょうか。多くの協力隊経験者が地域づくりのボランティアに取り組んでいますし、スーパーでいつも顔を合わせる外国人住民に声をかけ、活動に誘うような勇気を持っているのも協力隊経験者だからです。私も今後は、外国人住民の方々の「困りごと」を減らすための活動だけでなく、「楽しみ」を地域で生み出すための活動にも力を入れていければと考えています。

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