[特集] 活動や経験をどう生かす?ニッポンの伝え方

いま、途上国の人々が日本について知りたいことは、どんなことだろうか。
昔ながらのサムライやニンジャか、若い世代ならアニメやゲーム、和食や禅という人もいるかもしれない。
では、協力隊員ならではの日本の伝え方はあるだろうか。そんな視点でOVたちの活動を調べていくと、意外にも「自分の活動を伝える延長線上で日本についても紹介することにした」といった声を耳にした。伝えたい、広めたい活動がある。どうせなら「日本祭」といったイベントにしてみたら、より多くの人に注目してもらえるのではないか、そういった発想だ。今回はザンビアとパラグアイで行われた日本祭と、広島県や長崎県出身の隊員を中心に開催されてきた「原爆展」について、OVに話を聞いた。任地で活動するなかで、日本や日本文化のことを紹介する機会が出てきたとき、先輩隊員たちの活動例を参考にしてほしい。

Case1 隊員活動を絡めて功を奏した
ザンビア『ジャパンフェスティバル』

中田かおりさん
中田かおりさん
ザンビア/家政・生活改善/2017年度1次隊

PROFILE

北海道出身。大学卒業後、保育園の栄養士、学校事務職員を経て、栄養教諭として3年間働く。2017年に協力隊に現職参加し、ザンビアへ。郡保健局を中心に25カ所のクリニックで、栄養や食事の指導、健診のサポートを行う。19年に帰国後も、北海道で栄養教諭として働いている。

ジャパンフェスティバルの広告

バス停に掲示した『ジャパンフェスティバル』開催を伝える広告

 水道は通っておらず、電気や通信状態も不安定、娯楽も少なく得られる情報は限られている……、そんなザンビアのンポングウェ郡を盛り上げるために、家政・生活改善隊員として赴任していた中田かおりさんは、任地の隊員たちと共に『ジャパンフェスティバル』を開催した。しかし当初、中田さんは、この企画に乗り気ではなかったという。

「たまたまマラウイの同期隊員が日本祭を行ったという話を一緒に聞いていた同じ任地の後輩隊員から、我々もやりたいと言われたんです。私自身はもともとみんなで何かをすることが得意ではなく、日本祭というと日本の文化や価値観の押しつけになってしまう気がして、二の足を踏んでいました。でも後輩隊員と話しているうちに、自分の活動と絡めれば意義があるのではないかと思い始めました」

手洗いダンスをする隊員とザンビアの人たち

隊員たちが行う手洗いダンスに、踊りの好きなザンビアの人たちもノリノリ

 当時、中田さんは郡保健局を拠点に25カ所のクリニックを回り、安価で栄養価の高い食材を使ったクッキングデモンストレーション(クッキングデモ)や5歳児以下健診のサポートなどを行っていた。

「現地の人たちは、食材はあっても、その生かし方を知りません。大人も子どもも病気にならないと病院に行かないので、病気を予防する知識もない。日本だと自治体の広報誌やインターネット、学校現場などで情報を得られますが、ここではそういった情報を得る機会がありません。ならば日本祭で健康啓発の情報発信をしたらどうかということになりました」
 中心メンバーは中田さんと後輩隊員のほか、もう一人の現地隊員を加えた3人。3人ともたまたま保健関係の隊員だったことから、イベントの目的を健康啓発にするという意見は一致した。

 また現地では、日本=車というイメージしかなく、日本という国を知らない人も多かったため、日本文化も紹介することにした。

メインは手洗いダンス 呼び水として日本食を提供

マラリアや家族計画などに関するポスター

健康情報コーナーには、マラリアや家族計画などに関するポスターを掲示した

 やると決めてからは、開催時期や会場、内容など着々と準備を進めていった。近隣の隊員に声をかけて協力者も募った。「開催時期は、私が3月に帰国するため1月に決めました。現地の人たちの畑仕事や子どもの長期休暇にかからないことはよかったのですが、1月は雨季の真っただ中です。雨の可能性も考えて、屋根のあるロッジを借りることにしました。マラリア、手洗い、家族計画などが郡の課題だったので、メインの内容は手洗いを啓発するための『手洗いダンス』にして、その呼び水として、みたらし団子やそうめん、私が活動で使っていた大豆ハンバーグといった日本食を用意することにしました。
また任地の隊員たちで構成されている『ソーラン隊』も招集することにしました」。

大豆ハンバーグを作る協力隊員たち

中田さんが普段の活動で広めていた大豆ハンバーグを作る協力隊員たち

 宣伝活動にも力を入れた。
「地元のコミュニティFMで、イベントの告知をさせてもらったり、バス停に広告の横断幕を掲示したり、チラシを街で配ったりしました。また私の赴任先の郡保健局の局長の協力を得て、各施設や議会の長、チーフテイネスと呼ばれる族長にも、イベントで提供するみたらし団子と大豆ハンバーグを持って、事前に挨拶に出向きました」

 会場費や広告費、食材費、遠方から来る隊員の交通費や宿泊費などの費用は、現地業務費として認められた。準備は順調に進んだが、当日は雨天となる可能性があること、一昨年前にザンビアで流行したコレラが再発生すると、食事の提供ができなくなる可能性もあるなど、懸念事項は山積みだった。

ソーラン隊の演舞で幕が開けるはずだったのに

ソーラン隊の迫力ある踊り

ソーラン隊の迫力ある踊りに、ザンビアの人たちからも歓声が上がった

 しかしながらイベント当日は、不安をすべて吹き飛ばすような快晴。開場時間前から、徒歩で来る人、バスで来る人、大勢の現地の人が会場を目指してやって来た。

 ところが開始時間になっても、音響設備が届かない。ソーラン隊の演舞で幕を開ける予定だったが、音響設備が整うまで来場者を待たせることになった。

「焦っていたら、すかさず隊員たちが自発的に動いて、お客様を先にブースに案内して、着付けやけん玉を体験してもらったり、手洗いダンスを自主的に始めてくれたりしました。急きょ、箸の使い方講座を開いたり、篠笛の演奏をしてくれた隊員もいました。私一人だったら何もできなかったので本当に助かりましたし、隊員たちの底力を見せてもらった気がします」

 音響設備が整い、ようやくソーラン節を披露できたのは、開始から2時間半ほどたってからのことだった。

「ザンビアの人たちは、初めて見る日本の踊りを、踊りというよりエクササイズのようだと言っていました。演舞後は何人かの子どもたちが、踊りを習いたいと隊員に駆け寄って、ソーラン節のレクチャーが始まりました」

 イベント会場は、おおまかに「手洗いコーナー」「食べ物コーナー」「健康情報コーナー」「日本文化紹介コーナー」の4つに分けた。参加者は、入場後、まず身長と体重を量り、BMIを確認し、手洗いコーナーへ。くしゅくしゅと手をこすりながら手洗いダンスをし、手作りの水タンクで手を洗った人は、食べ物コーナーでみたらし団子を受け取ることができる。その後「健康情報コーナー」や「日本文化紹介コーナー」に移動し、そうめんや大豆ハンバーグを味わってもらう。中田さんは大豆ハンバーグを食べてもらいながら、作り方も説明した。

自分の名前を漢字やカタカナで書く子どもたち

自分の名前を漢字やカタカナで書く。書道コーナーは子どもたちに大人気

 健康情報コーナーでは、蚊帳を吊るし、そのなかにマラリア予防や家族計画、手洗い、妊産婦向けのポスターを掲示。テーブルには、ザンビアでよく飲まれている炭酸飲料とその炭酸飲料を1週間飲んだ場合の砂糖の量を展示した。日本文化コーナーでは、浴衣の着付けや書道、けん玉、輪投げ、流しそうめん台と箸を使ったゲームなどを体験してもらった。
「浴衣を着付けてもらって写真を撮り合ったり、自分の名前が漢字で書かれた書道紙を満足そうに持っていた、ザンビアの人たちの姿が印象に残っています」

 特に中田さんが嬉しかったのは、大豆ハンバーグが好評だったこと。
「これまでの隊員活動のなかで、大豆ハンバーグのクッキングデモをしても、手応えをあまり感じられませんでした。でも今回のイベントで提供したら『自分でも作りたい』『レシピを紙で配ってほしい』『クッキングデモをしてほしい』という声をたくさんいただきました。女性だけでなく、男性や子どもなど、幅広い層に食べてもらったことが宣伝効果につながりました」

 イベント終了後は、片づけと環境教育の意味を込めて、協力隊員たちで、会場内と周辺をゴミ拾い。手伝ってくれる現地の人も現れ、住民を巻き込んだ清掃活動となった。

「最後に協力隊員だけで流しそうめんの打ち上げをしました。参加してくれた隊員用に前日に作っておいた日本食も食べてもらいました」

鶴の折り方を教える協力隊員

鶴の折り方を一つひとつ丁寧に教える協力隊員

 終わってみると、トラブルに見舞われたものの、延べ約300人の来場者を数えた。「次はいつ行われるの?」「またやってほしい」といった声が早くも聞かれるほど、好評のうちに幕を閉じた。その要因を、中田さんはこう語る。

「やはり隊員活動と絡めたことで、文化の押しつけにならず、見て楽しめる、食べて楽しめる、体験して楽しめる親睦の場にできたことがよかったのかなと思います。それからザンビアの人たちは踊りが大好きなので、プログラムにソーラン節や手洗いダンスといった踊りを入れたのも正解でした」

 イベント終了後、中田さんはイベント時にリクエストのあったコミュニティに足を運び、大豆ハンバーグのクッキングデモを行った。またイベントで掲示していたポスターは、巡回先のクリニックに配布した。中田さんたちが伝えたかった健康の大切さは、日本祭を通して広がりはじめた。

『ジャパンフェスティバル』開催までの道のり

2018.10
現地隊員3人で企画立ち上げ。イベントの目的、内容、流れについて話し合う。その後、現地隊員へ協力を要請すると共に、ソーラン隊に声掛けをする。

隊員たち

2018.11~12
チラシを作り、各方面へ宣伝を行う。

2019.1
イベント前日に来場者用と隊員用の食事を準備。翌日にイベントを開催。

みたらし団子

日本祭におすすめ!みたらし団子の作り方

みたらし団子は、米粉を水でこねて形を作ってゆでたら、砂糖、しょうゆ、みりんのタレをかけて、つまようじに2つずつ刺して、串団子のようにする。大量に作れて、作りだめできて、食べやすくて、おいしい。みたらし団子は、日本祭にぴったりのメニューだ。


イベント成功の3大ポイント

1 任地の隊員活動と絡める

2 天候や時期を考慮する

3 現地の人が好むことをプログラムに入れる

『ジャパンフェスティバル』の様子を記録したYouTube

中田さんたちが行った実際の『ジャパンフェスティバル』の様子を記録したYouTubeもアップされている。

YouTubeでもチェックできる!


〔 JICA青年海外協力隊〕アフリカでジャパンフェスティバルを開くとこうなる! JAPAN FESTIVAL in Africa!!



( 制作:竹谷郷一さん/ザンビア/体育/2017年度1次隊)

活用しよう
手洗い方法ポスター

ウェブサイト「JICA水・衛生啓発ツール紹介のためのプラットフォーム」では、手洗い方法を紹介したポスター(英語、フランス語、スペイン語)をはじめ、水や衛生啓発をする際に使える資料がダウンロードできる。

Text=池田純子 写真提供=中田かおりさん

知られざるストーリー