JICA海外協力隊に参加する人はどんな人?

CASE6   教員生活8年目で念願の協力隊に参加
“生きる力の塊”と接して実感した互いの良い面を教育に生かすこと

現職教員特別参加制度で参加した金光邦朗さんの場合
▶ JICA海外協力隊理科教育隊員としてソロモンへ
▶ 帰国後:理科教員として勤務しながらソロモンと日本の子どもの交流の機会を増やす

金光邦朗さん
金光邦朗さん
ソロモン/理科教育/2016年度1次隊・大阪府出身

高校の教諭や大学時代のゼミの仲間が協力隊に参加していたことがきっかけで、いつか教育分野で協力隊に参加しようと目標を持つ。大学院卒業後、東京都教職員として都内の中学校に8年間勤務し、異動のタイミングとなる2016年に現職教員特別参加制度を利用して協力隊に参加。帰国後復職しながらも、ソロモン派遣時に住んでいた村の人々と関わり続けている。

「異動の節目を見つけて、バンッと飛び込んだ感じです」と話すのは、理科教育の職種でソロモンに派遣された金光邦朗さん。高校時代の恩師や大学のゼミの同級生らが協力隊に参加する姿を見て、「いつか自分も途上国の役に立ちたい」と思い続けてきた。

理科の実験は、空き缶、ガラス、アルコールなど、現地にある物を利用して行った

理科の実験は、空き缶、ガラス、アルコールなど、現地にある物を利用して行った

   念願がかなったのは、東京都の公立中学校の教員として初任校に勤務して8年目、33歳の時だ。「教員になって最初の1 〜3年目は目の前の仕事に必死でした。少しずつ余裕が生まれて、6年目から参加を考えましたが調整がつかず、次に異動する時には必ずと思っていました」と振り返る。

   金光さんが利用したのは「現職教員特別参加制度」。教員の身分を保持したまま、有給で協力隊に参加できるメリットがある。一方、学校長からの推薦や教育委員会の理解が必要となり、教育委員会によっては応募者間での競争倍率が高い場合もある。金光さんは副校長に事前に相談しておいたこともあり、学校長からも、「推薦書類に長所をたくさん書いておいたから」と快く後押ししてもらったという。

「以前から『タイミングを見て協力隊に』と話していたので、理解してくれていたのだと思います。同僚には合格してから話をしましたが、『やっぱり』といった反応で、皆、応援してくれました」

   同制度で参加する場合、3月末まで学校で仕事をし、4月から派遣前訓練に入る。

「応募から派遣前訓練に入るまでの流れはスムーズでしたが、3月31日まで部活動の指導をしていたので準備は大変でした」。

学校外でも他の隊員らと共に町でサイエンスショーを実施。それぞれの隊員が得意のダンスや三線などを使って呼び込みから行った

学校外でも他の隊員らと共に町でサイエンスショーを実施。それぞれの隊員が得意のダンスや三線などを使って呼び込みから行った

   その後、派遣前訓練と現地語学研修を経て配属されたのは、ソロモン・ウェスタン州ムンダにあるコケンゴロ中高校。ここで理科の授業を受け持ったほか、スポーツの時間や課外授業で柔道や三線(さんしん)、絵画などにも取り組んだ。当初は語学研修で習ったソロモンの共通語であるピジン語を使っていたが、生徒たちが都合の悪い時だけウェスタン州の現地語であるロビアナ語を話すため、独学でロビアナ語もマスターした。授業で使う器具がなければ自作し、座学だけでなく、実験・観察などの体験的な学習を重視した。

   一方、一歩学校の外へ出れば、今度は村の子どもたちの面倒を見た。毎日、夕食後に自宅に集まってくる30人近い子どもに勉強を教え、一緒に眠った。共に海や山で遊び、子どもたちが捕まえてきた魚介や鳥を調理して食べることもあった。「『学びたい』という子どもたちの純粋な思いに応えたいと思いました」。そんな日々の様子を『かねみつ〜しん』と名付けたブログで発信し、日本の学校と交流を図ることも忘れなかった。

   村人から言われた言葉がある。「今までたくさんのボランティアが来たが、おまえは私たちと同じ物を食べ、同じ言葉を話し、教会にも毎日来た。だからおまえはファミリーだ」。

帰国後もソロモンに足を運び、交流を続けている金光さん。2019年夏には、学校や賛同者の協力を得て、ソロモンの男子中学生3人を3カ月間、当時赴任していた日本の中学校に通わせるプロジェクトを実施。金光さんの自宅から通学して異文化交流し、夏休みは各地を観光した

帰国後もソロモンに足を運び、交流を続けている金光さん。2019年夏には、学校や賛同者の協力を得て、ソロモンの男子中学生3人を3カ月間、当時赴任していた日本の中学校に通わせるプロジェクトを実施。金光さんの自宅から通学して異文化交流し、夏休みは各地を観光した

   現地に溶け込み、仲間として認められた金光さんは盛大に見送られ、 2018年3月に帰国、4月から新しく赴任した学校で新学期を迎えた。「ソロモンで学んだことを日本の教育活動に生かしたい」と意気込んでいたものの、復職した途端に日本の学校の慌ただしさにあっという間に飲まれてしまったという。さらに、「生きる力の塊のようなソロモンの子どもたちに比べて、物質的にはずっと豊かなのに、悩みや不安、ストレスなどを抱えている日本の子どもたちが多くいること…。当初はそのギャップにも苦しみました」。

   しかし、赴任校は金光さんの活動に理解があり、異文化理解も兼ねてソロモンの男子中学生3人を約3カ月間日本の学校に通わせることもかなった。受け持っていた学級の生徒の中には、ソロモンの生徒と仲良くなり、学ぶことへの意欲が高まった生徒もいる。

「生きるたくましさがある一方、時間にルーズなソロモンで、私自身も寛容さが身につきました。以前ならすぐに怒っていたことも、“まあいいか”と流せるようになり、生徒指導の幅も広がったと思います。今後もソロモンと日本、お互いのいいところを見つけ、それぞれの教育に生かしていけたらと思います」

応募者へのMessage

日本での教員経験は必ず強みになります。現地では何かを教えようとするよりも、溶け込むことが大事です。私の場合は柔道や三線ができることも武器になりました。正解や不正解にこだわらず、お互いのいいところを見つけて、帰国後に生かしてください。

任地メモ

上:ムンダでの住まい。下:三食屋外で薪をくべて自炊した

上:ムンダでの住まい。下:三食屋外で薪をくべて自炊した

上:住まい下のスペースを使い、近所の子どもたちを散髪。下:海に素潜りし、タコや魚を捕まえる子どもたち

上:住まい下のスペースを使い、近所の子どもたちを散髪。下:海に素潜りし、タコや魚を捕まえる子どもたち

   オーストラリアから北東に位置し、大小100余りの島々から成るソロモン諸島。金光さんの任地での住まいは、高床式3LDKの一軒家。水道はなく、レインタンクにためた水を使っていた。シャワー、トイレ、ガスはあったが、現地の人と同じ暮らしを実践しようと、海の近くの湧き水で水浴びし、カマドに薪をくべて自炊した。「子どもたちが火をおこしてくれ、魚介や小動物などを捕ってきてくれました」(金光さん)。

   日曜日には教会で朝昼夕3回の礼拝があり、「お年寄りが子どもたちに聖書や道徳について教える場にもなっていました」(同)。優しい人ばかりで、近隣でマラリアの感染者が出るたびに「蚊に気をつけろ」と教えてくれたという。

職種ガイド:理科教育

主に中学校・高校、教員養成校などにおいて教員として理科を教え、実験を取り入れた授業の実施など、現地の理科教育の改善に協力する。金光さんの場合、中学1年から高校2年までの理科授業を担当。CDケースをカットしてスライドガラスを作製し、顕微鏡による観察を実施したり、ツナの空き缶を使って蒸留の実験をしたりするなど、身近な材料を使う工夫をし、現地教員にも紹介した。

現職教員特別参加制度とは?

公立、国立大学付属、公立大学付属、私立および学校設置会社が設置する学校の20~45歳の教員が、身分を保持したままJICA海外協力隊へ参加できる制度。応募の翌年の4月1日から参加開始後は、日本での事前学習と派遣前訓練、任地での協力隊活動、帰国と、2年後の4月1日から年度の開始と同時に職務復帰ができるよう、ちょうど2年間で参加できるスケジュールが組まれている。
詳細はウェブサイトへ▶

Text=秋山真由美 写真提供=金光邦朗さん

知られざるストーリー