帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:株式会社石見麦酒(いわみばくしゅ)
事業概要:島根県江津市にあるビール醸造所。地元の大麦や果物などを生かしたクラフトビールを醸造している。
大学時代に韓国やブラジルを旅行し、海外で働くことに興味を持った和田谷光輝さん。その時に海外協力隊の存在を知り、社会経験を積んだ上で参加しようと決めた。大学卒業後は地元の信用金庫の営業マンとして働き、さらに、協力隊で役に立つかもしれないと、祖父母が暮らす島根県で地域おこし協力隊として活動した。
念願かなって派遣されたのはパラグアイ。コミュニティ開発隊員として、地域のためのさまざまな活動に取り組んだ。農家や女性が現金収入を得られるようにと始めた農産物・加工品販売のマルシェの運営と、特産品の情報発信のためのエキスポ開催には特に力を入れた。
帰国後、最初に就いたのは伝統工芸品の製造・販売会社。仕事内容に面白さや意義を感じつつも、自分が本当にやりたいことは何なのかと考えていた。
「信金の営業や地域おこし協力隊、海外協力隊での経験を振り返り、自分は積極的に動いて人と関わり、人と人をつなぎ、大切な人のために動くことが好きなのだと改めて気づきました」
そう思った和田谷さんは、島根で新たな仕事を探すことを決意。そして選んだのが「石見麦酒」だった。
「それまでの仕事では、生産者側に立った経験はなかったのですが、ビール造りを通じて地域を活性化し、人々をつなげることに貢献できるのではないかと興味を持ちました」
入社4年目の現在、多岐にわたる業務に携わっている和田谷さん。パラグアイの主食でもあるマンディオカ(キャッサバ)を副原料にしたパラグアイビールを開発して都内開催のパラグアイフェスティバルに出展し、収益を現地の日本語学校に寄付するなど、パラグアイとのつながりも続いている。
「今まで多くの人と関わってきました。その時は自分の力のなさを感じることもあったけれど、経験を積んだ今ならできることもある。すべての人たちに恩返しできる人間になることが、今の目標です」
配属先はパラグアイ最古の日系移住地、ラ・コルメナ市の日本文化協会です。当時は移住80周年を間近に控えた頃で、日系社会を中心とした地域活性化事業が行われていました。2代目隊員だった僕の主な活動は、前任者が考えたプランを実行に移すこと。具体的には現地小中学校や日本語学校での環境・交通教育、水源地確保のための植林、週末に行われるマルシェの運営などです。また、移住80周年式典の準備のため、文化協会と大使館とのやりとりなどもサポートしました。式典は任期終了後の9月でしたが、再渡航していたので参加することができました。
隊員時代に、JICA草の根技術協力事業「パラグアイ農村女性生活改善プロジェクト」の実施のために現地を訪れていた横浜国立大学の関係者と知り合う機会があり、任期を終えて帰国した後にパラグアイへ再び渡航して、大学側の現地スタッフとして半年間現地での調整業務に携わりました。
しばらくゆっくりしようと思っていたため、転職サイトで焦って求人情報を探すことはせず、テレビや新聞などで「面白そう」と感じた会社に直接連絡を取り、説明会があれば参加するという形で就職活動を行いました。2~3社にエントリーし、京都にある工芸品を製造・販売する会社に就職しました。
1年ほど働く中で、改めて自分らしい働き方を考えるようになっていました。その時、母の実家があり、地域おこし協力隊としても活動した島根で暮らすことが頭に浮かび、「ふるさと島根定住財団」の支援サイトで求人情報を探し始めました。そこで目に留まったのが「石見麦酒」でした。
まずは社長がどんな人か知りたいと思い、地域おこし協力隊で知り合った人たちの人脈を駆使して、社長に直接アポをもらいました。ただ、支援サイトからのエントリーもするように言われ、エントリーシートを提出するのと同時に、早速社長に会いに行きました。面接や醸造所見学をして、地域経済や人々のためのビール造りという理念が、僕の望む仕事の在り方に通じるとの共感を覚えました。働きたいと伝えたところ、GW明けから働くことが、その場で決まりました。
最初の3カ月は試用期間。8月に正式採用となりました。
社長を含めて従業員数5人の小さな会社なので、ビールの醸造から商品開発、営業、在庫管理など、すべて自分で考え自分で行っています。僕が特に力を入れているのがOEM(相手先ブランド名製造)で、入社して最初に企画したパラグアイビールをはじめ、僕が暮らす温泉津町の団体と企画した温泉津ビール、津和野町在住の協力隊OBと企画した津和野ビールも造りました。今後はビールをツールに、さらに人と人をつなげ、地域を元気にしていけたらと思っています。
協力隊をはじめ、これまでの経歴を通じていろいろな人と関わり合う中で、人として成長できたと確信しています。就職活動で自分自身に言い聞かせていたのは、こうしたさまざまな経験が長い人生の中で必ず役に立つはずだということ。人生は長いので、よい時もそうでない時もあると思います。しかし、よい時は謙虚に、そうでない時は腐らずに、すべての経験がいつか役に立つ時が来ると信じて目の前にあることに取り組んでください。
JICA海外協力隊ウェブサイト「帰国隊員の進路開拓についての相談受付」
※カウンセラー/相談役により対応可能な日が異なりますので、
あらかじめ電話またはメールでのご連絡をお願いします。
Text=油科真弓 写真提供=和田谷光輝さん