先輩隊員のシューカツ記

帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。

【今月の先輩の就職先】厚生労働省(検疫官)

小阪みづほさん
小阪みづほさん
バヌアツ/看護師/2017年度1次隊・兵庫県出身

就職先:厚生労働省(検疫官)
事業概要:国家公務員として全国の海港・空港の検疫所に配置される。主な仕事は、入国者の健康状態の確認や検疫感染症(※)の検査などを行う検疫業務、感染症媒介動物の調査などを行う衛生業務、健康相談、予防接種など。検疫所には、行政職、医師、看護師および食品衛生監視員などさまざまな職種が検疫官として働いている。

小阪みづほさんの略歴

  • ▶1989年           兵庫県生まれ
  • ▶2012年4月      大学卒業後、看護師として東京・大阪の病院に勤務
  • ▶2017年3月      病院を退職
  • ▶2017年7月      協力隊員としてバヌアツに赴任
  • ▶2019年7月      帰国
  • ▶2019年11月    厚生労働省に検疫官として入職

検疫所は水際対策の最前線
世界の動きを日々感じています

   2019年末に新型コロナウイルス感染症が中国で報告されてから、日本の海港や空港の検疫所ではウイルスの流入を防ぐための懸命な水際対策が行われていた。そこには、協力隊の活動を終えて検疫官になったばかりの小阪みづほさんもいた。

   小阪さんが協力隊を目指したのは、中学生の頃に読んだ本で知ったことがきっかけ。「母が看護師をしていて身近な職業だったこともあり、看護師として参加しようと決めました」。

   そこで、大学で看護師の免許を取得し国内の病院に勤務。5年間の経験を積んだ後に看護師隊員として協力隊への参加を果たし、バヌアツの地方のヘルスセンターを拠点に診療補助や健康教育活動に携わった。

   看護師として協力隊に参加する夢をかなえた小阪さん。任期中から、帰国後には病院以外の仕事で、引き続き海外に関わり続けることを望んでいた。バヌアツからインターネットで自分の経験を生かせる仕事を調べる中で知ったのが「検疫官」の仕事だった。「14年に都内でデング熱感染者が見つかった時に看護師として治療に当たった経験があり、隊員時代にもデング熱患者に接していたので、感染症対策の分野に興味を持っていました」

   19年7月の帰国直後に試験を受け、11月に検疫官となって最初の勤務地は羽田空港。年が明けてすぐに新型コロナウイルスの感染拡大で水際対策が強化され、多忙を極めた。発熱などの症状がある乗客には新型コロナウイルスの検査を行っていたが、小阪さんがデング熱を疑い、デング熱の検査・治療につなげたこともあった。

「患者を診た経験から『これは新型コロナウイルスではない』と。今までの経験が今の仕事につながっています」

   検疫所には、ロヒンギャ難民やウクライナ避難民、各国要人など、世界情勢と共にいろいろな人がやって来る。

「検疫官を選んだのは海外と関わりたいという思いからでしたが、検疫所は世界の動きがよくわかる場所。世界とのつながりを日々感じています」



1.協力隊時代   2017年7月~

左:任地の村落を巡回し、予防啓発などに取り組んだ。右:布製の人体模型で学ぶ小学生たち

左:任地の村落を巡回し、予防啓発などに取り組んだ。右:布製の人体模型で学ぶ小学生たち

配属先は人口2700人ほどのポートオーリー村にあるヘルスセンターでした。診療業務の補助のほか、近隣の村を巡回して、生活習慣病を予防するための啓発活動を行いました。具体的には、日曜日に住民が集まる教会での血圧・体重測定、食事や運動を指導するワークショップの開催、小学校での健康教育などです。また、小学校では布で作った人体模型で身体の仕組みを教えたりもしました。この時男女の身体の違いについて説明することもありました。日本のような保健の授業がないため、少しでも性教育につなげていきたいという思いから行いました。

2.情報収集

語学が苦手なので、帰国後は日本にいながら海外に関わる仕事がしたいと漠然と思っていました。そこで、活動の合間に「看護師」「保健師」「海外」「感染症」などのキーワードでネット検索し、どんな求人があるのか調べていました。感染症をキーワードにしたのは、日本やバヌアツでデング熱の患者を診たことがあり、身近に感じていたからです。そこで目に留まったのが厚生労働省の「検疫官」という職種でした。厚労省では随時、検疫官を募集していて、採用情報はHPで確認できました。

3.書類提出    2019年8月

提出書類 ▶履歴書、小論文

7月に帰国してすぐに書類を提出しました。小論文は「オリンピックにおける検疫の大切さ」がテーマでした。履歴書の自己PRには、デング熱などの患者を扱った経験を生かせること、また、協力隊で異文化に触れた経験が、多様な文化の人々と接する上で強みになることなどを書きました。

4.面接   2019年9月

面接では検疫官を含む検疫所職員数名からいくつか質問を受けましたが、協力隊の活動については特に聞かれませんでした。検疫官には協力隊経験者が多いので、珍しくなかったのかもしれません。聞かれたのは、異動で全国への転勤があるが大丈夫かという点で、私はどこにでも住めるので問題ないと答えました。当日、面接を終えて帰宅する途中に採用決定の連絡がありました。何が採用の決め手になったのかはわかりませんが、のちに面接担当だった検疫官から「一緒に仕事をしたい人を採用した」と言われたことがあります。

2019年11月 入職

現在の仕事

現在勤務する中部空港にて

現在勤務する中部空港にて

空港での検疫業務は、入国者の健康状態の確認、有症者に対する問診および必要に応じた検疫感染症の検査などさまざまです。到着便に急病人がいるとの緊急事前連絡が入ると、検疫官として真っ先に機内へ入り、検疫感染症なのか否かを見極め、治療につなげることもあります。3年間勤務した羽田空港の検疫所では、新型コロナウイルス対応の検疫業務がメインとなりました。2022年11月に異動した中部空港の検疫所は前任地よりも規模が小さく、空港内の衛生調査や、黄熱を中心とする予防接種、海外渡航向けの予防接種相談なども担当しています。

後輩へメッセージ

羽田空港で検疫業務に当たっていた20年3月頃、コロナ禍で一斉帰国した協力隊員の姿を数多く見ました。任期を全うできなかった隊員たちは、本当に悔しかっただろうという印象が残っています。だからこそ、やりたいことがあるなら、やれる時にやるべきだと思います。就職活動でもそれは同じ。興味を持った仕事や目指す目標があるのならば、後回しにせず、すぐにチャレンジするのがよいと思います。

※…国内に常在しない感染症として検疫法で指定され、国内への侵入を防止するため検疫の対象となっている感染症。エボラ出血熱やデング熱、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)、新型コロナウイルス感染症などが含まれる。

JICA海外協力隊ウェブサイト「帰国隊員の進路開拓についての相談受付」
※カウンセラー/相談役により対応可能な日が異なりますので、
あらかじめ電話またはメールでのご連絡をお願いします。

Text=油科真弓 写真提供=小阪みづほさん

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