大学時代にボランティアサークルで、インドとバングラデシュに家を建てる活動や世界一周旅行を行い、水分野に関心を持つ。大学卒業後、排水処理会社に入社し、3年後に求人広告会社に転職。30歳を前に人生を考え直し、水関連の国際協力をしたいと協力隊に応募。コロナ禍を経て、カメルーンに派遣。現在はJICA地球環境部水資源グループで、南スーダン、タンザニア、ケニアの都市給水を担当している。
▶働きかける力 ▶課題発見力 ▶発信力 ▶柔軟性 ▶ストレスコントロール力
▶ストレスコントロール力 ▶異文化理解・活用力 ▶へこたれない力
カメルーンに「水の防衛隊」として派遣されたのがコロナ禍明けの2022年1月~24年1月です。2年間を振り返り、身についたと感じるのは、まず働きかける力、課題発見力、発信力、そして柔軟性、異文化理解・活用力でしょうか。
私が配属されたのは水・エネルギー省の地方事務局。スタッフと協働しながら、安全な水を飲める環境整備を行うのが要請内容でしたが、いざ赴任してみると、スタッフが出勤しなかったり、来ても遅刻してきたり。3カ月通ってみて、協働は難しそうだと感じ、一人で町に出て活動を探し始めました。
地域の住民にろ過器の作成を提案する山本さん
まず目をつけたのが「井戸」です。町では上水道で生活している人が多い一方、まだ井戸を使っている人もいました。しかし、町内36カ所の井戸を調査したところ、水に鉄が混じっているなど、水質の悪い井戸もありました。そこで住民にろ過器の導入を提案すると、2カ所で受け入れられました。作製に必要な材料は布、炭、バケツ、砂、砂利の五つ。「布と炭、バケツはこちらで用意するから、砂と砂利は用意してほしい」と伝え、一緒に作りました。
協働にこだわったのは、住民の方々に「自分たちのろ過器」という意識を持ってもらいたかったからです。この活動から、水質の問題を発見する課題発見力、地元住民にろ過器の作製を持ちかけることで働きかける力が養われたと思います。
任地では日本人の隊員一人ができることは本当に少なく、現地の人を巻き込まないと活動は広がりません。特に任地のキーパーソンと連携できれば、活動の推進力は強まっていきます。そこで私はキーパーソンと出会うべく、住民会議やNPO団体の拠点、町の盛り場など、さまざまな場所に積極的に顔を出すようにしました。
ある小学校の先生と出会ったのは、町のバーでした。小学校で手洗い授業をやりたいと話したところ快諾してくれて、そこから小学校での「手洗い授業」という活動が始まりました。
初めての授業では、パワーポイントで作った資料を使って手洗いについて説明し、絵の具をつけた手を洗って見せましたが、子どもたちの反応はいまいち。子どもたちの識字率や理解力を把握していなかったことが原因でした。そこで同期の教育系の隊員や先輩隊員にリサーチしたところ、絵を使ったり、体を動かしてもらうと効果的とのこと。次の授業では紙芝居で手洗いの大切さを説明し、最後は皆で手洗いダンスを行ったところ、大盛り上がりでした。あのままパワーポイントの授業を続けていたら、子どもたちに何も伝わらなかったと思うと発信力や柔軟性の大切さが身に染みました。
手洗い授業を受けた後、きれいになった手を見せる子どもたち
その後、教育系の隊員の協力も得て、初等教育省から発行してもらった手洗い授業を推奨するレターを持参したところ、多くの幼稚園や小学校への巡回が叶いました。結果的に1000人以上の子どもたちに手洗いの大切さを伝えることができ、子どもたちにフランス語で「ポワニエ(手首)」というニックネームをつけられました(笑)。
他にもNGO団体とごみ拾いをしたり、飲食店と協働して手洗い装置〝ティッピータップ〟を設置したり、自分にできることは、どんどん形にしていきました。定期的に、国内の隊員の任地をバスで回って、皆の活動を見学して、良い刺激を受けたりもしました。
活動を行う中で、あらゆる場面で感じたのは「別の正義がある」ということです。常に私の中では「こういう活動をしたい。こうしたほうが衛生的なのに」という思いがありましたが、現地の方々にはこれまでのやり方があり、その背景には文化や慣習もある。実際、住民会議で「(よそ者は)帰れ」と受け入れてもらえなかったこともありましたが、そこでぶつかるのではなく一歩引いて、相手を尊重しながら対話する。それが異文化理解・活用力につながりましたし、もしかするとへこたれない力、ストレスコントロール力も会得できたかもしれません。
これらの力が今の仕事にどう結びついているかですが、帰国後は、幸いにも水関連の仕事に就くことができたので、働きかける力や発信力は使えていると思います。実は今度、仕事の一環としてフランス語圏の方に向けた講義を行うことになりました。派遣中の2年間で習得したフランス語がどこまで通じるか、外国の人たちに私の知識をどこまで伝えられるか、それこそ課題発見力、異文化理解・活用力、柔軟性が試される機会になると思います。
活動中は、上手くストレス発散することが大事です。私は料理が好きなので、自分で作った美味しいご飯を食べることが、ストレス発散になっていました。どら焼きやパスタなどの手料理を現地の人に振る舞ったこともあります。意外に喜ばれたのが、塩パスタにわさびを入れた〝わさびパスタ〟です。カメルーンの人は辛いものが好きなので、「おいしい!」と、よく食べてくれました。
Text=池田純子 写真提供=山本大貴さん