[特集]活動力をアップさせるヒントに!
協力隊で身につく19の力

CASE3

小﨑愛暉さん
小﨑愛暉さん
日系/ブラジル/ソフトボール/2019年度2次隊、2021年度7次隊・三重県出身

中学校から大学までソフトボール部に所属。大学では全国大会に出場。大学卒業後は、岐阜県で消防士として働きつつも、外の世界に目を向け始める。電車内の広告で協力隊の存在を知る。退職後、岐阜県の放課後デイサービスの職員を経て、特別支援学校で体育の教員に。コロナ禍を挟み、協力隊員としてブラジルに2回赴任。帰国後は、三重県の特別支援学校の教員として働く。

小㟢さんが身についたと感じる力

▶主体性   ▶働きかける力   ▶計画力   ▶柔軟性   ▶ストレスコントロール力   ▶へこたれない力   
▶自己肯定感


主体性や働きかける力が身についてから
自分もチームも大きく変わった

子どもたちにソフトボールのルールを説明する小﨑さん

子どもたちにソフトボールのルールを説明する小﨑さん

   2020年1月に赴任したものの、同年3月に新型コロナ感染症拡大のため、活動できないまま帰国となりました。22年3月から24年1月までの二回目の派遣が、本格的な活動期間です。

   赴任先はブラジルのサンパウロ州。インダイアツーバ日伯文化体育協会のソフトボール部に配属され、チームの強化を行いました。最初に私が担当したのは13歳から16歳のクラスです。まず感じたのは主体性働きかける力の大切さでした。

   私は元々人見知りで、人前で話したり、自分の意見を言ったりすることは大の苦手。他人に何か意見を言われると、自分に意見があっても「それでいいと思います」と相手に合わせていました。でも赴任先でそういう態度では、要請に応えられませんし、コミュニケーションもとれません。「何のためにブラジルまで来たんだろう、自分の意見は言わないといけない」と気づきました。具体的な一歩となったのが、練習メニューの改善の提案です。

   担当の13歳から16歳の合同練習を見ていると、子どもたちが練習に集中しておらず、効率が悪いことが分かりました。まずこれを変えたいと、ポルトガル語の文章で練習メニューを作成し、監督に渡しました。ところが監督からは「僕には僕のやり方があるから」と受け入れられませんでした。

   ならば周りの人を巻き込んで協力してもらおうと、他の指導者や保護者にも私の思いを伝えることにしました。半年ほどたったころ、徐々に監督の考えも変わってきました。その時に、自分一人でやれることは限られていて、自分がしたいことに賛同してくれる人や協力してくれる人を巻き込んでいくことが、いかに大事かということをつくづく痛感しました。この出来事を通して、主体性、働きかける力はもちろん、柔軟性、へこたれない力、ストレスコントロール力なども鍛えられたと思います。

   活動2年目は、11歳以下のクラスに担当が替わりましたが、今度の監督は前の監督と真逆のタイプでした。「練習メニューを決めて、やりたいことをやってよい」と言われ、自由にやらせてもらえるようになりました。

ソフトボール部の指導者にピッチングの指導法を教えている様子

ソフトボール部の指導者にピッチングの指導法を教えている様子

   協力隊に参加する前は、先のことはあまり考えず、「なんとかなるさ」の精神で生きてきたのですが、協力隊活動には期限があります。目標を設定し、それに対してどう取り組むか、そのステップを〝見える化〟して、周りと共有していくことが大事です。2年目の監督らとのやりとりでは、まさに計画力が求められました。

   チームの目標は、地域リーグで上位の成績を取ること。当時は万年最下位でしたが、とにかく3位以内を目指したいと監督やコーチから希望され、それに加え、日本の礼儀やマナーを教えてほしいとも言われました。

   そこで目標に沿った練習メニューを作成し、試合後に振り返って改善することを繰り返しました。挨拶や道具の扱い方、掃除などを徹底的に指導していきました。そのかいあってか、地域リーグでは、なんと2位に! 子どもたちも、本当によく頑張りました。思いのほか、結果が早く出たことで、前の担当クラスの監督も私の意見に耳を傾けてくれるようになりました。

   帰国後は、地元の三重県の特別支援学校で教員として働いています。協力隊で身についた力は、いろいろな場面で発揮されています。一人ひとりの子どもに対してできることを提案したり、自分が困ったことがあれば周りに協力を仰いだり、積極的に人と関わりを持つようになりました。まさに主体性働きかける力です。

   また障害のある子どもたちが将来、社会で生きていくには何が必要か、それができるようになるには、卒業までに何をすればよいかということを、先を見据えて計画を立てるようになりました。自分の人生設計についても同じです。これからも教員として働くなら、小学校教諭や特別支援学校教諭の免許を取得しなければいけません。どう勉強して免許を取っていくか、計画力が必要とされています。

   日本で働いていても、子どもへの対応や同僚との関係など、悩みはつきません。それでも以前のように深刻に捉え過ぎないようになったのは、協力隊活動を通じてへこたれない力が身についたからだと思います。今でもへこむことはありますが、「もう終わったことだから気にしても仕方ない、次は失敗しないようにしよう」と前向きに考えられるようになりました。そう考えると、自己肯定感も上がったのかもしれません。

現役隊員へのアドバイス

モチベーションを保つには

「やってやる」「現場を変えてやる」という意気込みも大切ですが、力を入れ過ぎると、うまくいかなかった時のダメージが大きいです。日本なら家族や友達に話して気持ちを切り替えられますが、任地では同期隊員をライバルと感じることや、弱みを見せづらい時もあるかも知れません。だからこそ「できたらいいな」ぐらいの気持ちで取り組んだほうが、モチベーションを継続できると思います。


小﨑さんのやりがいグラフ
派遣中のやりがいを10段階で表してもらいました

小﨑さんのやりがいグラフ

つづく(CASE4:齋藤顕良さんへ)

Text=池田純子 写真提供=小﨑愛暉さん

知られざるストーリー