他国のボランティアとの協働
松田萌美(旧姓 岡山)さん
モンゴル/青少年活動/2011年度1次隊・高知県出身
高校時代に元隊員の国語教師の影響で協力隊を志す。協力隊からの帰国後はJICA四国でボランティア事業を担当。二本松青年海外協力隊訓練所やJICA地球ひろばなどでの勤務を経て、現在は高知県の土佐町スポーツコミッションにて、早明浦ダムのあるさめうら湖を活用した地域振興に従事している。
KOICAやPeace Corpsのボランティアと共にイベントを開催
配属先の垣根を越え、一人ではできないことを実現
英語、ロシア語、韓国語、そして日本語。2013年3月、モンゴル北部にあるロシア国境の町・スフバートルで「外国語歌コンテスト」が開催され、6つの学校の生徒が参加して歌や楽器演奏、ダンスを披露した――。
日米韓から来た海外ボランティアの協働で成功裏に終わったこのコンテスト。中心的に活躍したのが、協力隊員としてスフバートルに赴任していた松田さんだ。
小学生時代からピアノに親しみ、中高では吹奏楽に打ち込んだ松田さん。大学卒業後すぐに協力隊に参加し、スフバートルにあるセレンゲ県職業訓練工業センターに配属された。センターは経済的に恵まれない家庭の子どもたちが多く通う職業訓練校で、松田さんへの要請は、不足がちな情操教育を補うための部活動運営と学校行事の企画運営だった。
「CPは学校に所属するソーシャルワーカーでした。生徒たちには放課後の部活動などはなく、スポーツ大会などの学校行事があっても1日練習する程度で、コツコツと長期間努力して何かを成し遂げたりチームワークを経験したりすることがないため一緒にそうした機会を作りたい、との考えでした」
配属先での業務がない昼間は近隣の小学生にピアノを教え、午後3時以降は配属先の生徒たちを対象にした音楽の部活動を実施。ピアノ、歌、ダンスを日替わりで指導した。
「学校行事では必ず歌や踊りを披露するモンゴル。私はモンゴルの伝統的な歌や踊りは教えられないので、地域の文化センターにいる先生にきてもらうこともありました。創作ダンスは生徒と一緒に考え、はやっていたK-POPを取り入れたダンスが多かったです」
生徒の中には水くみや幼いきょうだいの世話などを優先しなければならない子も少なくない。それでも常時20人ぐらいの生徒が部活動に参加していて、松田さんはモンゴル文化における歌と踊りの重要性を実感。それが、協力隊活動の集大成ともなった外国語歌コンテストの開催につながっていく。
「発案したのは地域の青少年育成センターのモンゴル人スタッフです。当時のモンゴルではテレビのアイドル発掘番組が大人気で、地元の学校で同じようなイベントをやったら面白そうだという話になりました」
松田さんの配属先は職業訓練校ゆえ地域の一般の学校とは交流が乏しかった。他校の生徒たちを校内に迎え入れた経験のない教員たちは、イベントのアイデアに戸惑いも示したが、協働してくれたCPや英語教員の他に、松田さんには心強い味方がいた。同じスフバートル内で活動していた協力隊員たちや、他国のボランティア組織の仲間だ。
他ボランティアの協力を得てコンテストが実現
ポイントは日頃の関係づくり
「配属先では同じ部署に韓国のKOICAとアメリカのPeace Corpsのボランティアがいて、同じCPと共に活動していました。休みの日は、他校にいる外国人ボランティアとも連れ立って、よく遊びに行っていました」
日米韓のボランティア10人以上で親しくなり、お互いの活動内容も自然と把握。協力し合える雰囲気ができていたと松田さんは振り返る。
中でも、松田さんは大学を卒業したばかりの最年少。他のボランティアはいずれも人生の先輩で、教わることが多かったという。
「約束や時間を守らないモンゴルの人たちについて私がブツクサ言っていると、『メグミはいつも怒っている』と笑われていました。Peace Corpsの人からは、時間の使い方は人それぞれだとアドバイスされたのを覚えています。『人はその時に強く求めていることに体が動いていくものなのだ』と」
実際、歌の練習に来るはずの生徒が約束を忘れて帰ってしまうことに松田さんは腹を立てたが、後に理由を聞くと、妹の面倒を見なければならなかったのだとわかったこともある。「周囲のアドバイスや現地での経験のおかげで、相手の家庭環境などの背景まで想像することを覚えました」。
外国語歌コンテストではこうして築いた人脈がすべて生きた。仲間たちが「それ、面白いイベントだね!」と賛同してくれ、各学校内での企画説明から練習に立ち合い、当日の審査員まで引き受けてくれたのだ。
参加したのは、松田さんの配属先である職業訓練学校を含む6校。独唱から合唱まで30組60人以上が出場し、昼休憩を含めると6時間もかかる一大イベントになった。「1位は英語の歌をソロで歌った男の子でした。アニメの主題歌などの日本の歌も多数あり、ある学校は『ふるさと』をリコーダーで演奏しながら歌ってくれました」。
松田さんは結果だけでなく、努力のプロセスに大きな意味があると感じている。企画の発足から練習期間は約1カ月間。その時間を使って、外国語の歌を覚えて人前で披露するレベルに達するという挑戦を地域の子どもたちが体験できたのだ。それは、松田さん自身にとっても貴重な経験となった。
「他校まで巻き込んで各国語での歌の練習につき添い、当日の運営をして審査もするなんて、私一人では決してできませんでした」
この協働ケースで松田さんが学んだことがある。それは、自分のやりたいことを周囲にしっかり伝え続ける大切さだ。「スフバートルのように小さな町では外国人同士がおのずと集まりやすいので、協力すればいい活動につながるかもしれません。国や所属組織ごとに目標や手法は違っていても、派遣された国や地域の発展を支えるという方向性が同じであれば、『私はこういうことをしに来た!』と言い続けているうちに、意外なところで協働のきっかけができたりもするでしょう」
現地の人とはなかなかうまくいかない時も、似たような立場にいる外国人ボランティアに共感してもらえたり、助けてもらえたりすると話す松田さん。もちろん、他のボランティアの活動にも常日頃からできるだけ協力しているのが大前提で、自分の強みを生かして、相手が困っている時にサポートすることは大切だ。
例えば松田さんは、他国のボランティアに比べると、自身を含む協力隊員は現地語の習得レベルが高い印象を受けたという。「同じ配属先にいたPeace Corpsの女性はソーシャルワーカーで、学校の寮に住む子どもたちに関わって活動していたのですが、活動初期はモンゴル語が上手く話せなかったので、英語の通じにくい子どもたちとのコミュニケーションをお手伝いしました」。
他のボランティアとも日常的に交流し、お互いの活動について語り合い、小さなコミュニティの中で助け合っていた松田さん。「いざ」という時にその人脈が大いに生きた。
現役隊員の“協働”①
オンラインで派遣国・職種を超えた
情報共有をしています!
子安 藍さん
ソロモン/看護師/2022年度7次隊・新潟県出身
現在、「大洋州NCDs(※) 対策隊員ネットワーク」として、大洋州圏で生活習慣病対策などに関わりのある活動をしている隊員同士で情報交換を行っています。参加している隊員の派遣国はソロモン・トンガ・バヌアツ・パプアニューギニア・パラオ・マーシャル・ミクロネシア・フィジーの大洋州8カ国に及び、職種も、看護師や栄養士のほか、野菜栽培、コミュニティ開発、家政・生活改善、などバラエティに富んでいます。
ネットワークをつくることになったのは、私が任国外旅行で他の大洋州諸国を訪ねた時の体験が発端です。
私はソロモンの首都ホニアラの保健医療サービス省のNCD対策課で活動しているのですが、任国外旅行でフィジーやバヌアツなどを訪れた時、現地の隊員の話を聞いたり病院を見学させてもらったりしたところ、ソロモンよりも医療体制やサービスが進んでいるとわかったのです。こうしたことを一緒に活動するCPたちにも見て刺激を受けてもらいたいと感じ、いずれCPを伴って各国間での広域研修をできないかと思い立ちました。その前段階として始めたのが、近隣国の関連職種の隊員とのつながりづくりです。
まず今年4月ごろLINEのノート機能で情報交換を始め、6月からは1カ月に1度、「NCDsの認知度」など毎回テーマを決めてZoom上で交流をしています。大洋州同士なので、国ごとの違いはありながらも基本的な食習慣や環境条件などが類似しており、相違点を比較しつつ相互のノウハウを吸収・導入していくのに都合が良い距離感です。また、生活習慣病には、野菜の流通不足や貧困などの問題も関わるので、多職種の隊員が参加してくれているのはありがたいです。
課題は通信環境で、ネット状況によってはコミュニケーションが取れない時があり、最大4時間の時差もあってミーティング時間の設定は難しかったりします。
今後に向けては、引き続きネットワークでの情報交換を重ねながら、元々やりたかった広域研修についてもオンラインでCPらを交えて実施できればと思い、みんなと計画しているところです。
※NCDs…「Non-Communicable Diseases」の略で、非感染性疾患の意。生活習慣病など、病原体への感染ではなく生活習慣や身体状況によって生じる病気を指す。
NEXT:大きなイベントを通じた協働(新井敦子さん/ウガンダ)
Text=大宮冬洋(本文)、飯渕一樹(扉・コラム 本誌) 写真提供=松田萌美さん、子安 藍さん