協力隊に参加した後も、引き続き国際協力に携わりたいと考える隊員は少なくない。そうした人に注目してほしいのが、JICAが設けている「JOCV枠UNV制度」だ。これは、国連ボランティア計画(UNV)がJICA海外協力隊経験者に向けて用意したポストに就いて、国連ボランティアとして活動するチャンスが与えられる制度。2025年12月現在、15カ国で19人が活躍している。今号の特集では、同制度を利用して国連機関にチャレンジした先輩隊員たちに、実際の活動について話を聞いた。
協力隊に参加した後も、引き続き国際協力に携わりたいと考える隊員は少なくない。そうした人に注目してほしいのが、JICAが設けている「JOCV枠UNV制度」だ。これは、国連ボランティア計画(UNV)がJICA海外協力隊経験者に向けて用意したポストに就いて、国連ボランティアとして活動するチャンスが与えられる制度。2025年12月現在、15カ国で19人が活躍している。今号の特集では、同制度を利用して国連機関にチャレンジした先輩隊員たちに、実際の活動について話を聞いた。
UNVは国際連合などの国際機関にボランティアを派遣する機関。JOCV枠UNV制度は長期派遣のOVが応募できる制度で、まずJICAに書類申請し、推薦を受ける必要がある。推薦を得られると、例年5~6月に公募されるJOCV枠UNVの特別なポストに応募することができる。応募後に、UNV事務局の書類選考、配属先となる国連機関の面接を受け、合格すれば国連ボランティアとして活動する。2025年の場合、16ポストの公募があり、応募者39人に対して国連ボランティア合格者は12人(辞退・取り消しを含むと14人)で、1つのポストに世界中から数百人の応募がある通常の国連ボランティア案件と比べて、競争率の面で格段に有利。JICAの同制度担当者は、「この制度で国連ボランティアを経験したOVの約70%が、UNV期間終了後も国連機関で働いており、ほかの人たちもJICAをはじめとする国際協力分野で活躍している人が大多数です。協力隊経験で培った共創力と行動力で、国連機関にぜひチャレンジしてください!」と話している。

ボリビア/コミュニティ開発/2014年度2次隊・東京都出身
気候変動の専門家として国際連合食糧農業機関(FAO)本部に勤務。幼い頃から国際協力に携わることを目指し、大学の英文科で学び、現地の人と関わりながら社会貢献ができることに魅力を感じて新卒で協力隊に参加。ボリビアで活動した後、イギリスのサセックス大学開発学研究所に留学。JOCV枠UNV制度を利用し、2018年から1年間、国際連合開発計画(UNDP)エルサルバドル事務所で活動した。19年に
JPO派遣制度でFAOに派遣され、現在も勤務を続けている。
「国際機関で働けるのは雲の上の人たちだけだと思っていた」という吉田蒔絵さん。しかし、2018年から国際連合開発計画(UNDP)エルサルバドル事務所で活動し、19年からはイタリア・ローマにある国際連合食糧農業機関(FAO)本部に勤務している。そのきっかけとなったのは協力隊での経験だ。
幼い頃から国際協力に関心があった吉田さんは、大学の英文科で学び、就職活動をする中で、協力隊のポスターを見かけて興味を引かれた。「人を通じて社会に貢献できる進路として、自分のやりたいことはこれだ」と確信し、新卒で協力隊に参加。
赴任したのはボリビア中部にあるコチャバンバ市のNGO。同市は「ボリビア第3の都市」といわれる大都市だが、市街地から車で2~3時間走ると、貧しい農村がいくつもある。そこは電気や水道が通っておらず、主に先住民たちが家畜や農作物を育てて自給自足している地域だ。配属先は住民たちが生活の質を高めることができるよう、食糧安全、健康、女性支援、識字教育といったプロジェクトを実施していた。
吉田さんは、1週間は都市部の住居、次の1週間は各農村で寝泊まりするという生活パターンを繰り返しながら、農村の住民たちと交流を深め、家庭菜園の支援や栄養教育のワークショップ、改良かまどの普及などを行った。この時、農村で住民たちと共に生活したことが、その後のキャリアを形成する原点となった。
「先住民たちは大地の恵みを大切にし、アンデスに伝わる母なる大地の神“パチャママ”信仰を守っていました。しかし、そうした自然と共に生きる生活は、干ばつや雹による被害など、自然災害の影響を強く受けます。農村では食べる物がジャガイモしかない状況も経験しました。気候変動はそうした自然災害の大きな原因の一つ。その気候変動の原因となる温室効果ガスを多く排出しているのは都市や先進国の人々なのに、先住民が不利益を被る状況に疑問を感じました。また、それを変えたいと思っても、1人の隊員には何もできないもどかしさや無力感がありました。農村での生活を経て、自分がやりたいことが明確になりました」
任期終了後、吉田さんはボリビアで起こっていることを体系的に理解するため、イギリスの大学院に留学し、気候変動・開発・政策学を専攻。卒業を前にして、国連で働く最初のステップとして、国際機関の現場が経験できる職場を探した。そこで着目したのがJOCV枠UNV制度だった。
「JOCV枠UNV制度を通じてUNDPエルサルバドル事務所のポストに合格しました。エルサルバドルといえば当時は世界でも有数の殺人事件発生数で知られていたし、国連ボランティアという身分で活動することがキャリアになるのか? 同時期に在ウルグアイ日本大使館からのオファーもあり、迷いました。そこで、当時、私がインターンで働いていた国連機関の駐日事務所の所長に相談したところ、『国連機関は、ボランティアであっても専門家として見なされ、自身の裁量範囲も広いので、貴重な経験になる』と後押しされ、国連ボランティアの道を選びました」
吉田さんはUNDPエルサルバドル事務所で“持続可能な開発専門家”として、主に環境、気候変動、生物多様性に関するプロジェクトのサポートなどを行った。
「主にコミュニティが対象となる協力隊活動とは異なり、UNDPでは国レベルの政策形成や、プロジェクトの進行に携わります。そのため、エルサルバドルの政情を把握する必要があるし、自分がどのように貢献できるか模索するなど、当初は戸惑いもありました。一方で、国レベルの気候変動政策の作成に参加したり、ラムサール条約に登録された湿地保全プロジェクトに関わったことは大きな経験となりました。また、環境大臣と直接やり取りをするなど、日々の業務がダイナミックだと感じました」
1年間の任期が満了した後は、外務省のJPO派遣制度(※)を利用して、19年からFAOの気候変動・環境・生物多様性局で働くことになった。JPOの任期終了後も引き続き国際コンサルタントとして勤務。気候変動専門家として、国際政策やプロジェクトに携わって6年になる。
「私の強みは、現地の最終受益者の顔が想像できることです。国連には本部での勤務経験しかない職員も多くいますが、政策を作る上で現地事情とのズレが生じることもあります。私は協力隊での経験から、政策が実施され、現地のコミュニティに届く時、どのような効果があるかを予想できます。国連機関での業務は、立場が違う各国の合意点を見つけるという長期間にわたるプロジェクトです。困難なこともありますし、多忙を極めていますが、大変な時には一緒に農村で生活した彼らのために仕事をしているんだ、と自分を奮い立たせています」
※JPO(Junior Professional Officer)派遣制度…国連経済社会理事会決議により設けられ、各国政府の費用負担を条件に国際機関が若手人材を受け入れる制度。日本では外務省が同制度による派遣を実施、35歳以下の日本人に対し2年間国際機関で勤務経験を積む機会を提供している。
UNVは協力隊活動と似通った部分が多いため、なるべく隊員としての経験をアピールするとよいでしょう。私は、ボリビア農村の住民とのプロジェクトを進めるため、現地語のケチュア語を習得し、彼らと一緒に生活しました。何も知らないところから、そうして現地に溶け込んで活動を進めていく力や、スペイン語能力、現場で工夫して何でもやっていけるバイタリティなどをアピールしました。
Text=阿部純一(本誌) 写真提供=吉田蒔絵さん