2025年に発足60周年を迎えたJICA海外協力隊。
その事業は、現地へ赴任して活動する隊員たちだけでなく、日本国内からその理念に協賛して“応援”してくれる多くの方々によっても支えられています。26年度の初めとなる本特集では、協力隊事業・協力隊OVの応援者たる産官学各界の皆様に、OVと関わって感じている印象や、協力隊事業の意義についての考えを伺いました。
2025年に発足60周年を迎えたJICA海外協力隊。
その事業は、現地へ赴任して活動する隊員たちだけでなく、日本国内からその理念に協賛して“応援”してくれる多くの方々によっても支えられています。26年度の初めとなる本特集では、協力隊事業・協力隊OVの応援者たる産官学各界の皆様に、OVと関わって感じている印象や、協力隊事業の意義についての考えを伺いました。
海外市場開拓事業部 企画推進部 部長
米澤俊義さん
弊社は1955年に楽器のヤマハ株式会社から派生して設立されましたが、その創業時から世界の人々の暮らしを豊かにしたいというビジョンが根底にあります。60年代にはアフリカ向けにオートバイの輸出を始めていて、社員が実際に出張して現地の人々の暮らしを見て回っていたそうです。弊社では現在も「モビリティが世界を変える」という言葉を掲げていますが、そうした点が、そもそも協力隊の方々との親和性を持っているのだと思います。70年代に初めて協力隊OVを採用して以来、数多くの方々に入社いただいていますが、近しい志があるからこそ、ヤマハ発動機を選んでいただけるのかもしれません。また、弊社としても、協力隊を経験した方ならば、ぜひおいでいただければと考えています。
私は昨年から当事業部に在籍しているのですが、協力隊OVか否か、社員をパッと見て違いを感じるかといわれると、実のところわかりません。新卒で入社して勤務している社員でも、特にアフリカなどの開発途上国で仕事をしたいと当事業部を希望する方がいます。そうした人はある種“変わり者”という点が共通しているかもしれませんが、積極性の点は協力隊OVと大きくは違いません。ただ、協力隊経験のある社員からは、現地社会への考察の深さを感じます。
弊社では直接に子会社を展開している欧米やASEAN諸国と別に、約140の国と地域にヤマハ発動機の看板を掲げる代理店を設けています。そうした現地の店を特約店と呼んでいるのですが、現地の人々とのコミュニケーション不全は往々にして生じます。そのような場面で、「彼らはこう考えるから、このように伝えないとわからないのでは」と、相手の立場に立って物事を考える姿勢が協力隊OVには多く見られます。それは単に語学試験のスコアが高ければできることではありませんし、やはり現地の人々と同じにおいや音を五感で知ってきた経験や感覚は、何物にも代え難いと思います。
もちろん、弊社として決めたことに現地の側から従ってもらう姿勢は必要で、①ヤマハ発動機のやり方を伝え、管理する駐在員、②本社から短期的に出張して回り、各国の状況を横断的に知る本社の社員、③協力隊OVといった3種類くらいの人材がいると、組織がうまく回るという印象があります。
協力隊経験ゆえなのか定かではない面もあるのですが、当事業部の藤本顕允さん(セネガル/コミュニティ開発/2014年度3次隊)には、優れていると個人的に感じる点があります。弊社では現地の特約店の方々が単に日々のビジネスを行うだけでなく、自発的に振り返りや改善もできるよう成長を促すことを掲げています。そのため、日本から赴くテリトリー営業担当者の役割・責任として、特約店の人々と目線を合わせての活動が主体となります。こうした直接のビジネスパートナーとのひざ詰めの会話も非常に大事なのですが、藤本さんなど協力隊OVの場合、JICAや大使館、国連機関などの公的機関を気負わずスッと訪ねて情報を集めるなど、活動や発想の自由度が高い印象です。社会で官民問わずいろいろな組織が活動している中、横のつながりを意識してうまく連携できれば、商売の広がりを持たせられるでしょう。そうした認識の有無は差が出るところで、それは協力隊でJICAなどの存在が身近にある世界を経験したおかげではないかと思っています。
現在、私も人事に携わる者として海外市場開拓事業部の業務に必要なスキルを人材要件定義の形に整理することを進めているのですが、協力隊OVが任期中に経てきた経験値はそうした定義に落とし込み難い。協力隊経験なしに協力隊のような特性を持つ人材を育てるのは、改めて難しいと感じています。
国や世界、あるいはテクノロジー分野のトピックと対比的ですが、すべては“人”に帰結するところがあり、仕事の上で人との信頼関係の大切さは昔も今も変わりません。弊社であれば出張者が年に2、3回現地を訪ね、合計滞在期間が年間2カ月ほどというのは、現地を知って人間関係をつくるには短い時間です。いわば現地の人の代弁者・仲介者というポジションに立てる協力隊OVには、これまでも大きく貢献してもらいましたし、今後もその存在に大きく期待するところです。
単に「ヤマハ発動機の製品は性能が良いんだ」と売り込むのでなく、それを選ぶことで彼らにどう良いことがあるのかという視点で魅力を伝え、さらにそうした売り方を現地の特約店にお願いする時に「やれ」ではなく、うまく説明して一緒にやっていく。協力隊OVの方が間に入ると、より相手側の懐に入り込むようなアプローチをできているように思いますので、これからも一緒に取り組んでいければと思います。
前述のように協力隊OVの方の強みは現場の肌感覚というところがあり、それは従来もこれからも変わらないと思います。加えて期待したいのは、昨今アフリカなどの途上国でも増えている、BOPビジネスに取り組むスタートアップ企業などと隊員時代から交流していただくことです。例えば、タンザニアの未電化の村落でランタンのレンタル事業を展開するベンチャー企業がありますが、テクノロジーを用いて安く採算を取るアプローチの仕方が面白く、勉強になります。
彼らのような組織の業務内容や理念、取り組みの肝といったことを任期中に知り、ご自身の知っている世界と異なる角度の課題解決方法も見聞きすると大きな財産になるのではないかと思います。他職種の隊員の活動などを見学することなども同じく有効かもしれませんが、先ほど述べたとおり、視野の広さは帰国後の仕事の中でも有用な資質になるので、お薦めです。あまり現地のさまざまな世界を知ってしまうと、弊社に応募していただけなくなってしまうかもしれませんが(笑)。
昨今、新卒採用者の海外志向が低減しているといわれますが、幸いにも弊社には海外の、特に途上国の現場を望む方がまだ少なからず応募してくれています。そうした若者がまだ一定数いるのは事実で、特にどっぷり現地に入り込みたいという方々の受け皿として、協力隊事業があるのだと思います。
もしも協力隊という選択肢がなければ、彼らは日本を離れ、活動の場を海外に移してしまうかもしれません。そして何か国際貢献の取り組みをするとしても、それが日本の看板でなく、欧米などの傘下での活動になるのはもったいない。60年間ぶれずに続いてきた協力隊事業が今後もあり続けること自体が、日本にとって大切なことではないかと思います。
Text=飯渕一樹 写真提供=ヤマハ発動機株式会社