職員が世界で鍛えた「突破力」が自治体の未来を開く

松本俊造さん

熊本県芦北町

熊本県南部に位置する人口約1万5,000人の自治体で、総面積の約8割を緑豊かな山々が占め、最高峰の大関山を源とする水が八代海に注ぐ。1995年度に「芦北町国際化・国際交流検討委員会」を設置して国際化への取り組みに注力しており、募金によるカンボジアでの学校建設事業などの国際協力に町を挙げて取り組んでいる。

副町長

松本俊造さん
協力隊事業を応援してくれる方々を知ろう!各界の応援者に伺う協力隊の魅力
芦北町の全景。八代海に面した温暖な気候で、漁業やかんきつ類の栽培が盛ん

町と協力隊事業の関わりについて教えてください

   芦北町役場からは、2001年から計4人の職員が協力隊へ現職参加をしてきました。役場からの現職参加以外の方々も含めると、町からこれまでに11人が参加。また、21年からは「グローカルプログラム(派遣前型)」(※)の実習生も受け入れています。

   元来、この町には約30年間に及ぶ国際貢献・海外人材育成への協力の土壌があります。現在の竹﨑一成町長が1994年に就任した際、公約の一つに「国際化」を掲げました。当時主流だった姉妹都市間交流のような活動にとどまらず、より時代に合った取り組みが必要という考えの下、町民の海外派遣やカンボジアからの研修生の受け入れ、同国に学校を建設する運動が始まったのです。学校建設の活動では町内のすべての小学生が募金活動やチャリティーバザーで寄付金を集める経験をしていて、町ではそれらの資金などをもとに、現在に至るまでに6校を“贈呈”しています。親子2代にわたって関わった経験のある町民も多く、国際貢献を無理せず自然な形で行う素地ができています。

   そうした背景の中、役場職員の一人が2000年に協力隊参加を希望したことから、協力隊事業との関わりも始まりました。

協力隊事業を応援してくれる方々を知ろう!各界の応援者に伺う協力隊の魅力
協力隊員時代の寺川さん(左)と上野さん(右)。上野さんは先輩である寺川さんに刺激を受けて協力隊への参加を希望したという

町役場に勤務する職員が現職参加することについての印象は?

   芦北町役場からの現職参加第1号は、この町で生まれ育って役場に勤めていた寺川廣治さん(ニカラグア/村落開発普及員/2001年度1次隊)です。当時、私も同じ課の別部署に所属する同僚でしたが、彼は役場を辞めて参加する覚悟だったようです。ですが、有為の人材を失いたくないという町長の考えもあり、条例が新たに制定されて現職参加への道が開かれました。熊本県内の町村では初めての事例です。

   小さな役場にとって、働き盛りの職員が2年間不在になるのは大きな戦力ダウンなのは事実です。しかし、志ある職員が外の世界を体験することは、長期的には組織のプラスになると考えています。海外での活動を通じて、町の中にいては身につかない視点や、「人としての大きさ」を携えて帰ってきてくれるからです。

   町役場の職員には、町民の方と言葉を交わして良い関係性を構築し、困り事を理解し、町民と一緒に解決する力が求められます。自ら地域に入っていって傾聴し、課題解決案を企画し、周囲を巻き込みながら実行する。協力隊でそうした力を増して帰ってくることには期待しています。現在も職員の蓑田真平さん(ボリビア/コミュニティ開発/2025年度1次隊)が現職参加で活動中ですが、役場としては職員の希望があればいつでも歓迎。「ダメだ」などとは言いません。

   ちなみに、遠い途上国に赴任することを心配されるご家族も当然います。例えば、現職参加経験者の一人である上野友晴さん(ボリビア/村落開発普及員/2006年度1次隊)は「地球の反対側に行くなんて!」とご両親から大反対されたといいます。上司が説得に当たるなどして無事に参加が実現しましたが、町のウェブサイトへ寄稿するブログ記事で彼が元気に活動している様子を知り、ご家族も安心されたそうです。昨今はビデオ通話なども一般化し、インターネット環境の充実が協力隊への参加をしやすくしていることを感じます。

協力隊事業を応援してくれる方々を知ろう!各界の応援者に伺う協力隊の魅力
今も芦北町役場に勤務する寺川さんと上野さん。「二人共コミュニケーション能力が高く、人望のある職員です」(松本副町長)

協力隊経験を経て復職した職員の方から感じる特質は?

   寺川さんは彼自身が能動的だったということもありますが、帰国後は自ら町内の学校へ行ってニカラグアでの体験を報告するなどの啓発活動にも積極的に取り組んでくれました。また、前述のとおり基礎自治体である町役場で必要な資質は、協力隊で得られる能力との親和性がありますが、これまで復職した職員のいずれも、特に発想力や突破力が従来以上についた印象です。企画財政課など新たな取り組みが求められる部署を回る傾向があり、地域にいろいろな立場の方がいる中で、新しいことを企画・プレゼンし、上手に説得しながらコミュニティへ入って働いてくれています。現在赴任中の蓑田さんも帰国後はそうした部署に勤務することになるかと思いますので、町民と関係性を築きながら、町の中心的人物として組織を束ねていける人材になっていくことを期待しています。

   また、現職参加者の一人である宮本武蔵さん(ガーナ/プログラムオフィサー/2008年度4次隊)は、現在は芦北町内の地域おこしに関わる民間企業に勤務しています。現職参加後は、町役場に戻って途上国で培った力を発揮してほしいという思いもありますが、それはそれで本人の選択。町を良くしていこうという仲間であることは変わりません。

グローカルプログラムの実習生について印象的なことは?

   新型コロナウイルスの感染拡大で協力隊派遣が延期になり、グローカルプログラムが立ち上がった当時から、町では候補者の方々を実習生として受け入れてきました。協力隊を目指す方々、すなわち自身の損得を抜きに世界に貢献したいという志を持った方々を町として受け入れることにし、地域づくり活動などに参加いただいてきました。

   これまでの実習生の方々はいずれも素晴らしい活動をされてきたと思いますが、個人的に特に印象に残っているのは、愛知県から来て実習に取り組んだ原武和琴さん(ケニア/コミュニティ開発/2023年度1次隊)です。町内にある御立岬公園という観光施設で活動していただいたのですが、とにかく明るい性格でコミュニケーション能力が高く、“逸材”というべき方でした。地域に溶け込んで積極的に動く姿勢は素晴らしいと感じて、協力隊の任期を終えたら町役場の職員採用試験を受けるように誘ったほどです。

   原武さんに職員となっていただくことは残念ながら実現していませんが、彼女は今でも町とのつながりを保ってくれているそうで、嬉しく思っています。


※グローカルプログラム(派遣前型)…青年海外協力隊・日系社会青年海外協力隊合格者の中の希望者が、派遣前訓練に先立って自治体などによる地域活性化・地方創生などの取り組みにOJT(On the Job Training)の形で参加する75日程度の研修。

JICA海外協力隊へのメッセージ

   先日、ボリビアで活動中の蓑田さんからのビデオメッセージが届いたのですが、赴任から数カ月でスペイン語が本当に上達しています。ボリビアで活動した先輩の上野さんも驚くほどで、本人の努力がうかがい知れましたし、現地の方々とも良好な関係を築いている様子でした。仕事の進め方が日本と異なる中で苦労もあるかと思いますが、初心を忘れることなく、現地社会に貢献したいとの思いをぜひ成就させてほしいと思っています。

   ODAも、何かを一方的に与えるのではなく、現地と日本の産業を融合させた取り組みなど、新しい形に変わっていかねばならないと聞きます。その中で、より多くの国々の底上げができるようJICAには引き続き貢献していただきたいですし、協力隊員が地域に入って課題に取り組み、ひいては国全体を動かしていく起点となれればと思います。そうした意味で、今後とも協力隊には期待していきたいです。

Text=大宮冬洋 写真提供=熊本県芦北町