日本人だからこそできることは?
開発途上国へ赴任すると、日本人というだけで嫌でも目立ち、珍しがられることが多いでしょう。本特集では、日本人だからこそできるアプローチで活動を展開した隊員の事例を紹介するほか、日本語教育隊員の方に、日本語・日本文化を伝える過程で感じた活動の意義を伺いました。これをヒントに、自分ならではの存在感の出し方を見いだしていただければと思います。
開発途上国へ赴任すると、日本人というだけで嫌でも目立ち、珍しがられることが多いでしょう。本特集では、日本人だからこそできるアプローチで活動を展開した隊員の事例を紹介するほか、日本語教育隊員の方に、日本語・日本文化を伝える過程で感じた活動の意義を伺いました。これをヒントに、自分ならではの存在感の出し方を見いだしていただければと思います。
ウズベキスタン/コミュニティ開発/2023年度2次隊・神奈川県出身
大学在学時に派遣留学にてイギリスのリーズ大学で開発学と博物館学を学ぶ。卒業後、積水化学工業株式会社に入社。車輛やモバイル向け素材の海外営業を経て、新事業開発部イノベーション推進グループに所属して社内ビジコンの制度設計に携わる。社のボランティア休職制度を利用して現職参加でウズベキスタンへ赴任し、隊員時代には現地の大学院で教育学とイノベーションの学位を取得。帰国後の現在は復職して活躍中。
JICA Innovation Quest(※)に参加してタジキスタンとの共創事業発案に取り組み、それを契機として「中央アジアにハマった」という小原瑠夏さん。ウズベキスタンの首都タシケントにあるウズベキスタン・日本青年技術革新センター(以下、UJICY)でのコミュニティ開発の案件を「まさに自分のための要請」と感じ、休職して協力隊に参加した。
UJICYは2016年にウズベキスタンと日本両政府の合意の下で設立された研究機関で、両国の大学や企業、研究機関などの連携を通じたイノベーションの創出を担う。「化学および石油化学ラボ」「鉱業および深層鉱物処理ラボ」「エネルギー、再生可能エネルギーおよび省エネルギーラボ」「機械工学および材料科学ラボ」の4つのラボがあり、計30人の職員・研究者などスタッフが勤務していた。
「スタッフと交流してイノベーションを啓発するような企画や広報活動をしてほしいという要請でしたが、いざ赴任するとカウンターパート(以下、CP)はおらず、ラボ間も縦割りでつながりが乏しく、具体的なニーズを見いだせない状況でした」
研究者たちはそれぞれのラボにこもり、廊下で会っても話したりすることはほとんどない。小原さんは焦りや不安を抱えていた。
転機が訪れたのは2年目だ。新しいCPが日本語に関心を示し、「日本語を教えてほしい」と人を集めてきたのだ。一瞬ためらいはあったが、小原さんはこれを一つのニーズと捉え、4つのラボをつなぐチームビルディングとしての日本語講座「日本語クラブ」を立ち上げた。
毎週月曜日、研究の合間に研究者や学生たちに日本語の挨拶や自己紹介などを教えたり、茶道や浴衣、習字などの日本文化体験イベントを開催したりする場を設けた。時には、他の隊員や日本から来た友人を招き、日本人と話す機会もつくった。そんな活動を重ねるうちに、ラボのトップを含め、さまざまな立場の人たちが参加するようになっていった。
中でも好評だったのが、巻き寿司イベントだ。小原さんは日程を決めてポスターを作成し、テレグラムで案内を共有。そしてボランティアルームにあった巻き簀や箸、法被などを確保し、当日は、米8合と粉末のすし酢、のりを用意した。
「具は、サーモン、クリームチーズ、チキン、キュウリなど、ムスリムの彼らが食べられそうなものを選定。初回は私が準備しましたが、2回目からはみんなすごく協力的になって、好きな具を持ってきてくれたり、手伝ったりしてくれました」
中には、ラボ内の3Dプリンターで寿司型を作成して持ってきた研究者もいた。「ソ連時代の影響か、仕事の仕組みは基本的に上意下達なので、彼らが自発的に何かを考えてする姿を見たのは初めてでした。寿司の魅力の大きさを感じました」。
活動を通じて、ニーズをつかむためには何げないコミュニケーションが大事だと気づいたという小原さん。「ウズベキスタン人にとって日本語学習はさほど必要ないといえますが、『相手が日本人なら日本語で挨拶や自己紹介をするほうが心は近づく。そのために日本語を習いたい』と言ってくれた人もいました。それを聞いて、ニーズは聞いて得るものではなく、一緒に食事や雑談する中で見えてくるものだと学びになりました」と振り返る。そして、隊員としての自身の存在意義についても、気づかされたことがあった。
「ラボの人たちが集まってくれたことが嬉しかったです。立場や職責、性別の垣根を越えて交流が生まれ、いい笑顔が見られたことに心が温かくなりました。私の役割は、そういう“場”をつくることでもあったのだと思います」
※JICA Innovation Quest…JICA内の新規事業アイデア公募により、組織の枠にとらわれないオープンイノベーションを掲げて発足した事業。さまざまな業種の人材を交えて新しい国際協力のアイデア創出を目指す主旨で、2018年度から22年度に実施された。
Text=秋山真由美 写真提供=小原瑠夏さん