
表彰式で取り組みを発表した受賞者の方々とJICAの田中明彦理事長(前列中央)。ムスクワ野原さんはマラウイからオンラインで発表し、当日はPenjani Malawi日本支部の豊田 萌さん(マラウイ/コミュニティ開発/2016年度3次隊、前列左)が出席した

4回目となる「JICA海外協力隊 帰国隊員社会還元表彰」の表彰式が6月に行われ、6人の受賞者による活動発表に加え、大賞が選出された。これは帰国後20年以内のOVを対象に、国内外、公私を問わず社会課題の解決に取り組んでいる人を表彰するもので、途上国での協力隊活動で磨かれた経験や知見を生かし、社会貢献につながる取り組みを推し進める目的で行われている。特集で紹介するに当たり、受賞者たちが受賞対象となった活動を軌道に乗せ、一定の成果に至るまでに培われた“モットー”や“行動指針”を伺ったので、協力隊活動のヒントにしてほしい。
大賞・開発協力実践賞
坪井 彩さん
ウガンダ/コミュニティ開発/2017年度3次隊・福井県出身
| 2013年 | 京都大学大学院修了後、パナソニック株式会社IT部門に入社 |
| 2017年 | 途上国向け人材を育てる社内のトレーニングプログラムに応募 |
| 2018~19年 | 民間連携で協力隊に参加。コミュニティ開発隊員としてウガンダで1年間活動 |
| 2019年 | 帰国後、復職し南アフリカ共和国とドバイに駐在 |
| 2020年 | 株式会社Sunda Technology Globalを設立 |
| 2021年 | SUNDAの取り組みが「第6回日本アントレプレナー大賞」を受賞。会社を退職しウガンダへ渡航 |
画期的な自動井戸水料金回収システムのアイデアは
協力隊員ならではの“現場主義”から生まれた
井戸の維持・管理を円滑に行うための画期的な水料金回収システムを開発し、導入したことが評価され、表彰式で大賞に輝いた坪井 彩さん。そのモットーは、“現場主義”だ。
「協力隊時代から現場主義を貫いてきました。仮説を考え続けるだけでは、課題解決への答えはなかなか出てこない。現場に入り、自分も当事者として観察し、問題は何かを理解する。そうして初めて、どんなソリューションを提供すればよいかを考えることができるようになると思います」
坪井さんがウガンダでの隊員活動で提供したソリューションは、従量課金型の自動井戸水料金回収システム「SUNDA」。
「ウガンダでは井戸や水栓を設置しても、ひとたび故障すると、修理のための費用が足りないため、使えないまま放置されるケースが多々あります。そこで、住民から水料金を徴収し、そのお金をメンテナンスや修理に充てる仕組みを作りたい。そのために開発したのがSUNDAです」
SUNDAの仕組みは、日本の交通系ICカードと同じようなプリペイド式だ。井戸を利用する住民は、配布されたSUNDAのICタグに料金をチャージしておく。井戸に設置されたSUNDAユニットにICタグを挿入すれば水をくむことができ、水量に応じた金額が差し引かれる。このアイデアは、どこから生まれたのだろうか。
SUNDAユニットを設置したハンドポンプ井戸を前に、Sunda Technology Globalのウガンダ人エンジニア2人と共に笑顔を見せる坪井さん
「まさに現場です。そもそも、なぜ井戸修理費は回収できていないのか。住民が共有している井戸だから、皆で少しずつお金を出し合って修理費用を賄えばいい。外から考えれば、そう思いますよね。そこである村へ行き、壊れた井戸を目の前にして、費用の回収に応じない人たちと個別に話しました。すると、『払ったお金が本当に修理に使われるのか分からない』という不信感があったり、水を少ししか使わない人もたくさん使う人も同じ額を払うという不公平感があったり、という事情が見えてきました。そういった声を聞いて初めて、SUNDAというソリューションが生まれたのです」
帰国後に株式会社Sunda Technology Globalを設立して、2021年には再びウガンダに戻り、首都カンパラを拠点に活動している坪井さん。現在、ウガンダでSUNDAを導入している井戸は約300カ所で、公共水栓への導入も増えている。運用成果を数字にし、政府や他の国際機関に共有しながら広げている最中だが、現場主義はますます強まっているという。
「事業を進める上ではさまざまな判断や問題解決が必要になりますが、現場をきちんと見て、答えを考える。その方針はずっと大切にしています」
振り返ってみると協力隊活動は、現場を知る絶好の機会だったと坪井さん。
「私自身、協力隊参加以前に社内ワークショップでアフリカの社会課題を解決する物作りに取り組みましたが、なかなか説得力のあるアイデアに達しませんでした。でも協力隊に参加して現場を知ったことで、課題を理解し、解決策を考え、それを社会に実装するところまで進めることができました。隊員の皆さんには、現場に行き、課題と向き合える時間があります。ぜひ2年間を有効活用してほしいです」
地域活性化賞
髙橋文彦さん
短期/ウガンダ/動物学/2012年度9次隊・神奈川県出身
| 1997年 | 専門学校卒業後、横浜市立よこはま動物園ズーラシアの開園メンバーとなる |
| 2012年 | 社会福祉法人神奈川民間保育園協会児童野外活動センターこどもの杜で動物飼育および教育普及イベントを担当 |
| 2013~14年 | JICA草の根技術協力事業の一環で短期隊員として1年間ウガンダ野生生物保全教育センターで活動 |
| 2014年 | JICA横浜でウガンダ野生生物保全事業などを担当 |
| 2019年 | 一般社団法人地球温暖化防止全国ネット脱炭素チャレンジカップ事務局で気候変動などの啓発事業を担当 |
| 2023年 | 株式会社ウェバレッジ設立 |
協力隊で身に付けた“動物ファースト”は
人間にも共通する相手の立場を尊重する精神
地域活性化賞を受賞した髙橋文彦さんは、三重県のごかつら池どうぶつパークと京都府の福知山市動物園の管理運営に携わっている。どちらの園も髙橋さんのモットーである“動物ファースト”の精神を運営に生かし、動物の保全を優先し、見学者が生物多様性や自然環境について学ぶことができる動物園を目指している。
「園で暮らす動物たちにとって適切な環境を整え、その動物らしい生き方ができることを優先させています。人間の都合だけで考えず、アニマルウェルフェア(動物の福祉)を守りながら、動物園を持続していきたいと考えています」
横浜市のズーラシアで勤務していた髙橋さんが、短期隊員としてウガンダへ渡ったのが2013年。その活動を通じて動物ファーストの考えが芽生えた。
配属先では、先進国で高く売れるヨウム、食肉目的で親が殺されたチンパンジーなどの野生動物を保護し、再び野生に戻すことを目的とした活動を行っていた。
「現実を見た時に衝撃を受けました。希少な野生動物が毎日のように保護されてくるのですが、元々は野生で生きてきた動物に対するため、ケアはあまり行き届いていない。また、野生に戻すにはリハビリが不可欠ですが、その技術が不足していました。さらに飼育スペースにも限りがある。そんな事情から、ほとんどの保護動物が死んでしまう状況がありました。私が担当した子ゾウも痩せ細り、いつ死ぬか分からない状態。そんな状況の中、命を守るために何ができるかが問われていました。一方、私自身は語学力不足から現地スタッフとのコミュニケーションはままならず、日本での経験がそのまま通用する環境でもない。『教えてあげよう』という気持ちは、すぐに打ち砕かれました」
ウガンダの配属先で髙橋さんの介護で健康を取り戻した子ゾウと現地のスタッフたち。今年、ウガンダを再訪した髙橋さんは立派に育ったゾウと十数年ぶりの再会を果たした
それでも、「できることをやろう」と覚悟を決め懸命に世話をするうち、ゾウの健康は回復し、髙橋さんに懐くようになった。その様子を見た現地のスタッフたちが驚いて「どうやって飼育したのか?」と質問をしてくるようになり、徐々に信頼関係ができていった。
「その時に学んだのは、相手の立場に立つことの大切さです。話すことができない動物はもちろん、人間でも同じだと思います。私の場合は“動物ファースト”ですが、協力隊員であれば“パートナーファースト”ということになるでしょう」
帰国後、株式会社ウェバレッジを設立。存続危機にあった動物園を改修し、ごかつら池どうぶつパークとしてリニューアルオープンさせた。
「以前は、過剰な餌やり体験などによって飼育環境が悪化し、閉園の危機にありました。そこで、種ごとに適切な環境を整えるところから再生を始めました」
25年には公益社団法人日本動物園水族館協会に加盟したことで、希少種の受け入れや保全体制の強化が可能になった。また、JICAとの連携派遣で自社スタッフをウガンダに派遣する事業も行っている。
「ウガンダに赴任した当初は苦しくて、『早く帰りたい』と思ったこともありましたが、今思うと、あの経験こそが私の財産です。動物も人間も一人では生きていけません。これからも動物ファーストを軸に世界をつないでいきたいです」
Text=池田純子 写真提供=坪井 彩さん、髙橋文彦さん
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